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45.馬車の中で

 一学期が終わり今日から、二カ月の長い休暇へと入る。

 私は実家に帰ることにしたのだが、先にルカルドの両親に挨拶をしに行くことになった。

 本当は一度実家に帰って、それからにしようと思っていたのだが、それだと実家と王城を往復しないといけなくなる。

 ルカルドは私が少しでも実家で過ごせるようにと計らってくれた。


(ルカ様には感謝しているけど……)


 彼は王子なので、当然その両親というのは国王になるわけだが、私は馬車の中で盛大に緊張していた。


「シンリー、今から緊張するのは早すぎないか? まだ着くまでに数時間はかかるぞ?」

「ルカ様っ! 緊張しない方法を私に教えてくださいっ」


 馬車の中で隣に座るルカルドに、私は懇願するように意見を求める。

 記憶の一部が戻り、自分が皇女であることを思い出したのだが、それはもう十年も前の話だ。

 今まで平民として過ごして来たので、貴族としての振る舞いも分からない。

 そんな私がいきなり国王に会うなんてことになっても、まともな対応が出来るとは到底思えなかった。


(私には無理だわ! ……逃げたい)


 今の私は半泣き状態といっても過言ではないだろう。

 それくらい動揺している。


「緊張しない方法か。それならば、少し眠っていくっていうのはどうだ? 着く頃には俺が起こしてあげるから、眠っていいぞ」

「……分かりました。では、おやすみなさいっ!」


 私はルカルドとは逆方向に顔を傾けようとすると、ルカルドの手が伸びてきて私の頬に触れた。

 そして自分の肩のほうに私の顔を傾けさせる。


「顔はこっち。俺の肩に寄り掛かったほうが楽だろ? それにこれだとシンリーの可愛い寝顔がいつでも見られるから、俺としても嬉しい」

「……っ!! だ、だめですっ! そんなことしたら、私が眠れなくなっちゃいますっ!」


 私は顔を赤く染めながら、慌てて離れようとした。


「目を瞑ったら、俺が見てるのだって分からなくなるだろ? 試してみようか。シンリー、このまま目を瞑ってみて?」

「……はいっ」


 私は困惑しながらも小さく答えると、目を瞑ってみた。

 視界が真っ暗になり、確かに何も見えない。


「どう? 何も見えないだろ?」

「……っ! ルカ様っ、耳元でいきなり囁かないでくださいっ!」


 ルカルドに耳元で囁かれると、私はびくっと体を震わせて慌てて目を開く。

 本当に彼は悪戯好きだ。前よりも意地悪に感じるのは絶対に気のせいではない。


「シンリー、もう意地悪しないから眠っていいよ。俺の肩に凭れていいから」

「本当に……?」


 私が疑うような目付きを向けると、ルカルドは苦笑していた。

 少しやり過ぎたことを反省している様子に見えたので、私は再び静かに目を閉じる。

 すると膝の上に置いていた手が温かくなるのを感じた。

 彼の体温が妙に気持ち良くて、安心して、これはこのままにしておいて欲しいと感じる。


(ルカ様の手、温かくて気持ちがいいな……)

 

 次第に私の意識はふわふわとし始めて、次第に意識が遠のいていく。

 そんな中「おやすみ、シンリー」と優しい声が遠くから聞こえた気がした。

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