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9.この熱はあなたのせい

 翌日からルカルドは何かにつけて私に付き纏うようになった。


 授業を受ける時は必ず隣の席に座り、お昼はいつも一緒。

 移動教室も…。移動の際には必ず隣にいる状況だ。

 そのせいで私はクラスからは完全に浮いた存在になってしまっていた。


 元々目立たないように過ごすつもりだったし、Aクラスになった時点で友人を作るのは諦めていた。

 だけど、何を勘違いしたのか、王子にこんなにも絡まれる事になるなんて思ってもいなかった。

 正直疲れるし、勘弁してもらいたい。




 ***


 お昼休み、私はいつもの様にルカルドと外のテラス席に座っていた。


「あのっ……」


 私はいい加減我慢するのも辛くなって来て、困った顔でルカルドに声を掛けた。


「どうした? デザートのアイス、チョコの方が良かった? さっき迷ってたよな。俺が持って来てあげようか?」

「ち、違いますっ!!」


 私が違うと答えると、ルカルドは少し考えた後に「それなら、ストロベリーだったか?」と聞かれて私は苦笑した。

 完全に私は食い意地が張ってるキャラだと思われている様だ。


「そうじゃなくて、毎日私とお昼一緒にしてくれなくても大丈夫です」

「どうして?」


「ルカ様と一緒にお昼を食べたいって思ってる子は他にも沢山いると思うし、毎日私と一緒に食べても楽しくないですよね?」

「そんなことはない。シンリーは食べっぷりが良いから見てて気持ちが良いし、楽しいよ」


 私が言い返すと、ルカルドは表情を変えることなく当然の様にさらりと答えた。

 しかも本当に楽しそうな顔をしているから私は困ってしまう。


「でもっ、席もいつも隣だし、移動するのもいつも一緒だし、私とばっかり一緒にいても飽きませんか?」

「全く飽きないな。寧ろ楽しい位だ」


 そんな風に言われてしまうと、私は言葉を失ってしまう。


「そうしたいと頼んだのは俺の方だからね。シンリーは、俺と一緒に居るのは嫌か?」

「え?そ、そんなことは無いですけど……」


 本当は嫌だけど、嫌だなんて言えるわけがない!

 私が答えるとルカルドはにこっと笑って「それなら問題ないな」と言った。


「やっぱり、チョコもストロベリーも食べたいです」

「そうか、じゃあ持ってきてあげるよ。シンリーは待っていて」


 私がぼそっと言うと、ルカルドは立ち上がり取りに行ってくれた。

 私はルカルドの背中を眺めながら深くため息を漏らした。


 ルカルドはいつでも私には優しく接してくれる。

 だから一緒にいて、本気で嫌だと思っているわけではない。


 しかし、ルカルドは王子だ。だから変に気疲れしてしまう。

 平民である私なんかが傍に居て良い存在では無い事も理解している。


 そして最大の問題が、私が皇女だと勘違いしていることだ。

 どうしたら違うって分かってもらえるのだろう。


 そんなことを考えていたらルカルドが戻って来た。


「おまたせ。はい、スプーン」

「ありがとうございますっ……っ!?」


 ルカルドはアイスを机の上に置き、スプーンを私に手渡してくれた。

 手渡す瞬間、指同士が触れて私は思わず驚いて手を離してしまうと、スプーンは床に落ちてしまった。


「あ、ごめんなさいっ」

「大丈夫だよ」


 私は慌てて落ちたスプーンを拾おうとしゃがむと、ルカルドもスプーンに手を伸ばし同時に拾おうとしてしまった。

 顔を上げた瞬間、至近距離にルカルドの顔があった。

 その瞬間、息が止まるかと思った。


「……っ!」

「新しいのと変えて来るよ。シンリーは座って待ってて…」


 目の前に綺麗なルカルドの顔があり、私は固まってしまった。

 ルカルドは特に気にすることなくスプーンを手にすると、再び食堂の中へと入って行った。


(び、びっくりした……)


 私の鼓動は早くなり、顔には熱が走り真っ赤に染まっていた。

 突然の事に一人で慌てていると、暫くしてルカルドが戻って来た。


「今度は落とさないようにな」

「あ、ありがとう……」


 私はルカルドの顔を見ることが出来なかった。

 スプーンを受け取ると静かにアイスを食べ始めた。

 冷たいアイスを食べてるはずなのに、いくら経っても顔の熱が冷める気配は無かった。


「シンリー、顔が赤いけど、どうした?」

「え? あ、暑いからかな?」


 私が慌てて答えるとルカルドは不思議そうに「今日って別に暑くないよ?」と答えた。

 するとルカルドの掌が私の方に伸びて来て額に触れた。


「……っ!?」

「熱は、少し熱いな。体調は平気か?医務室に行くか?」


 ルカルドは心配そうな顔で私の事を覗き込んで来た。

 お願いだから、そんなにこっちを見ないで欲しい。


「大丈夫っ! アイス食べたらきっと下がるよ」

「そうか? 余計に体が冷えて良く無い気もするけどな。食べ終わったら一度医務室に行こう。連れて行ってあげるから心配しなくていいよ」


 この熱は体調が悪いからではない事は、自分が一番分かっていた。

 原因は目の前にいるルカルドだ。


 だけど恥ずかしくて、そんなことなど言えるはずも無かった。

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