34.兄と妹
ロレッタの起こした事件から数日後の事だった。
私はクラスメイトであり友人であるステラから休日お茶でもしながらゆっくり話そうと誘われ、ある屋敷にと来ていた。
その屋敷には何故かロベルトの姿もあった。
「シンリー、驚かせてしまってごめんね。こうでもしないと君とゆっくり話せる機会が作れないと思ってステラに頼んだんだ」
「……」
ロベルトは済まなそうな顔で私を見つめていた。
「ごめんなさい、シンリーさん。シンリーさんに近づいたのはロベルト様に頼まれたからなの。シンリーさんを見守るために、ね。でも結果的に騙すような形になってしまったけど、私は本当にシンリーさんに憧れていたわ! それに本当に友人だと思ってる。……今でもね」
ステラは切なそうな表情をしていた。
確かに今の話を聞く限りステラが私に近づいたのはロベルトの指示があったからで間違いないのだろう。
しかしステラからはロレッタの時の様な悪意は一切感じられなかった。
それにステラは一度私を助けてくれたこともある。
ロベルトは私の兄だ。
妹である私を見守る為という理由もあり得なくはない話だ…。
それにロベルトとはいつかはちゃんと向き合って話さなければいけないことは分かっていた。
それが少しだけ早まっただけの話、そう思う事にした。
「ステラ、ありがとう」
「ええ、いいのよ。それでは私はこれで失礼するわね。シンリーさん、もし宜しければ今度は本当に一緒にお茶をしましょう?」
ステラは少し寂しそうな顔をしながら私を見つめていた。
だけど私は何も言葉を返すことが出来なかった。
ステラはそのまま部屋を出て行った。
そして私はロベルトと二人きりになってしまった。
「ステラの事、責めないでやって欲しい。そう頼んだのは僕だからね。ステラは僕の事を思ってそうしてくれたんだ。それにステラはシンリーと友人になれた事、とても嬉しそうに話していたよ」
「……はい、分かってます」
ステラの顔を見てればそれが嘘じゃない事くらい私には分かっていた。
だからステラを責める気はない。
ただ今はどう答えていいのか分からなくて何も言えなかった、それだけだ。
「シンリー、いつまでもそこに立っていないでこっちに来て座ったら?」
「……はい」
私はそう言われると少し困惑した顔を見せるも、ロベルトに言われた通り椅子に腰かけた。
「腑に落ちない顔をしているね。まぁ、こんなやり方をして君を呼んだんだからそう思われても仕方ないとは思ってる。だけど、どうしても一度シンリーとちゃんと話をしたいと思っていたんだ。それにシンリーだって僕に聞きたい事は色々あるんだろ? 可愛いシンリーの質問にはなんだって答えてあげるよ」
ロベルトは小さく笑った。
「でも、まずは僕の話から聞いてもらおうかな。その方が後々話しやすくなるだろうからね」
ロベルトはそう告げると、落ち着いた口調で話し始めた。
「シンリー、君が記憶喪失である事は知ってる。そして君は間違いなく僕の妹であるラヴィニアだ。初めてシンリーを見た時に直ぐに気付いたよ。まさかこんな形で再会出来るなんて思ってもいなかった」
「……ラヴィニアは病死じゃなかったんですか?」
「ルカルド王子から聞いたのか? そうだね、ラヴィは病死なんかじゃない。本当は誘拐されたんだ。だけどその事を公表できない理由があったんだ」