9.父島へ
「トマトがナスやレモンの木と会話を始めたよ」
「そうなんだ。すごいね」
「植物にも感情はあるのかな?」
「脳はないから私達とは違うとは思うけど感情みたいなものはあるんじゃない?」
「植物の気持ちがわかったら嬉しいかも」
「人間に恨みを持ってるかもよ」
「そうかもね。僕達はだいぶひどいことをしてるから」
僕は屋上に行ってレモンの幹に手を触れてみた。すると手を触れた途端何か心の中に刺激が走った。そのままずっと手を触れていると何か心の奥に届くものがあった。それはある種の音楽のような響きだった。
「今日、レモンの木に触ったら何かを感じたよ」
「何か?」
「そう、何か音楽のような響き」
「どんな響き?」
「言葉じゃうまく表せないな」
「私が海とイルカを見て感じる響きと同じようなものかな?」
「詩織の響きがどんなものかわからないけど、そうかもしれない」
「直樹がレモンと会話ができるようになったのかもね?」
「そうだったらすごいな」
「ところで、そのセンサーを使ってこっちの植物とも会話できるのかな?」
「もしかしたらできるかも。ネットでつながってるから父島とこっちもつなげるかもね」
「すごい」
「そうだ、センサーをそっちに送るよ。植物の根元に埋めてみて」
「うん、やってみる」
僕は詩織に送るセンサーをかき集めた。多くのサンプルを取ることを表向きの理由として、詩織とのつながりを深くしたいという気持ちからできるだけ多くを用意し、結局百個以上のセンサーを送った。