43.密談へ②-ロベルトside-
玉座の前に着くと、僕は足を止め深々と頭を下げた。
「この度は、話し合う時間を作って頂きありがとうございます」
「……うむ、顔を上げよ。久しいな、ロベルト」
父に名前を呼ばれて僕はゆっくりと顔を上げた。
どうやら周りには父以外の姿は無く、既に人払いがされている様だった。
「父上、お久しぶりです。偽装に使ったこれは外させて頂きます」
「お前がそこまで入念にするとは、余程の事なのだろうな」
僕はローブとウィッグを外すと、漸く少しほっと出来た。
ここに来るまでは誰にも僕が王子である事がバレる訳にはいかず、口調も変えたり色々と気を遣っていた。
だけど漸くこれを外して、父である皇帝と顔を合わせることが出来た。
久しぶりに父の顔を見れたことで、ほっとしたという意味もあるのだろう。
「はい。回りくどい説明の前に結論から申し上げます。我が妹であるラヴィニアは生きています」
「……なん、だと?」
僕がラヴィニアが生きている真実を述べると、父は大層驚いていた。
「ラヴィニアは誘拐された時に受けた怪我が原因で記憶を失っていました。今は僕が通っている魔法学園の1年生として在学しています。この事実を知っているのは僕と、ドラグレス大国の王太子であるルカルド殿下だけです」
「……本当に、ラヴィニアなのか?」
「はい。今はシンリーと名乗っていますが、つい最近記憶の一部を思い出した様で間違いありません」
「……こんなことがあるなんて、信じられん。ラヴィニアが、生きている……」
父は声を震わせ、目からは涙が薄らと浮かんでいる様だった。
「本来なら連れて来たかったんですが、出来ない事情がありました。それでルカルド殿下に協力してもらい、今回こういった形で極秘で父上に会いに来ました」
「それはどういう事だ? 私に分かる様に話してくれ」
「はい、シンリーは記憶の一部を取り戻したと先ほど話しましたが、真犯人に繋がりそうな情報を聞きました。真犯人は父上を恨んでいる人間で間違いありません。彼女本人は名前の部分だけは、まだ思い出せない様ですが、僕はラヴィニアを誘拐する様に仕組んだ黒幕は……、皇妃だと思っています」
「……っ!」
僕ははっきりとそう告げると、父は一瞬驚いた顔をした後に苦虫を噛み潰した様な表情を見せた。
「その根拠はあるのか?」
「勿論です」
僕は幼い頃に見て来た王妃の言動を、覚えている限り全て話した。
今までずっと怖くて誰にも話せず、心にしまい込んでいた事だけに、少し声が震えてしまう場面はあったがシンリーを守るためだと自分に言い聞かせ、最後まで言い切った。
「……リヴィアが、そんなことを……! 私がもっと早くに気付いてればラヴィニアも、ロゼもこんな事にはならずに済んだのかもしれないな」
父は顔を歪め悔いる様に、声を押し殺しながら呟いた。
「シンリーが、ラヴィニアが生きていることがもう少し早く分かれば、最期にロゼ様に会わせることも出来たのに……。残念でなりません」
「……ああ、その事なんだがな。ロゼは生きているんだ」
僕はその言葉を聞いて驚き顔を上げた。
「何者かに命を狙われている事もあり、死んだ事に見せかけてある所で保護して貰っている」
「まさか、その命を狙っているっていうのは……」
「ああ、リヴィアで間違いないだろうな。私も何とかしてリヴィアがしたという証拠を探しているんだが、あの女は逃げるのが上手くていつも証拠が掴めない。立場的に皇妃であるから、確実な証拠が無い限り処罰も難しい」
「……その事なんですが、恐らく内部に皇妃と繋がっている者がいるのだと思います。ラヴィニアが誘拐された時も、皇妃一人で誘拐を企てて実行まで持って行くなんてどう考えても無理だ。頭の切れる者が付いているとしか思えません」
僕がそう答えると、父は考えた様に難しい顔をしていた。
「……例えば、側近の中にいるとは思いませんか? 父上の考えを良く分かっている人物など」
「側近か。考えたくは無いが、可能性の一つとして探ってみよう」
限りなく犯人は王妃で間違いないとは思うが、証拠が無いから現状は処罰も出来ないと言う事らしい。
だけどロゼが生きていると知り、僕は心からほっとした。
シンリーに辛い報告をしなくて済んだからだ。
「父上、もう一つ気になることがあります。恐らくラヴィニアが精霊の契約者で間違いないと思います」
「ラヴィニアが……?」
僕はシンリーから聞いた、誘拐された時の話を父に話した。
崖から突き落とされた時に優しい光に包まれたと話していた事、そしてシンリーが全属性を使える事を伝えた。
父はその話を聞いて「そうか」と重々しい表情を見せていた。
「わが国にはあの子が必要と言う事か。どうしてあの子にばかり……」
「……父上、ラヴィニアはルカルド殿下と恋仲です。僕はラヴィニアには幸せになって欲しいと思っています。だから一緒にその手立てを考えては貰えないでしょうか?……僕は、以前は怖くて何も出来なかった。だけどもう、ラヴィニアだけが辛い思いをする事には耐えられない。ラヴィニアを救える手立てがあるのなら、なんだってする所存です。どうか、力をお貸し下さい」
僕は悲痛な声で話すと、深々と頭を下げた。
「そうか、ラヴィニアがルカルド王子と恋仲か。元々二人は婚約者同士だったんだ。私はそれを邪魔するつもりは無いし、私だって娘には幸せになって欲しいと願っている。だから力を貸すのは当然のことだ」
「父上! ありがとうございます……」
父は優しい表情を見せてそう話した。
僕はそれを聞けてほっとした。
その後も、僕は父と今度の事を深々と話し合った。