7.私は嘘つきではありません
食堂のテラス席に私とルカルドは二人で座っていた。
数分前までは食事をする生徒達の賑やかな話声が聞こえて来たけど、ピークの時間を過ぎていくと徐々に周りからは人が居なくなっていった。
私は再びルカルドと二人になってしまい、とても困っていた。
そもそも王子であるルカルドと一体何を話せばいいのだろう。
そして、なんとなく続いているこの沈黙がとても気まずい。
「シンリーは、本当に平民なのか?」
「……どういう意味ですか?」
突然ルカルドに言われた言葉に私は戸惑った顔を見せた。
一体何故そんな質問をするのか、その意図が分からない。
「突然こんな事を聞いてすまない。だけど、シンリーは全属性魔法を使えると話していたよな。この世界で全属性を使える者は王族や、それに並ぶ血筋を持つ者、精霊と契約しているなど極僅かな者しか使えないと言われている。だからその、シンリーは……」
「……私が、嘘を付いていると言いたいのですか?」
私が眉間に皺を寄せながら答えると、ルカルドは苦笑して「すまない」と謝った。
私はルカルドに嘘つきだと思われているのだろうか。
「悪い。聞き方が悪かった。シンリーは素性を隠しているのか?」
「そんなことしてません。それに、嘘も付いてませんっ!」
私がむっとした表情で言うと、ルカルドは「ごめん」と再び謝った。
「どうしてそんな事、聞くんですか?」
「それは……。ある人に、似てるんだ。君を見ているとなんだか思い出すんだ」
「ある人?」
私が聞き返すとルカルドは遠くを見る様に切なそうな表情を見せた。
「昔の知り合いだ。見た目もそうだけど…、雰囲気もどこか似ているんだ。だからその、君がその人の親族か何かだと思ったんだけど、どうやら俺の勘違いだったみたいだな。気を悪くさせてしまってすまない」
ルカルドは本当にすまなさそうな顔をしていた。
「私、嘘つきだと思われているのかと思って睨みつけてしまってごめんなさいっ」
「いや、俺の方が悪い。だから謝る必要なんてないよ」
私は怒りでルカルドが王子だったことをすっかり忘れて睨んでしまい、慌てて謝った。
ルカルドは優しい表情で「気にする必要は無い」と言ってくれたので、とりあえずほっとした。
「私、本当に嘘はついていません!だけど、子供の頃の記憶がなくて。幼い頃、死にかけている所を今の両親に助けてもらったんです。それから、そのまま養子にしてくれて本当の娘の様に育ててくれて。だから私…、孤児だったんだと思います」
このまま、ルカルドに疑われたままでいるのはなんとなく嫌だったので、本当の事を話した。
別に隠すようなことでもなかったし、話しても問題はないと思った。
「……今の話、本当なのか?」
「はい」
私が話すとルカルドの表情が変わった。
「それはいつ頃の事か、覚えているか?」
「え?えっと…、今から10年くらい前だと思います」
「記憶が無いって、何も覚えてないのか?」
「……はい。どこから来たのかも、自分が誰なのかも一切覚えていませんでした。だから名前は今の両親が付けてくれたんです。未だに自分が誰だったのかは分からないけど、今は幸せなので過去のことは気にしない事にしました」
私がそう話すと、ルカルドは信じられないと言った顔で私の事を見つめていた。
やっぱり嘘だとまだ疑われているのだろうか。
「魔法は子供の頃から使えてました。嘘だと思うのなら見せますけど」
私が魔法を使っている所を見せれば嘘を言っていない事はすぐに分かってもらえると思う。
「シンリー、ラヴィニアと言う名前に聞き覚えは無いか?」
「ラヴィニア? すみません、分からないです」
そう言えば、初めて会った時ルカルドは私を見て『ラヴィ』って言っていた。
ルカルドが言っている、私に似てる人はそのラヴィニアって人の事なのだろうか。
だけどその言葉を聞いても一切何も感じるものは無かった。
「……そうか」
「その人がルカ様が言ってた…、私に似てるって言う人なんですか?」
私が問いかけると、ルカルドはふっと柔らかく笑った。
その表情はとても優しかった。
「ああ、そうだ。ラヴィニアは、俺の婚約者だった」