7.会話
「センサーの内部では抵抗値や電流容量の変化を測定しているので、トマトの根がそこに変化を与えてるんでょうね」センサーメーカーの技術者 田中さんは若くてクセが強いが今までにセンサーやアクチュエーターで何度も助けてもらったことがあり、腕は確かだった。
「頂いたセンサーと根っこのサンプルを会社に戻ったら分析してみますよ」
「ありがとうございます」
「逆に根っこも電流の変化を受け取っているかもしれない。そうだ双方向通信型のセンサーがあるんですが、それを使えばトマトと交信ができるかもしれませんよ。明日届けますよ」
「父島にムニンノボタンという植物が自生してるの。父島の固有種よ」
「ムニンノボタン?」
「素朴な白い花を咲かすわ。ボタンの仲間だけど小さい花。ムニンって無人のことよ。
人がいない島のボタン。昔、19世紀までは父島に人も住んでいなかったから」
「ちょっと寂しい名前だね」
「そうね。無人ってやっぱり寂しいわよね。人がいないこと、相手がいないと寂しいわ」
「ムニンノボタン、今度見てみたいな」
「夏に来たら見られるわ。また来て」
「うん、行くよ」
僕は田中さんに送ってもらった双方向通信型のセンサーをトマトの根元に埋め込んでみた。1週間もするとセンサーから波形を受信するようになった。そこで僕は波形を他のグループのトマトのセンサーに流してみた。すると波形に時間的な差が出てきた。周波数や波形の強弱がグループの間で差が出てきたのだ。それはまるでお互いが交信しているようだった。トマト同士がネットを通して会話をしている。
「トマトの会話を聞いたよ」
「え?トマトが会話するの?」
「うん。会話してるとしか思えない」