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2.魔法学園に入学しました

 私は最小限の荷物を詰め込んだ鞄を持ち、今日から自分の部屋となる室内に入った。

 ここでは学園に入学すると一人一部屋与えられる。

 しかし、部屋の間取りはすべてが同じなわけではない。

 この学園は貴族の寄付金によって成り立っているため、高貴族には特別な部屋が用意されるそうだ。

 私には無縁な場所なので、興味もないが。


 中に入るとこじんまりとしているものの、私にとっては十分過ぎるくらいだった。

 室内にはベッドに机、クローゼットなどがあり、奥には洗面所やトイレ、それに浴場まで完備されている。


「うそ……、浴場までついてるの!? すごいわ……。本当にこの部屋を私が使ってもいいの……?」


 私は胸を躍らせ、はしゃぐように室内を歩き回る。

 通常、平民の家には浴場なんて大層なものは置かれていない。

 一人用の小さなスペースではあるが、それでも私にとっては信じられないほど嬉しかった。


 興奮が少し落ち着いてきたところで持ってきた荷物の片付けを始めたが、あまり時間はからなかった。

 クローゼットを開けると、中には制服がかけられている。


(わぁ、すごくかわいい! これが制服なのね……)


 白いブラウスに、黒いプリーツスカート、赤いリボン、そして黒いローブ。

 それから黒いニーソックスに黒い革靴。

 これが一般的な女子生徒の制服になる。

 生徒会メンバーなら全身白色の制服になるらしい。

 男子生徒はネクタイで、女子生徒はリボン。

 その色はクラスによって異なる。


 クラスは完全に能力順に割り振られていて、上からAクラス(赤)、Bクラス(緑)、Cクラス(黄)となっている。


「赤ってことは、えっと……Aクラスってこと?」


 私は制服のリボンを見た瞬間、あまりに驚いてその場に暫く立ち尽くしてしまった。

 まさか自分がAクラスになるなんて、信じられない。


「なにかの間違い、かな……」


 私はなにも疑うことなく、自分はCクラスになると思っていた。

 だけどこのリボンの色を見る限りAクラスであることは間違いはない。

 そして、恐らくAクラスにはほぼ貴族しかいない気がする。


(どうしよう……。まずはそう、確認しに行かなきゃ……! 私がAクラスなんて絶対におかしいわ!」


 不安を感じていると、学園に鐘の音が鳴り響いた。

 正直、この制服を着ていいのか戸惑ったが、初日から遅刻をするのはかなりまずい。

 それこそ悪目立ちしてしまうというものだ。


「仕方ない。とりえず、今はこれを着ておこう。入学式が終わったら確認すればきっと大丈夫なはず」


 私は一人で納得すると、慌ててクローゼットから制服を取り出し着替え始めた。

 着替え終えると部屋の隅にある姿見の前に行き、おかしいところはないか最終確認をする。

 ここには多くの貴族が在籍しており、変な格好をして初日から目を付けられたくはないからだ。

「うん、大丈夫」と独り言を呟くと部屋をあとにした。



 ***



 入学式は講堂で行われる。

 すでに多くの生徒が集まっていて、私もその人混みの中に溶け込むように入っていく。

 どこに行けばいいのか分からなくてフラフラとしていると、ふいに誰かにぶつかってしまう。


「あ、ごめんなさいっ……」

「いや、俺のほうこそ前を見ていなかった。すまない」


 私は慌てて謝り顔を上げると、目の前に立つ人物に一瞬で心を奪われた。

 漆黒のさらさらの髪に、宝石のような翡翠の瞳。

 顔立ちはとてつもなく端麗で、見惚れてしまうほどの美しさだ。


「――ラヴィ……?」

「え?」


 彼は小さく口元を動かすと、驚いたような表情で私を見ていた。

 その顔は幻でも見ているような、と表現するのが一番近いのかもしれない。

 だけど、それはほんの一瞬ですぐに表情を戻した。


