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奥の響き  作者: 松仲諒
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4.詩織の心

 僕と詩織は街に戻りダイビング仲間と研究者グループと合流し、また居酒屋で夕食とお酒を楽しんだ。

「聞いたわよう。北村君と安田さん、今日デートしたんだってえ」研究者グループのお姉さん格の弘恵さんがからかって来た。

「そうなんすよ、こいつ、今日の昼過ぎに、急に出かけるからって一人で抜け出して、二人で会ってたんですよ」信二も突っ込んできた。

「ただ安田さんに展望台を案内してもらっただけですよう」僕は言い訳のように答えた。

「まあまあ、いいじゃないか。そっとしといてやれよ」研究者グループの岩崎さんが助け舟を出してくれた。岩崎さんはここに滞在して既に15年になるベテランの男性で結婚していて二人のお子さんがいるとのことだった。


 それから僕は毎日時間を見つけては詩織と会うようにした。詩織は研究の仕事があるので、仕事を終えた夜や、ときには早朝に会うこともあった。

「今日もイルカの観察をしたわ」

「何かわかった?」

「ううん。あまり進歩はなかった。イルカが会話しているという説もあるんだけど、彼らの言葉は理解できないわ。簡単な合図はあるけど会話と呼べるレベルではないみたい」

「難しいんだね」

「イルカの会話がわかって話ができれば素敵だけど」

「僕もトマトと会話できればと思うよ」

「でもねイルカや海の青さを見てると心の奥に響くものがあるの。心の底のもっと奥の方に」

「自然を見てると気持ちよくなる感じかな」

「うーん、北村君のその気持ちと同じかもしれないけど、多分違うんだと思う。心の奥の奥の方。そこに何があるかはよくわからないんだけど、そこに響くの。この響きがあるから私はここが好き」

「じゃあここを離れられないのかな」

「でも私は都会も好きよ。人が集って暮らして皆がどうにかしようとしている」

「人としての定めなんだよね、集うことは」

「集うっていいことよね」

「自然の響きと人の集いとのバランスが取れればいいね」


 そうして父島での僕の2週間はあっという間に過ぎた。僕の父島での最後の夕方、僕と詩織はまた展望台の大きな木の下のベンチに座っていた。

「明日、帰っちゃうのね」

「うん」

「寂しい」

「また来るよ。連絡もするし」

「うん」

 僕は肩に手をかけ詩織を引き寄せた。詩織が顔を僕の肩になだれかけてきた。僕は詩織の頬に手をかけ引き寄せた。そしてゆっくりと顔を寄せキスをした。父島の夜は静かでそよ風が僕達の頬に当たっていた。


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