5.異常な波形
僕はいつものようにトマトのセンサーの具合をチェックし、データとトマトの生育状況を確認していた。トマトを何種類かのグループに分け、それぞれのグループ毎に温度、湿度、土壌の成分等を変化させ、トマトの生育状況を確認する作業を根気強く続ける必要があった。温度、湿度等はトマトのそばに設置したアクチュエータという機器で変化させることができた。多数のセンサーとアクチュエータがトマトの周りに設置され、それらは全てインターネットにつながって確認、コントロールすることができた。
研究室に戻ってデータを確認するとセンサーの入力信号がいつもと違うことに気が付いた。センサーから奇妙な信号が発信されていたのだ。それは土に埋め込まれたセンサーからで土壌成分とは明らかに異なる信号だった。それは一定のリズムを持った波形のようなものだった。疑問に思った僕は、そのセンサーのところに行って実物を確認することにした。それはトマトの根元に埋め込んであるセンサーだった。土の中を掘り起こしてみるとセンサーにはトマトの根が巻き付くように絡まっていた。僕は根をほどいて取ろうとしたが中々取れなかった。一部の根はセンサーの外側を突き破って中まで喰い込んでいるようだった。ほどき取ることを僕は諦めてハサミで根を切ってセンサーを取り出した。研究室に戻ってセンサーをチェックしたが特にセンサーの機能には異常はなかった。最初は1個のセンサーから確認された異常な信号は、日々を追うごとに増え2週間程経つと百個以上のセンサーから確認されるようになった。どれも土の中のトマトの根元付近のセンサーから発せられていた。センサーに異常がないのに増加するこの信号に僕は深い興味を覚えてもっと分析することにした。
「今日も、またイルカをずっと観察していたわ。群れの行動で新しいヒントが見つかったの」
「すごいね。少し研究が進んだようで僕も嬉しいよ」
「イルカのことが少しでも理解できたら嬉しいわ。そっちはどう」
「こっちも暑い屋上で調べてるよ」
「屋上は暑そうね」
「うん、コンクリートはやっぱり暑い。屋上に冷房の室外機から出てる熱風もあるし」
「ふぅー。想像するだけで汗がでるわ」
「また父島の青い海に飛び込んで泳ぎたいよ」
「明日来てもいいわよ」
「明日はちょっと行けないな。詩織が代わりに泳いできて」
「いいわ、直樹の代わりに泳いできてあげる」
「よろしく」