32.私の味方
「私がラヴィニアと言う事は、黙っていてもらえませんか?」
私は不安そうな表情でルカルドを見つめていた。
もし私がラヴィニアだと周りに知られれば、また私は命を狙われることになるかもしれない。
もうあんな怖い思いは二度としたくはない。
それにラヴィニアは皇女だ。
オルヴィス帝国にこの事実が伝われば、きっと連れ戻されてしまうだろう。
だけど私はそんなことは望んではいない。
出来ればこのままシンリーとして生きていきたい。
私には助けてくれた両親がいて本当の両親だと今でも思っている。
暮らしは決して裕福ではないけど、それでも幸せだと感じているし、まだ親孝行だって何一つ出来ていない。
それに限られた時間ではあるけど、ルカルドと一緒に学園生活を送りたい。
私はまだルカルドとは離れたくなかった。
「そうだな。ラヴィの命を狙った黒幕が分かってない以上、伏せておいた方がいいかもしれない。今公表すればそれこそ連れ戻されて何をされるか分からないからな。シンリー、そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。俺がシンリーの傍にいる。これからは些細な事でも構わないから、なんでも俺に話して欲しい…。そうしないとシンリーの事を守れない。俺をもっと信用して欲しい。いつだって俺はシンリーの味方だって事は忘れないで」
ルカルドは真直ぐに私を見つめていた。その瞳は心配している様に見えた。
そして優しい声が私の心に響き、目の奥が熱くなっていくのを感じた。
「ルカ様、色々迷惑ばかりかけてごめんなさい」
私が薄っすらと涙目で謝ると、ルカルドは「シンリーの事を迷惑だなんて思った事は一度もないよ」と柔らかな口調で言ってくれて私の涙を指で拭ってくれた。
ルカルドはいつだって私に優しく接してくれる。
そして私の言葉を信じて受け入れてくれる。
ずっと嫌われたくなくて、迷惑を掛けないようにしようとして何も口に出さずにいた。
だけどそれが返ってルカルドに心配をさせてしまっていたのだと気付いた。
「ルカ様は本当に優し過ぎます。私、そんなに優しくされたら勘違いしちゃいそうです」
私はへらっと笑って、冗談ぽく言って見せた。
「シンリー、俺は……」
「大丈夫です、ルカ様の気持ちは分かっています」
ルカルドは慌てて何かを言おうとしている様だったが、私は笑顔を見せてルカルドの言葉を遮る様に答えた。
そんな私の態度を見たルカルドは、困惑している様に見えた。
「「……」」
なんとなく変な空気になり、お互い無言になってしまった。
「私、今日は疲れたので、そろそろ部屋に戻りますね」
「ああ、そうだな。今日はゆっくり休んで」
私が立ち上がろうとするとルカルドは「待って」と言って続けた。
「シンリー、今の君なら分かっているとは思うけど、ロベルト皇子には気を付けた方が良い。君の兄に対してこんな事を言うのは良く無いとは思うけど、オルヴィス帝国がラヴィの死を隠蔽したのは事実だ。ロベルト皇子がその事を知っているのかは分からないが、シンリーがラヴィだと分かれば何かを仕掛けて来る可能性もある。生徒会に入ったら会う機会は増えることになるけど、なるべく二人きりで会うのは避けて欲しい」
「そうですよね。気を付けます」
私がそう答えると、ルカルドはほっとした顔をしていた。
「それから、聞きたくない名前かもしれないがロレッタの件はもう既に動いてる。数日中にロレッタとその取り巻きだったあの二人の強制退学が決まった」
「……強制退学ですか」
「ああ。だからシンリーはもうあの3人に怯える必要は無い。ロレッタに関しては爵位を剥奪した上で、投獄される事も既に決まっている。本当はここまでするつもりは無かったが、超えてはならない一線を越えてしまったからな」
「……」
私はあの3人ともう顔を合わさなくて済むと思うと、心からほっとした。
だけど投獄と聞くと、少しやり過ぎなんじゃないかとも思ってしまう。
一度はそう言葉に出そうと思ったが、怖い思いはもうしたくないという感情が邪魔をして言葉に出すことは出来なかった。
「シンリーが暗い牢に一人きりで閉じ込められてどんなに怖い思いをしたか、身を持って知ればいい。それで自分のした愚かな行為を一生後悔すればいいさ。それだけの事をしたんだからな」
ルカルドの瞳は怒りで満ちている様だった。
まだ全てが解決したわけではないけど、ロレッタの件はこれで一段落したのだと思っていた。