24.馬車で街に
今日は休日なので私服を着ていた。
学園は寮暮らしの為、私服を着る機会は少ないと思いあまり実家から持って来なかった事を後悔していた。
昨日の夜は鏡の前で何時間も一人で着せ替えをしては、鏡と睨めっこしていた。
数時間悩んだ挙句、パステルピンクのフリルのワンピースを選んだ。
(ちょっと幼く見えるかな)
私は準備を済ませると、ルカルドと待ち合わせをしている場所まで向かった。
学園から街までは馬車で20分程度かかる。
馬車に乗る方法は自分で手配するか、もしくは定期的に往復している乗合馬車に乗車するかのどちらかになる。
普段一人で街に出る時は乗合馬車に乗るのだが、今回はルカルドが馬車を手配してくれることになっている。
私が少し早めに待ち合わせの場所に到着すると、すでにルカルドの姿もあり馬車も到着している様だった。
「ルカ様っ、遅れてしまいすいません」
私はルカルドの姿を見つけると走って向かった。
走ったせいで私は息を切らしていた。
そこにいたルカルドは白いシャツに黒いベストを着ていた。
制服よりも大人っぽく見えて、なんだかドキドキしてしまう。
(ルカ様、素敵すぎますっ!)
「シンリー、遅刻じゃないよ。走って来なくても良かったのに」
「でもルカ様の方が早いじゃないですかっ!」
「それはシンリーを待たせたら悪いと思って、約束の時間を少しずらさせてもらったんだ」
「……っ!!」
ルカルドは当然の様にさらっと答えた。
(そういう所まで気を遣ってくれるとか。ルカ様、優しすぎだよ)
「今日のシンリーはなんだか可愛いらしいな。制服以外のシンリーを見るのは新鮮でいいな」
「ちょっと、子供っぽいかな」
可愛いと言われて、やっぱり子供っぽく見えているのかなと一人でショックを受けていると、突然ルカルドに手を握られた。
「そんなことないよ。すごく似合ってるよ、シンリーはそういう服が好きなんだな。すごく可愛い」
「……っ」
可愛いって連呼しないで欲しい。
恥ずかしくて私の顔はみるみる真っ赤に染まっていってしまう。
「照れているのか? 可愛いな。じゃあ行こうか」
「照れてませんっ!」
私が必死な顔で言い返すもルカルドは楽しそうに笑っていて、そのまま私の手を引いて馬車に乗せてくれた。
馬車に乗ると狭い密閉空間に二人きりになってしまい、胸の鼓動が速くなる。
しかも向かい合わせに乗ってるせいで、視線を向ける先に困ってしまう。
ルカルドが合図をすると馬車は走り出し、街へと向かい走り出した。
***
ガタガタガタと馬車の車輪が回る音が響いていた。
それと同時に私の心臓はバクバクとすごい速さで鳴っている。
「今日は事前に回る所を調べて来たんだ」
「ルカ様は、どこか行きたい所でもあるんですか?」
「調べたって言うか、ベンノに聞いただけなんだけどな」
「ベンノさんに?」
「シンリーってお菓子が好きだろ?だから人気のカフェとか、菓子店とかな。まあ、色々だ。だから今日は楽しみにしてて」
「好きですけど。やっぱり私って食い意地が張ってるキャラが定着してますね」
私の為に調べてくれたのは嬉しいけど、やっぱりそういうキャラに思われているのはなんだか悲しい。
「ぷっ、でもそれって俺はすごく可愛い事だと思うけどな。シンリーらしくてさ」
「それ、褒めてくれているんですか?あんまり嬉しくないけど」
私は不満そうな顔でむっとルカルドを見つめていた。
また可愛いと言われて照れてしまう。
「シンリーってさ、こういう話題されると本当に分かりやすい反応するよな」
「どういう意味ですか?」
私が不思議そうに問いかけると、ルカルドは「どういう意味だろうな」と茶化す様に答えた。
完全に揶揄われている様な気がして、私はそれ以上聞くことを止めた。
「今日は初めてシンリーと二人で街に行くから楽しみにしていたんだ」
「わ、私もっ! ルカ様と街に行くのすごく楽しみにしてました!」
ルカルドは優しい表情で微笑んでいた。
その言葉が嬉しくて先程の感情など忘れて、気付けばはしゃぐような笑顔で答えていた。
(どうしよう! もう今の時点ですごく楽しいっ)