3.展望台
「明日の夕方、会わない? 教えてくれた展望台に行ってみたいな」僕は詩織に翌日Lineをした。
「いいわよ。車で迎えに行くね。3時でいいかな?」
「ありがと。3時にバス停前で」
「了解」
詩織は水色の軽自動車で予定通り3時に迎えに来てくれた。
「ありがとう」
「ごめんね。車の中が散らかってて」
「ううん、別に気になんないよ」
「研究で海の行き来に使って機材とか積むから汚れちゃうのよね。展望台まで20分位かかるけど我慢してね」車は海沿いの太い道をしばらく走った後、右に曲がり細い山道に入った。詩織のハンドルさばきは軽快で都心でほとんど運転をしない僕よりもよっぽど上手いと感じた。山道をしばらく進むと脇に小さなスペースがありそこに車を駐車した。
「着いたよ。ここから上に歩いて行くの」横に細い道があってそこを歩いて上がると開けた場所に出て目の前に海の景色が広がった。
「わー、青いなあ。遠くまで海が見える」僕は素直に感動して声を上げた。
「どう綺麗でしょ」
「海っていいよね。眺めていると気持ちがいい」
「そうね。冬にはザトウクジラのジャンプが見えることもあるわよ」
「そうなんだ。今度は冬に来ようかな」
「こっち来て」詩織は僕を右手の方に誘った。そこには大きな木が枝を広げ、その下にベンチがあった。
「私のお気に入りの場所。この大きな木の下に座って海を眺めるのが好きなの」僕は詩織に促さられるままベンチに腰掛けた。ベンチの下は木陰になって涼しく、そよぐ風が頬に当たって心地よかった。そして心地良さを感じながら遠くまで広がる青い海を眺めていると、自然の雄大さ、懐の大きさと自分の小ささを感じて心の中にやる気のようなものが沸き上がった。そしてこんないい瞬間を詩織と一緒に過ごしているのがちょっと嬉しかった。
「素敵な場所だね。こんなところを教えてくれてありがとう」
「よかった、気に入ってもらえて」
「この大きな木がいいね」
「うん、木って素敵。いつも私達を見守ってくれてるみたい」
「僕も植物は好きだよ。静かにジッとしているけど尊い命のダイナミズムを感じる。今はトマトに恋してる。トマトがどうやったら元気に成長できるかを研究してるのが楽しい。温度や土の状態をセンサーで測りながらトマトが元気に育つようコントロールする。元気に育ったトマトの実は美味しいからね」
「そのトマト、食べてみたい」
「じゃあ、帰ったら送るよ。食べてみて」
「嬉しい、楽しみにしてる」
「トマトだけじゃなくて他の野菜やミカンなんかの果物でも使えないかなと思ってんだ。とはいっても始めてまだ2年しか経ってないからまだまだだけどね」