「まさか、な。そんなこと、ありえない……」

「……?」


 彼は僅かに目を細め小さく呟いていたが、当然私にはなんのことか分からなかった。


「ああ、悪い。今のは忘れてくれ。君の名前を聞いても構わないだろうか?」

「はい、私はシンリーと言います」


 私が名乗ると彼は「どこの家の者か聞いても?」と続けるように問いかけてきたので、私は苦笑する。

 綺麗な立ち姿や、品のある雰囲気から彼は間違いなく貴族なのだろう。

 相手が貴族なのだと分かると、私は急に緊張してきてしまう。


「えっと、私は貴族の生まれではなくて」

「…………」


 私が困った顔で答えると、彼はハッとしてばつが悪そうに「すまない」と謝ってきた。


「あ、謝らないでくださいっ!」

「俺は名はルカルド・エーリ・ドラグレス。君と同じAクラスだ」


 私はその名前を聞いたとき、どことなく不思議な感覚がした。


「ルカ、ルド……?」

「一応、ドラグレス国の王子だ。だけど、気を遣う必要はないよ。この学園では身分は平等とされているからね。これからクラスメイトとしてよろしくな、シンリー」


 ルカルドが王子であることを知ると、驚きのあまり私は固まってしまった。

 聞き覚えのあるような名前の響きだったのは、きっと彼が王子だったからなのだろう。

 噂かなにかで聞いた、おそらくはそんなところだろう。


(王子って……。どうしよう、私……、普通に喋っちゃったけど不敬罪にはならないよね?)


 まさか一番最初に話しかけられたのが王子だなんて想像すらしていなかったし、どう接していいのかも平民育ちの私には分からない。

 そのうえ、焦りから頭の中がパニック状態に陥っていく。


「そんなに固まらないでくれ。俺のほうが困ってしまう。ああ、そうだ。折角同じAクラスなんだし、一緒に行かないか?」

「いえいえ! む、無理ですっ……そんなの。恐れ多くて私にはっ」


 私はどうしていいのか分からず焦っていると、そんな姿を眺めていたルカルドは突然笑い始めた。


「ぷっ、シンリーは面白いな。俺の誘いを断るのか」

「えっ!? そういうわけでは……」


(いきなり笑った!? 怒ってないの? どうしよう、断りたい! でも、さすがに断るなんて失礼なことできない。それこそ不敬に問われたりするかも……)


 愉しそうに話すルカルドとは違い、私はさらに動揺してしまう。

 私は今まで貴族と関わった経験がほとんどない。

 しかも相手が王子なのだから、なおさらだ。


「嘘だよ、ごめん。シンリーの反応が面白くて少しからかってしまった。これ以上困らせたら可哀そうだから、今は諦めるよ。では、また後で」

「……はい」


 ルカルドはそう言うと講堂の中に消えていった。

 彼の姿が視界から見えなくなるのを確認するとやっと安心できて、私の口元からは「はぁ」と深いため息が漏れる。


(いきなり王子に話しかけられるとか、本当にびっくりした。でも、怖そうな人じゃなくて良かった。怒ってないみたいだし、大丈夫……だよね)


 彼はAクラスだと話していた。

 そのときハッとなにかを思い出して、慌てて教員らしい人間を探し回った。


(平民の私が王子と同じAクラスなんて絶対におかしいわ。確認してもらわないと……)


 そのあと無事に教員を見つけて確認してもらった結果、私のクラスについてはAクラスで間違いないとのことだった。

 信じられなくて私がその場に立ち尽くしていると、周囲が急に騒がしくなる。


「新入生の皆さん、そろそろ式が始まります。中にお入りください」


 入学式がそろそろ始まるようで、係員の者が講堂の前にいる生徒に向かって呼びかけている。


「とりあえず、私も行こう……」


 戸惑いが消えたわけではなかったが、促されるように私も講堂の中へと入っていく。

 こうして私の学園生活は波乱と共に幕を開けた。

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