38.告白
それから暫くしてロベルトは学園を休学した。
私は正式に生徒会の一員となった。
制服にはまだ慣れていないけど、以前に比べたら周りからの視線には少しだけ耐性がついて来たかも知れない。
ロレッタの起こした事件は学園内に噂として広がり、そのおかげで私に酷い事を言う令嬢達はほぼ居なくなった。
そしてロレッタの件が落ち着いた後も、ルカルドはいつも私の傍にいてくれた。
「シンリー、今日の放課後少し話したい事があるんだ」
休み時間、隣に座るルカルドからそう言われた。
色々と話したい事があるとの事らしい。
今日は生徒会の集まりもないし、私は特には予定も無かったので放課後いつもの場所でルカルドと会う事になった。
***
「今日も美味しそうなお菓子を用意して頂き、ありがとうございますっ」
「この焼き菓子、以前シンリーがすごい美味しいって喜んでくれたからな」
私の為に用意してくれたみたいに言われると、嬉しくて少し舞い上がってしまいそうになる。
「シンリー、食べながらで構わないから少し俺の話を聞いてて」
「はい……」
ルカルドは美味しそうにお菓子を食べてる私を満足そうに眺めながら話し始めた。
「まずは聞きたくはないだろうけどロレッタ・フランシスの話から。当事者のシンリーには知る権利があるだろうからな。ロレッタ嬢は昨日王宮の地下牢へと入れられた。教室で魔法を使おうとして周りにいる生徒達にも危害を加えようとしたことが大問題になっているんだ。学園に通う生徒の親達が相次いで抗議をして来ていて、恐らく死罪は免れないだろうな」
「そん、な……。使う前に止めたのに?」
「……ああ。あの時ロベルト皇子とシモンズ先生が現れなかったらどうなっていたかわからないからな。それにAクラスの生徒は上位貴族が多い。だから余計にまずかったんだと思う。それだけじゃない、ロレッタ嬢は禁魔法書を持ち出したということもある。フランシス公爵が必死になって動いているようだが、ロレッタ嬢は罪を重ね過ぎた。フランシス公爵だけの力じゃどうにもならないだろうな」
「……」
「厳しい事を言ってると思われるかもしれないが、彼女がしたことは決して許されることじゃない。彼女はそれだけの事をしたのだから、罰を受けるのは当然だ」
ルカルドは淡々とした口調で話していた。
恐らくルカルドはロレッタを助ける気は無いのだろう。
「それからロレッタの傍にいた二人については爵位を剥奪した後に、修道院に送られることに決まった」
「そうですか……」
私はそんな話を聞かされすっかり表情を曇らせていた。
そんな私を見てルカルドは困った顔をした。
「後味は悪いよな。だけど自業自得だ。もう彼女達とは会う事はないだろうし、シンリーは忘れた方がいい」
「はい……」
忘れろと言われても簡単に忘れられる様な事では無い。
でもロレッタがしたことは許される事では無い事は私も理解はしている。
一歩間違えれば大惨事になっていたのかもしれないのだから。
「話を変えようか……」
ルカルドは苦笑すると、席を立ち上がり私の隣へと座った。
「シンリーには話してはいなかったけど、ロベルト皇子が休学する前に一度彼と話をしたんだ。全てを納得することは出来なかったけど、シンリーを守りたいと言う気持ちだけは同じだったからな。協力することになったんだ」
ルカルドは落ち着いた口調でそう言った。
あの後ロベルトが動いてくれたんだと思うと、心が少し軽くなった。
私にはロベルトもルカルドも二人とも大切だから、そんな二人にはいがみ合って欲しくはなかった。
ましてや元はと言えば私のことから生まれた誤解だ。
「ロベルト皇子は帝国に戻って、皇帝に色々と事情を説明しているはずだ。ロベルト皇子からシンリーを襲った真犯人に心当たりがある事も聞いてる。それについても調べてくれるそうだ。だからシンリーは何も不安がる事なんて無いからな。勿論、ここでは俺がシンリーを守るから」
「迷惑ばかりかけてしまって、ごめんなさい」
私が申し訳なさそうに答えると、ルカルドは首を振った。
「謝る必要なんて無い。俺がそうしたいから勝手にしているだけだからな。シンリー、俺にとってシンリーはかけがえのない存在だ。だから守るのは当然の事だ」
「……ルカ様は本当に優しいですね」
「色々事情があって時間がかかってしまったけど、ようやく伝えられる」
「……?」
ルカルドはどこかほっとした様な表情を浮かべると、私の手をぎゅっと握った。
私は突然ルカルドに手を握られ、ドキドキして鼓動が早くなった。
「シンリー、俺はシンリーが大好きだ」
ルカルドは優しい表情で私を見つめると、そう言った。
私は突然の事で何も答えることが出来なかった。
「全てが解決したら正式に婚約の申し入れをさせてもらうつもりだ」
「それって……」
「俺はシンリーとこれからもずっと一緒に居たいと思ってるんだ。シンリーは俺といるのは嫌か?」
私は慌てる様に首を横に何度も振った。
それを見てルカルドは「良かった」と安心した様に呟いた。
「シンリーといるだけで俺はいつだって幸せな気分になれるんだ。シンリーが笑顔を見せると俺まで嬉しくなるし、シンリーが悩んでいたら助けたいって思う。気付けばいつも君の事ばかり考えてる。俺はもうシンリーから離れるなんて出来ない。だからシンリーがもし俺の事が嫌いだと言ったとしても、簡単には諦めるつもりなんてないからな」
「……本当、に?」
私は夢を見ているのだろうか。
信じられないと言った顔でルカルドを見つめながら、震えた声で聞いた。
するとルカルドは優しくふっと笑った。
「俺はシンリーの事が好きだよ」