21.報告-ロベルトside-
「シンリーの様子はどうだ?」
「とりあえずルカルド殿下が傍に付いている様だから、あれから彼女達は何もして来ては無さそうね。だけどそれよりも厄介なことになっているわ」
僕が質問を投げかけると、ステラは思い返す様に話し始めた。
僕の名前はロベルト・イル・オルヴィス
オルヴィス帝国の第二皇子であり、この魔法学園で生徒会長をしている。
そして僕と向かい合うように座っているのは昔からの友人であるステラ・カルディアだった。
僕は今、友人であるステラを生徒会専用の温室庭園に呼んで報告を受けている。
ステラにはしばらく前から、シンリーの事を見守る様に頼んでいた。
だからあの騒ぎの時、偶然ステラがその場に居合わせというわけではない。
こんな事になるとは思ってはいなかったが、ステラに頼んで良かったと思ってる。
本来なら僕が自ら見守っていたい所だけど、生徒会長をやっているので何かと忙しくて時間的に傍に居ることは厳しい。
そこでシンリーと同じクラスのステラに頼んだというわけだ。
「厄介なこと?」
「今まで黙っていた貴族の令嬢達が、ここぞと言わんばかりにシンリーさんに酷い言葉を向けたり、嫌がらせをしているみたいなの。私もなるべく気を付けてはいるんだけど、どうしても一人の時間が出来てしまうから」
ステラの話を聞いて、込み上げる怒りを抑えながら「そうか」と小さく呟いた。
「シンリーさん、酷い事をされてもその事をルカルド殿下にも伝えて無さそうなの。私がその現場を見た時に声をかけたら『大したことないから大丈夫です』って笑って流されたわ。気丈に振る舞っている様だったけど、あんなことが何度も続けば心も折れてしまうわ。だから心配なのよ」
「シンリーを傷付けた者達の名前はしっかりと書き留めといてくれ。証拠になるからな。それに、ロレッタ・フランシスか。彼女にはいずれ責任を取らせるつもりではいるけど、言い逃れ出来ないくらいの証拠が必要だね」
今回の騒ぎについてはまだ何も解決してはいない。
ロレッタ自身はシンリーに突き落とされたと未だに言い張っている。
しかも彼女には口裏を合わせる取り巻きまでいる。
ステラが証言をしているが、一人だけなので信憑性が薄いと判断されてしまうだろう。
ロレッタは公爵令嬢で、シンリーは平民だ。
この学園の8割は貴族、周りの生徒達がどちらを信じるかは分かり切っている。
(本当に陰湿な女だ。シンリーを貶めたこと、必ず後悔させてやる……)
「ロベルト様、顔が怖いですよ。責任って貴方が言われると怖いわ」
「シンリーを陥れたのだから、それ相応の処分は必ず取らせる。当然の事だとは思わないか?」
ステラは「処分」と聞いて苦笑していた。
「でもロレッタ様はドラグレス国の人間よ、しかも公爵家。ここはルカルド殿下に任せておいた方が得策じゃないかしら?」
「あの男は信用できない。そもそもあの事件だって、ドラグレス国が絡んでいた可能性がある。出来る事ならシンリーをあの男からすぐにでも引き離したいくらいだ」
ルカルド・エーリ・ドラグレス…、俺はあの男の事を信用などしていない。
寧ろ敵だと思っているくらいだ。
あの男の傍にいつもシンリーがいると考えるだけで、心配でたまらない気持ちになる。
せめて、シンリーを僕の傍に置いておくことが出来れば――。
「今年の新入生の生徒会役員は、まだ決まって無かったね」
思い出したかのようにボソッと独り言を呟いた。
「ステラ、僕は良いことを思いついたよ。シンリーを生徒会に入れる。彼女はAクラスだし問題は無いだろう」
「ロベルト様、生徒会役員を思いつきで決めるのはさすがにどうかと思いますが、私も賛成です」
「生徒会に入ればシンリーの事を責める者は減るだろうな。もし、いたとしてもその時は僕から強く言えるからね」
僕は口端を上げて不敵に笑った。
皇族であり、生徒会長の僕に意見を言うような命知らずな者なんていないはずだ。
「そうと決まれば色々と準備をしないとね。僕は手続きの方をするから、ステラはシンリーの生徒会用の制服の手配を頼めるかな?」
「私は雑用ではありませんよっ」
僕が楽しそうに話しているとステラは「もうっ!」と呆れたように言った。
「ごめんね、ステラ。今度ステラが好きな紅茶を取り寄せておくから許してくれないか?」
「し、仕方ないわね」
ステラは少し不満そうな顔をしていたが、納得してくれたようでほっとした。
生徒会に選出されると、本人の意思とは関係なく強制的に入ってもらう事になる。
それがこの学園での決まりであり、それを決めるのは生徒会長である僕の役目。
シンリーには悪いけど、彼女を守るためだ。
もう二度と傷付けさせたりなんてしない。
やっと見つけたんだ。
だから今度こそ、僕が絶対に守って見せる。