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46.寝顔

 ガタガタと馬車に体を揺られるのが心地よくて、私は暫く眠ってしまったようだ。


(ここは、馬車の中……?)


 車輪が回る音と、小さく体が揺れる感覚に、今自分がどこにいるのかを頭の中で想像した。

 意識が降りてくると、私はゆっくりと瞼を開き、ぼやけた視界の先を眺めるように周囲を見渡す。


「……ん」


 しかし、視界が薄らとぼやけていて、私は自分の指で目元を軽く擦る。

 すると次第に風景がはっきりと視界に映り込み、そこで漸く私の意識ははっきりと覚醒した。

 窓際に顔を傾けると、随分と風景も変わっている。

 もしかしたら、私は長い間、眠っていたのかもしれない。

 そして、隣から僅かではあるが寝息が聞こえてきて、私は静かに体を逆方向に傾けた。


(……っ!! ルカ様の寝顔だ……)


 ルカルドは気持ちよさそうに眠っている。

 今まで彼の寝顔を見たことがなくて、興奮と感動から私の心拍数はどくんどくんと徐々に上がっていく。


(ルカ様って、寝ている時はこういう表情するんだ。寝顔も綺麗だなんて、なんかずるいな……。でも、もうちょっとだけ見たいかも。こんな機会滅多にないし! い、いいよね)


 馬車の中には私とルカルドの二人しかいない。

 それなのに、私は周囲を確認するように、きょろきょろと視線を巡らせた。

 彼の寝顔を眺めていると、次第に私の頬は勝手に緩んでいく。


(ルカ様のまつ毛長いな。普段は恥ずかしくてあまりじっと見られないから、今のうちにたくさん見ておこう!)


 こんな特別な機会を逃すまいと、私はルカルドの顔を観察するようにじっと眺め、一人でころころと表情を変えていた。

 そんな時、ルカルドの瞳がぱちっと開いて視線が合う。


「シンリー?」

「……っ、わぁあ!!」


 私はびっくりして、思わず叫んでしまった。

 多分……、いや、間違いなく、私がニヤニヤしながらルカルドの顔を眺めていたのを見られたと思う。

 そう思うとどうしようもなく恥ずかしくて、私は慌てるように窓のほうに体ごとを傾けた。


(絶対、見られた……。どうしよう!)


 今になって自分のした行いを後悔したが、今さら遅いことは分かっている。

 先ほどとは違った意味でバクバクと心臓がなり、この狭い個室のような空間で、これからルカルドとどう接したらいいのか必死に考えていた。


「どうして逃げるんだ?」

「ひっ! な、なんでもないですっ!」


 突然背後から彼の声が響き、私はビクッと大きく体を震わせた。

 あまりにも大きすぎるリアクションをしてしまったせいか、背後からクスクスと笑い声が聞こえてくる。


「俺の寝顔、ずっと見てたよね? シンリーに見られているの、気づいていたよ」

「……っ!!」


「あんなにじっと見られていたら、当然気づくよ。シンリーは全然、俺の視線には気づいていないようだったけど」

「え、それって……あのっ、私の寝顔、見たんですか?」


 私はハッとして、彼のほうに体を戻した。

 するとルカルドは清々しいほどににっこりと微笑み「当然だ」と即答する。

 次第に私の頬は熱に包まれていき、恥ずかしさから動揺した顔を浮かべてしまう。


「なっ……!」

「お互い様だろう? それと、さっきのような無防備な姿は俺の前だけにしてくれ。他の男には見せたくない」


 ルカルドはどこか不満そうに目を細めると、ぼそりと呟いた。

 私はまたその言葉に翻弄され、頬がさらに熱くなっていくのを感じてしまう。


「シンリー、顔真っ赤。ほんと、素直に反応するよな」

「……っ、ルカ様が変なことばっか言うからですっ!」


「俺は別に変なことなんて言った覚えはないぞ。ただ、本音を口にしただけだ」

「……っ!!」


 彼は私の反応を見ると「くくっ」とおかしそうに笑っていた。


(絶対にからかわれた……!)


 そう思うと急に悔しさと恥ずかしさが込み上げてきて、私の頬の火照りはいつまでたっても収まることはなさそうだ。


(ルカ様の意地悪っ!!)


 思わずムッとした顔を向けてしまうが、それは照れ隠しであり、本当は少し嬉しかった。

 彼とこんな関係になれることをどこかで夢見ていたが、叶うことはないとずっと諦めていた。

 それに、なによりも、これから先もルカルドの傍にいれることが、なによりも嬉しい。


「少しいじめすぎたな。ごめん。怒ったか?」

「怒っていません……」


 私が俯きながら小さな声で呟くと、不意に耳元に彼の吐息がかかり「本当に?」と囁かれる。

 突然のことに驚いて私は慌てるように顔を上げた。


「やっと、こっちを見てくれたな」

「……っ!!」


 彼は満足そうに、それでいて優しく私に微笑んでいた。

 そんな顔を見てしまえば、不満など一気に消えてしまう。

 

「うん、怒ってなさそうだ」


 ルカルドは私の表情を確認すると安心したように呟き、今度は優しく頭を撫で始めた。

 彼に頭を撫でられるのは気持ちいいから好き。

 私はこれから先も彼に翻弄され続けるのだろう。

 だけど、それも悪くないのかもしれない。


(ルカ様、大好き……。こんな時間が、ずっと続いてくれたらいいな)

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