37.やるべきこと-ロベルトside-
「……はぁ、どうしたものかな」
シンリーが帰った後、僕は深くため息を漏らした。
やっとシンリーとゆっくり話せる時間が作れた。
僕はずっと伝えたかった事を漸く話す事が出来て、その話をシンリーは最後までちゃんと聞いてくれた。
僕達はたった1か月で彼女を探すのを諦めたのに、シンリーは一切責めるような言葉は言わなかった。
もう10年も前の事だからあまり気にしていないのだろうか。
この話をしたら恨まれるかもしれないと覚悟はしていた。
中々話せなかったのは、シンリーに嫌われてしまうのが怖かったからだ。
だけど彼女はそんな素振りは見せることなく、僕の心配までしてくれた。
僕の周りの人間は自分の事を最優先に考える者が多かったから、不思議な気分だった。
それにしても、どうしてあの子はあんなにも可愛らしいんだろう。
シンリーが妹で無ければ僕が貰ってしまいたいくらいだ。
ルカルド王子にきつい言葉を向けてしまうのは、そういった気持ちも少なからずあったのかもしれない。
――だけど、もしラヴィニアが契約者だとすれば帝国から離れることは出来なくなる。
そうなれば、ルカルド王子との結婚は難しくなるだろう。
僕は悲しむシンリーの顔が見たく無くて、その事は言えなかった。
だけどいつかは伝えなければならない。
それだけじゃない。
結界は日に日に弱まっていっている。
だから少しでも早く帝国に連れて行き、彼女が契約者かどうか確かめる必要がある。
そうなればラヴィニアは生きていると言う事実を伝えなければならなくなる。
だけどあの人がラヴィニアの誘拐を指示した黒幕だとすれば、再び彼女の事を狙うだろう。
そんな事は二度とさせる訳にはいかない。
そうなって来るとルカルド王子の協力が必要となる。
恐らく彼も、シンリーの事を思っているのだろう。
シンリーの為だと話せば必ず協力してくれるはずだ。
僕はオルヴィス帝国の皇子として国を守りたいと思う気持ちと、兄として妹には幸せになって欲しいと言う二つの気持ちを持っていた。
勿論両方とも諦めるつもりは無い。
強引に彼女を連れ帰って、帝国の為に尽くせなんてそんな酷い事は絶対に言うつもりはない。
だけどこれは僕の一存で決められる事では無い。
だから話すべき人間にまずは伝えなければならない。
彼女の身の安全を確保する為にも必要な事だ。
「暫く、学園からは離れることになりそうだな」
僕はぼそりと独り言を呟いた。