6.トマトの声
異常な波形を分析するとセンサーの位置によって異なり分類できることがわかった。その分類はトマトのグループと一致した。トマトのグループは温度などの条件の差があり生育にも差があったがそれぞれのグループから異なる波形が出ていた。更に僕はそれぞれのグループの温度や日射の条件を変えたり、グループの中でも条件に差を出してみた。そうするとその条件の変更に呼応するようにセンサーからの波形にも変化が出た。波形を発するセンサーを分解するとどのセンサーでも内部にトマトの根が喰い込んでいた。そしてその喰い込んでいる根を切ると波形は途切れた。トマトが発している波形がセンサーを通してネットに流れてるんだ。これはトマトの声だ。僕はその分析結果を武田さんに報告した。
「まさか、根からの信号をセンサーが拾ってるのか?」
「なぜセンサーが拾えるのかは不明ですが、そうとしか思えません」
「このセンサーにそんなことが可能かメーカーに確認してみよう。電子工学部の研究室にも僕から確認してみる」
「はい、わかりました」
「今日はそっちに台風が近づいているみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫よ。研究所や家の周りは点検し雨戸も閉めた。今日は家の中でジッとしている。心配してくれてありがとう。そっちは晴れ?」
「うん、今日も晴れてる。でも陽射しは少し弱くなったかな」
「トマトが元気に育つといいね」
「そっちは家の中で寂しくない」
「うん、ちょっと寂しい。今日はジッとジッと家の中でこもってる。研究の整理をしたりするけど、ジッとしているわ。イルカは海の底の方に行って嵐を避けてるんだろうな」
「そっちに行ってあげたい」
「ありがとう。寂しいから音楽をかけてるわ」
「どんな曲?」
「ゆっくりした暗い曲調のバラード」
「暗い曲を聞いて、もっと寂しくならないの?」
「大丈夫。この方が心が落ち着くの」
「心が落ち着くならいいね」
「ライブに行きたいな。生の音楽が聴きたい」
「いいね、僕も行きたい」
「都会だと色んなライブやってるからいいよね。大きな会場じゃなくて小さいライブハウスに行きたいな」
「今度、こっちに来たら一緒にいこ」
「うん」