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悪役令嬢は邪推する

「わぁ! イルゼさんすごぉい! テスト一位じゃないですかぁ!」


涙の一粒も出ていない顔をパッと上げて、順位表に歓声を上げる。

わざとらしいことこの上ない。


「アルバートは……負けちゃったのね……かわいそうに」

「そうなんだ。慰めてくれるかい?」

「よしよし、元気出して! 私はアルバートがたくさん頑張ってたの知ってるよ!」


躊躇なくアルバートの頭を撫でながら言う。

背伸びをしなくても届くくせに、彼の袖に掴まってつま先立ちでプルプルしながらの低身長かわいいアピールを忘れないあたりは流石だ。

案の定アルバートはわかりやすく目尻を下げた。


それを見てため息が出る。


いつもはもっと僅差だったのが今回は十五点差。

その広がった差の理由が、毎日勉強しているところに割り込んで来たエステルのせいだとは思い至らないらしい。


「でもぉ、女の子なのに勉強が出来るってすごいですよね! 憧れちゃうなぁ……でもでもでもぉ、私がこの学校に入るとき、近所のおばちゃんに「頭のいい女は可愛げがない」って言われちゃったんですよぉ!? ひどくないですかぁ!?」


まあまだそういう意見が多いのは知っている。

前世に比べてこの世界はまだ男社会だ。優秀な女性が目立ち始めてはいるけれど、男尊女卑に近いところはある。


だがエステルの主張はそういう女性の権利だのの話ではなく。


「ほら見ろ、可愛げがないんだそうだぞイルゼは」

「はいはい、負け惜しみですわね」


冗談ぽく言うアルバートに肩を竦めてみせる。


「んもぉ、アルバートったらひどぉい」


狙い通りの反応に、くすくす笑いながらエステルがアルバートの腕に絡みつく。


「イルゼさんは本当にすごいです! まるで男の人みたぁい!」


はいはいウザイウザイ。


「その点ジョーンズさんは可愛げの塊で良かったですわね」


にっこり笑いかけて嫌味を言う。通じたかはわからない。

なにせエステルはこの学校に入れたことが不思議なくらいに成績が悪い。

順位表に載るどころか、最下位付近だと言うことを知っている。


エステルは褒められたと思ったのか、可愛らしい顔でニコニコしていた。

幸せな頭をしていて羨ましい限りだ。


「はぁ~うらやましいなぁ。私もイルゼさんみたいに頭が良ければなぁ」

「エステルはそのままでもいいじゃないか」

「でもぉ、勉強が出来ればぁ、アルバートともっと仲良くなれるのになぁ……って」


腕に絡みついたままの殺し文句に上目遣い。

免疫ゼロのアルバートはタジタジだ。


「そ、そんなのなくても俺はキミをっ、」

「ああ、では私の家庭教師お貸ししましょうか?」

「へぁ?」


いい感じの雰囲気に割り込むと、エステルが間の抜けた声を上げた。


「そうよそれがいいわ! もちろんお代は結構ですのよ。前々から女性の地位向上に何か貢献したいと思っておりましたの。ジョーンズさんが成績を上げたいと思ったのなら是非とも協力させていただきたいわ」

「えっ、でもあの、そんな、悪いですぅ」

「いいのよ遠慮なさらないで? うらやましく思うだけなんてもったいないもの。その気持ちがあればあっという間に成績なんて上がるわ。質のいい教師とたゆまぬ努力があれば学年一位くらいすぐにとれますわ!」


熱血系テニスプレイヤーのノリで畳み掛ける。

もちろん善意などではない。


私はこの図々しい女の、都合のいい引き立て役に甘んじているつもりはないのだ。


エステルに勉強する気がないのなんて明らかだ。

だから私のこんな提案なんて迷惑極まりないはずだ。


「いえ、あの……」


案の定エステルは断る理由を探して目を泳がせている。

一見好意で言っているように見えるから、アルバートの手前強く断ることも出来ないのだろう。


「そこまでするほどでは、ない、というか……」

「まあ! 最高の環境での学習機会を自分から手放すなんて正気ですか?」

「イルゼ、そのくらいにしといてやってくれ。エステルはそんなに頑張らなくても、」


苦笑しながら止めに入るアルバートに首を傾げる。


「なぜですの? 向上心がないのですか? ではなんのためにこの学校に入ったのです。学ぶためではないのですか? 成績が悪くて困っているのでしょう? その割にはあなたが勉強をしているところを見たことがないけれど……そういえば補習にも出ていないそうね……見かけるのは男子生徒と楽し気にお話ししている場面ばかり…………」


後半はまるで独り言のように、考え込む素振りでぽつりぽつりと言う。

エステルほどの演技力はないが、勉強一筋で来ているアルバートの前ではこれくらいでも充分通用するだろう。


「しかも貴族の方とばかり……もしかして目的は別にあるの、では……」


そこで何かに思い当たったような表情でチラリとエステルを見る。

少し顔色が悪いようだ。

笑みが引き攣っている。


「……なんてね! 考えすぎですわよねほほほ」

「そっ、そうですよぅ! ただイルゼさんの大切な家庭教師さん取っちゃったら申し訳ないなってうふふ!」


白々しい笑いを交わし合って追及をやめてやる。

周囲の目もあるし、根拠もなく言いがかりで悪評を立てるような非常識な人間とは違うのだ。


だが前から考えていた。

この世界では貴族と平民が繋がりを持てる場所は限られている。

その限られた場所として、この学校ほど相応しいところはないだろう。


おそらく、エステルは玉の輿狙いで必死に勉強して入学した。

そしてあとは将来有望な貴族のボンボンを落とせば今後は安泰だからと勉強を止めた。

きっとそんなところだ。


正直、目的意識がハッキリしていてガツガツしているのは嫌いではない。

嫌いではないのだが、私に絡んでくるとなれば話は別だ。


彼女は敵に回す相手を間違えてしまったのだ。


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