15.お菓子作り①
私は放課後、調理室に来ていた。
ここは申請をすれば誰でも自由に使う事が出来る。
予約制であり、割と人気の様で1か月先まで予約が取れなかった。
そして今日漸くこの場所を使えることが出来る。
その為、朝からずっと楽しみでそわそわしていた。
お菓子作りに必要な道具は大抵揃っていた。
食材については、事前に申請しておけばその殆どを用意してもらえるので、申し込む際に何を作るかを予め決めておいた。
「シンリーは何を作るの?」
私が準備をしていると、興味津々と言わんばかりにルカルドがその様子を眺めていた。
以前は放課後まで一緒にいることはなかったのだが、ロベルトと接触した後から放課後までルカルドは私について回るようになった。
「今日はクッキーを焼いてみようと思います」
「いいな、俺も何か手伝うよ」
私が『手伝う』という言葉を聞いて驚いた顔を見せてしまうと、ルカルドは苦笑した。
「そんなに驚いた顔するなよ。俺が王子だから何も出来ないと思っているだろ?」
「いえ、そんなことはないですけど……」
ルカルドは不満そうな顔をしてきたので、私は濁す様に答えた。
しかし、正直なところ私はその通りだと思っていた。
だって料理をするルカルドの姿なんて想像が出来なかったからだ。
「やり方さえ教えてくれたら手伝うよ」
「分かりました。それじゃあ、混ぜるのを手伝ってもらってもいいですか?」
私は材料を入れたボウルをルカルドに渡した。
「これを混ぜればいいんだな?」
「はい、お願いしますっ…」
まさかルカルドと一緒にお菓子作りをする日が来るなんて思ってもいなかった。
最初は緊張していたけど、始めて見ると結構楽しかった。
やっぱり誰かと一緒に作っているからそう思えるのかもしれない。
(ルカ様がお菓子作りしてる…。信じられない気分だけど、なんだか楽しいな…)
「シンリーは、良く作ったりしてるのか?」
「クッキーですか? 家にいた頃は良く作ってましたね、手軽に作れて美味しいし」
「そうなのか。完成が楽しみだ」
「今日はルカ様も手伝ってくれたので、きっといつも以上に美味しいものが出来るはずです!」
私が笑顔で答えると、ルカルドは私の事をじっと見つめていた。
その視線に気付き「なんですか?」と私は尋ねた。
「シンリーの目がキラキラ輝いていて、本当にお菓子作りが好きなんだなって伝わって来たよ」
思わずそんなことを言われてしまうと私は照れてしまった。
頬が火照っている様に熱くなる。
「わ、私は食い意地が張っているのでっ!」
「ぷっ、そんな事誰も言ってないよ。ただ可愛いなって思っただけだ」
私が思わず焦ってそんな事を漏らしてしまうと、ルカルドは可笑しそうに笑っていた。
可愛いと言われると更に照れてしまう。
「シンリーの顔真っ赤だ。照れているのか?可愛いな」
「……っ、可愛くなんて無いですっ! 私の事からかうのは止めてください」
私が顔を染めながら困った顔で答えると、ルカルドは「シンリーは分かりやすいな」と笑っていた。
ルカルドは本当に王子なのか分からなくなる時がある。
こんなに近い距離で普通に喋っていて、今なんて一緒にお菓子作りをしている。
良くからかわれたりするけど、本気で嫌だと思ったことは無いし、気付けばドキドキしている。
胸の奥が熱くなって、苦しくなる。
それに、最近は一緒に過ごす時間が妙に楽しく感じて、気付けば笑顔になってる。
この気持ちは初めてだった。
これが恋というものなのだろうか。
だけど、そんな気持ちは持ってはいけない。
私は平民で、ルカルドは王子。
いくら学園内では身分は平等とされていると言っても、本当の意味では違う事を私はちゃんと理解している。
それにルカルドが私に優しくしてくれているのは、私がラヴィニアに似ているから。
ルカルドが見てるのは私ではなくラヴィニアだ。
だから私はルカルドを好きになったりはしない。
好きになっても報われない事は分かっているから。