10.王子の婚約者候補
私は放課後、何故かロレッタに誘われて学園内にあるサロンでお茶を飲んでいた。
そこには私とロレッタ、そしてロレッタの友人二人がいた。
後から知ったのだがロレッタは公爵令嬢らしい。
初対面が感じの良い人だったからあまり気にしては無かったけど、正直驚いてしまった。
貴族はプライドが高く、平民を良く思っていない人が多いと思っていたけど、それは私の思い違いだったのだろうか。
ルカルドも平民の私に普通に接して来るし、公爵令嬢であるロレッタも私に良くしてくれる。
そしてロレッタの友人二人も、見た目から貴族であることは間違い無いだろう。
1人目はシルヴィア・アレンス
伯爵令嬢で薄茶色のストレートの髪に赤い瞳。落ち着いた雰囲気で見るからにお嬢様だ。
2人目はメアリー・アボット
こちらも伯爵令嬢。オレンジ色のふわふわとした髪に同色の瞳。少し気が強そうな令嬢だった。
そして私は貴族では無い。なのに何故ここに居るのかが分からない。
3人は楽しそうにおしゃべりに夢中になっている様だが、私はその輪に入れずお茶を啜っていた。
「シンリーさんも、今度の休日に一緒に街に行かない? 新作のドレスの発表会があるんですって」
「私は大丈夫です」
私の隣に座るシルヴィアは私の方に視線を向けて、話しかけて来た。
「シンリーさんはドレスにはあまり興味はないの?」
「はい。私には着る機会もないので」
私は苦笑しながら答えると、シルヴィアは「そう」とつまらなそうに呟いた。
なんか……、やだな。
私は平民だから、ドレスを着る機会なんてない。
シルヴィアが悪意を持って言っているのかは分からないけど、明らかに私はこの場では浮いている。
そもそも何で私をここに誘ったのか、ロレッタの心が分からない。
「シンリーさん、お菓子好きよね? ここのお菓子、今街で大人気のお店のものなのよ。遠慮せずに沢山食べてね」
私が気まずそうにしているとロレッタは心配する様に話題を変えてくれた。
そんなロレッタに私は感謝した。
「ありがとうございます、頂きますっ」
テーブルの上には色鮮やかな焼き菓子が沢山並べられている。
見ているだけで楽しい気分になれるはずなのに、今の私はそうはなっていなかった。
「お茶のおかわりも遠慮なくしてね」
ロレッタはにこっと笑って言ってくれた。
「そういえば、もうすぐドラグレス国生誕祭のパーティーでルカルド殿下の婚約者がついに決まるのよね。やっぱり選ばれるのは最有力候補のロレッタ様に間違いないわよね!」
私の前に座っていたメアリーは期待を浮かべる様に話した。
『ルカルドの婚約者』その言葉に私は耳を傾けた。
その言葉を聞くと私の心の中はざわついた。
(ロレッタ様はルカ様の婚約者候補だったの?)
「そうよね、私も絶対にロレッタ様だと思うわ。他の候補者の方には申し訳ないけど、どう見てもロレッタ様と比べると見劣りしてしまうもの」
シルヴィアは思い返す様に話すと、小さくため息をもらした。
「ふふっ、二人とも有難う。私もね、きっとルカルド様は私を選んでくださると思っているわ。ずっと幼い頃からルカルド様だけを見て来たんですもの。彼の好む女性になれるように今まで必死に努力してきたのだから、きっとルカルド様にも私の気持ちが伝わっているのだと信じているわ」
ロレッタはルカルドを思い浮かべているのか、嬉しそうな顔を見せたり、僅かに頬を染めて見せたり、まるで恋する乙女の様な表情をしていた。
ロレッタがルカルドの婚約者だと言う事は、この時初めて知った。
ルカルドは王子であり、婚約者がいることは考えなくても分かる事なのに、余りにも普通に接して来るルカルドに慣れてしまったのか頭から抜けていた。
「シンリーさんもそう思うわよね?」
突然メアリーは私に話を振って来た。
「私は…他の候補者の方は知りませんが、ロレッタ様は素敵な方だと思います」
私が動揺しながら話すと、ロレッタと視線が合った。
「シンリーさんも私の事、応援してくれますか? シンリーさんに応援してもらえたら私すごく嬉しいわ」
ロレッタはそう言うと微笑んだ。
そして傍に居る二人も私の方へと視線を向けていた。
「はい。二人はお似合いだと思います」
私は小さく答えた。
この状況ではそう答えざるを得なかった。
だけどそう答えた時、私の胸の奥では何とも言えないもやもやとした気持ちが溢れていた。
「ありがとう。シンリーさん」
私の答えを聞いたロレッタは嬉しそうに答えた。