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悪役令嬢は不思議に思う

校庭の向こう、はるか遠くにエステルが見える。

いや、それは正確ではない。


貴族の男の群れが見える。

その中心にいるのはエステルだろう。


近頃の彼女は、一点集中狙いというよりハーレム形成してチヤホヤされることに目覚めたらしい。

玉の輿狙いの夢が遠のくんじゃないかと余計な心配をしてしまう。


「あ! ヨシュア! 会いたかったぁ!」


こちらに気付くと他の男の視線をものともせずに、笑顔全開でヨシュアに駆け寄る。

どうやら本当にヨシュアを狙いに来ているらしい。


「名前呼びやめてもらえますか」

「やぁんヨシュアだってエステルちゃんって言うじゃなぁい」

「皮肉って気付きませんか」

「そんな丁寧に喋らなくてもいいのよぉ? 私とヨシュアの仲だしぃ」

「あ、触るのやめてくださいゾワッとするんで」


エステルの馴れ馴れしい態度にヨシュアが冷たく返す。

けれどどうやらエステルはヨシュアが照れてると思っているらしく、しょうがないなぁというお姉さん的な接し方を崩さない。

恐るべきポジティブシンキングだ。


意地でもボディタッチを試みるエステルの手を、巧みにかわすヨシュアは真顔だ。

なんだこのコント。


「エステル、そんなのに構ってないでもう行こう」

「そうだよエステルさん。あっちに綺麗なユリが咲いていたから見に行こうって言ったじゃないか」

「君によく似た可憐な花だよ。是非並んでいるところを見たいな」


追いついてきた取り巻きの男たちが、エステルの気を引こうと必死だ。

それを聞いて彼女はとても気分のよさそうな顔をしていらっしゃる。


「……ジョーンズさんて平民のお友達いらっしゃらないの? 見たことないわ」

「ひどい! 平民差別ですか!?」


ふと素朴な疑問を口にすると、エステルが過剰なくらいに反応してきた。


「いえ……私は平民出の友人が沢山いるからそういうつもりはないわ。だけど普通平民出身だったら平民同士の方が話が合うという話をよく聞くもの。なのにジョーンズさんは貴族の、しかも男性とばかり仲が良いのが少し不思議で」


アルバートと話している時も思ったけれど、本当に貴族狙いが露骨すぎてもうちょっと隠す気にならないのだろうか。


「それはだって、みんなが優しいから」

「平民の方だって優しいでしょう。なのに貴族ばかり。なにか意味があるのかしら?」

「何が言いたいんですか⁉」


前回アルバートの前で指摘したことが堪えているのだろう、エステルが警戒心もあらわに私を睨みつける。


「エステルが可愛いから平民の男では気後れしてしまうのだろう」


取り巻きその一がフォローを入れる。

それでエステルが少し冷静さを取り戻したのか、鋭くなった目つきを緩めた。


確かに彼の言う通り、そういう節はあるかもしれない。

同じ平民でも、エステルくらい可愛ければ高嶺の花だ。余程自分に自信のある男でもない限り、自分からいく度胸はないだろう。


だけど、明るく朗らかで、誰にでも分け隔てないのが売りのエステルちゃんなのに?


「貴族の男性には積極的に話しかけるのに、平民の男性にはご自分から話しかけないのですね」


何故こんなにあからさまなのにこの男達は気付かないのか。

エステルに貼り付いて、エステルの動向を逐一見ているはずなのに。

その眼球は、実はただの色付きのビー玉なのかもしれない。


「女性に至っては一切興味もないようですし……同性の友人ってかけがえのないものだと思うんですけど」

「だってだってぇ、女の子たちってなんか怖いんですぅ」


私の疑問に、得たりとばかりに小動物顔でエステルが乗っかる。

今こそ可哀想な自分アピールの時と踏んだのだろう。


わかりやすすぎて思わず笑いそうになってしまった。


エステルはアピールのあと、同意を求めるように取り巻きたちに潤んだ瞳を向けた。


「ああ、嫉妬がひどいらしい。だから女子の輪に入っていけないのだろう?」


まんまとエステルを庇うように取り巻きその二が割り込む。

その得意げな顔は、エステルのことならなんでも知っているとでも言いたげだ。

自分がどれだけこの女の表層部分しか見えていないかも気付かずに。


「それにしても一人も女友達がいないなんてことあります?」

「それだけエステルが可愛いということだ。男に人気があるから、女子に迫害されるのだろう」


何も知らないくせにしたり顔でうざいなこいつ。

女子を舐めるのもいい加減にしてほしい。


「ではヘイワーズ様は?」


学年が一つ上の、学校一の美人の先輩の名を挙げる。

もちろんただ美人なだけではない。

人望厚く、女子からも男子からも慕われている素晴らしい女性だ。


「うっ、それは……」


取り巻きその二が早速言葉に詰まる。

なんて浅くて薄っぺらい男なのだろう。


「ポーラさんは? あんなに可愛らしいのにいつだって周りには女友達で溢れています。悪い噂を聞くこともありません」

「ぅぐっ」


怯む男に畳み掛けるように美少女たちの名を上げていく。

皆エステルと同等か、それ以上に顔もスタイルも整った人たちだ。


彼女たちは秀でた容姿を鼻にかけることもなく、女生徒たちの間でも人気者だった。


「女友達が一人もいない方なんて他にいますか? ジョーンズさん以外に例を挙げられますか?」

「それは……」


いるわけがない。

彼女たちは性別や家柄で判断せず、きちんとその人の中身を見て人付き合いをしている。

取り巻きだのファンだののミーハーな存在は、むしろ辟易してしまうと思う。


こいつらがエステルの取り巻きをやっていられるのは、エステルがそう仕向けているせいだ。

友達がいない分、女子が固まって男子が話しかけづらいということが一切ないというのもある。


「そもそも、顔が整っているというだけでつまはじきにするような程度の低い女子生徒はこの学校にはいませんわ。そんな中で同性の友達がいないって相当に不自然ではありませんこと? 性格が悪いという自負がある私でさえ女性の友人はたくさんいますのに」

「お嬢は性格悪いんじゃなくて気が強いだけだと思うけど」


ヨシュアが健気にもフォローを入れてくれる。

いいやつだ。


それはともかく、一人も女友達がいないなんてどう考えても相当やばいやつだろ。


女子のほとんどに嫌われているのは確かだけど、それを露骨に表に出す人はいない。

話しかけられれば笑顔で返すし、みんな大人の対応をしてくれている。

その優しさに対してクソ塩対応をするから余計に嫌われるのだ。


男と女の前で態度が違いすぎる女に、友達なんて出来るはずがない。


「あなた達だって男友達は多いでしょう? 男友達が一人もいなくて、女子にばかりちょっかいかけている人を見てどう思うのかしら」


取り巻きたちが顔を見合わせた。

それからハッとしたような表情を浮かべる。


ここまで言われないと気付かない辺り、所詮はエステルの取り巻きなのだ。


「ね。すこぉし不思議だなって、思うでしょう?」


目一杯の皮肉を含ませて、ヨシュアに大好評の悪人顔で笑う。


取り巻きたちにじわじわと動揺の気配が広がっていくのが愉快だった。


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