12.ロベルトとの出会い①
ロレッタにお茶に誘われた日から、何故か私はロレッタのグループに混じる機会が多くなっていった。
その分、ルカルドといる時間は減っていた。
ルカルドといると気疲れするけど、それ以上にロレッタのグループに混ざってる方が場違いと気まずさで気分が重くなる。
何故ロレッタが私をここまで気に掛けてくれるのか理由が分からない。
友人がいないから可哀そうとでも思ってくれているのだろうか。
もしそうだとすれば、その気持ちは有難いけど私は一人でも全然平気なので放っておいて欲しい。
あの気まずいお茶会から、ロレッタに誘われる度に気が重くなる。
***
「はぁ……」
私は廊下を歩いてると思わずため息を漏らした。
「どうした? そんなため息なんて漏らして」
隣を歩くルカルドは顔を傾けながら私に問いかけて来た。
「いえ、ちょっと最近色々疲れていて」
私は苦笑しながら答えた。
ロレッタグループから回避したと思ったら、今度はルカルドに捕まってしまった。
「最近、シンリーはロレッタ嬢と良く一緒にいるみたいだけど、何かされていないか?」
「何か? お茶に誘われたり、休日街で買い物に誘われたりはしています」
私がそう答えると、ルカルドは「仲が良いのか?」と聞かれて私は苦笑した。
「ロレッタ様は優しい方の様で、私に良くしてくれています」
「そうか」
私にとっては有難迷惑以外の何物でもなかったけど、そんなことは言えるはずも無かった。
私の言葉にルカルドは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「ロレッタ様はルカ様の婚約者候補なんですよね?」
「……一応な」
私が問いかけるとルカルドは表情を曇らせながらそう呟いた。
前から思っていたけど、ルカルドはロレッタに対してあまり良い反応をしない。
以前もロレッタを避けようとしていたし、何か二人の間にはあるのだろうか。
だけどそんなことは聞けるはずもなかった。
「あ、シンリーさん。貴女を探していたのよ」
「……」
私の教室の前でシルヴィアとメアリーが待ち伏せしていた。
メアリーは私を見つけると、すぐに声をかけてきた。
私は心情がばれないように笑顔を装った。
「メアリー様にシルヴィア様、どうされたんですか?」
「シンリーさんにお話があるの。ルカルド殿下、そういう事なのでシンリーさんをお借りしても宜しいでしょうか?」
シルヴィアは落ち着いた口調で隣にいたルカルドに話しかけた。
ルカルドは私の方を心配そうに見ていたが「ちょっと呼ばれたのでお話聞いてきます」と答え二人に付いて行った。
***
私達は人通りのあまりない階段の前に来ていた。
「シンリーさんて、ルカルド殿下と仲が宜しいのね?」
「クラスメイトなので、良くしてもらっているだけです」
シルヴィアは目を細めながら関心する様に聞いて来た。
こんな人気のない場所を選ぶなんて、なんだか嫌な予感がする。
「分かっているとは思うけど、ルカルド殿下はロレッタ様の思い人なのよ。私達応援するってこの前決めたわよね? それともシンリーさんはルカルド殿下に好意でも持っているのかしら?」
「まさか。恐れ多くてそんなこと思ってません」
メアリーは少しきつめの口調でくぎを刺す様に言ってきた。
私は慌てて否定した。
私だって、そんなことは言われなくたって分かっている。
「それなら、あまりルカルド殿下に近づくのは止めて頂けませんか?」
「私も出来ればそうしたいんですが、ルカ様が何かと気に掛けてくれて」
「ルカ様?殿下に対してその呼び方はどうかと思うわ」
「それもそうなんですが本人が、ルカ様がそう呼んで欲しいって言ってきたので仕方なく……」
私は明らかに二人から責められている。
突然の事で焦ってしまい、思わずそう答えてしまうと二人の態度が一変した。
「は? 貴女、自分の立場を分かっているのかしら? 平民の分際で良くそんなことが言えるわね」
「シンリーさん、この前ロレッタ様に応援するって約束したわよね? ロレッタ様の事を裏切るつもりではないわよね?」
こうなってしまうと、どうやって止めればいいのか分からない。
私がこれ以上何かを言えば、状況は更に悪化してしまう事は目に見えていた。
どうしよう……。
私はこの場から逃げたくて仕方がなかった。
そんな時だった。
「随分騒がしいね、一体何の騒ぎかな?」
階段の下から声が響くと、そこには見覚えある姿があった。
「……っ!! ロベルト殿下……」
メアリーは驚いた顔をしながら小さく呟いた。
そこに現れたのはロベルトだった。
以前入学式で見かけたが、あれは遠くから見ていただけだった。
実際に近くで見るのは初めてだ。
金色の髪に、琥珀色の瞳。
長身ですらっとした体系でそれでいて、端麗な顔をしていた。
思わず見惚れてしまうような容姿だった。