28.贈り物-ルカルドside-
「頼んだものは出来ているか?」
「はい、こちらになります」
そこには琥珀色の花の形をした可愛らしい髪飾りがあった。
俺はそれを見て満足した。
シンリーは喜んでくれるだろうか。
俺はそんな彼女の笑顔を見たくて、今回この髪飾りを作らせた。
それだけじゃない。
俺がプレゼントした物を、彼女に身に着けてもらいたいという欲もあった。
シンリーとの出会いは、魔法学園の入学式の事だった。
彼女の容姿は幼い頃に婚約者だった、ラヴィの面影をどことなく感じさせていた。
だから思わず話しかけてしまった。
俺はずっとラヴィについての真実を知りたかった。
ラヴィは病死なんかじゃない。
オルヴィス帝国は何かを隠してる…、それは間違いない。
あんなに元気だったラヴィが突然病気で死ぬなんてあり得ないからだ。
俺はラヴィの死について調べたけど、関係者は全員口を噤み真実を語る者は誰も居なかった。
恐らくオルヴィス帝国は箝口令を敷いたのだろう。
どうしてそんなにもラヴィの真相を追っていたのかと言うと、ラヴィは俺の心を救ってくれた恩人だからだ。
そして初恋でもあった。
だから初めてシンリーを見た時、目を奪われた。
まるでラヴィの生まれ変わりなんじゃないかと思う程に。
シンリーは年齢や容姿、更には記憶喪失の点を考えるとラヴィでは無いとしても、ラヴィの件に関わっている可能性は高い。
彼女の琥珀色の瞳は皇族にしかない瞳の色だ。
間違いなくシンリーは皇族の血を受け継いでいる。
だから俺は彼女に近づいた。
彼女の近くにいたらラヴィの真相について何か分かることがあるかもしれないと期待した。
最初はラヴィに重ねて見てた部分もあったかもしれない。
だけどシンリーはラヴィに似てる様で、似てない部分も多い。
俺はいつしかラヴィではなくシンリーに惹かれていった。
シンリーを守りたいと言う気持ちは元々あったけど、それよりはただシンリーの傍に、隣にいたかった。
シンリーはとても可愛い。
笑顔も可愛いけど、焦って照れてる顔とか怒った顔を見ていると、全てを独り占めしたくなってしまう。
いつしか他の誰にも渡したくないと思うようになっていた。
そして、シンリーの周りには何かと敵が多かった。
まずはオルヴィス帝国のロベルト・イル・オルヴィス
恐らく一番厄介な相手であり、シンリーを一番近づけたくない人物だ。
我が国ドラグレスとは同盟は結んでいるが、俺個人としてはオルヴィス帝国の連中は信用していない。
ロベルトは危険だ。
あの男は何を考えいるのか読めないから、今後も注意を向けていないといけない。
シンリーに接触して来るし、更には俺達を生徒会に入れることを決めた。
俺を入れたのは恐らく、体裁の為だろう。
だけど傍でシンリーを守れるのだから安心だ。
それからロレッタ・フランシス
俺の婚約者候補に入ってる女だ。
この女は昔から苦手だった。
まだ候補でありながら、婚約者気取りをしている。
俺と仲が良い令嬢に酷い言葉を浴びせたり、嫌がらせなど平気でする女だ。
この女が俺の婚約者の最有力候補とか本当に勘弁してもらいたい。
シンリーを貶めた償いは必ずさせようと思っている。
その取り巻きも同罪だ。
それからシンリーを悪く言う貴族達。
彼等には彼女に手出ししたらどうなるのか、しっかり教えないとならない。
シンリーを傷付ける者は誰だって俺が許さない。
俺はシンリーが大好きだ。
結婚するならシンリー以外にはもう考えられない。
だけどシンリーは恐らく皇族だ。
そうなってくると色々と問題が生じて来る。
一応、王妃である母上にはその事は伝えてある。
***
俺が店を出ると、従者の一人が俺の元にやって来た。
一応これでも俺は王族だから、学園を出る時には従者を付けている。
だけど折角のシンリーとのデートを楽しみたくて、遠くから見守ってもらうように頼んであった。
シンリーを待たせてる間、従者の一人を彼女の傍に置いていた。
「ルカルド殿下、問題が起きました」
「何かあったのか?」
「シンリー様が、ロレッタ・フランシス公爵令嬢に誘拐されました」
「なん……だと?」
俺は従者のその言葉を聞くと、血の気が引いた。
「居場所は分かっているのか?」
「はい、場所は特定しています。今すぐ行かれますか?」
従者の言葉に「当然だ!」と思わず声を上げてしまった。
俺は焦る気持ちを抑えながら、従者に案内してもらいシンリーが捕らえられている場所まで急いで向かった。