第85話 修学旅行3
清水寺を探索し終えた俺たちは下町をうろうろしていた。風情あふれるその町は多くの人でごった返しており、俺たちははぐれないよう集団となって移動していた。
集団行動。俺が最も苦手とするものだ。体育の授業でも行われるそれはこっ恥ずかしい代物。二度とやりたくないランキング1位だ。今年はもう終わっているものなので今後、やることがないとは思うが。
「このあと、どうする?予定より早く回りきれたし、他のところに行ってみるか?」
小田切がそう提案し、俺たちはそれに賛成した。京都には名所が多くあり、今日一日で回りきれるものではない。
金閣寺や銀閣寺なんかは京都での観光スポットの有名どころであろう。まだ行ったことがないため行ってみたい。
その後、話し合った結果、金閣寺に行くことになった。清水寺からは少し離れるところに位置しているため、移動しなくてはならない。時間はまだかなりあるのでそこまで急ぐ必要はないが、多く回れることに越したことはない。できる限り俺としても多くの場所に訪れ、勉強の足しにしたいものだ。
◇
「すごくきれい」
津田がそう言った。
俺たちは今、金閣寺におり、今まさにそれを見ているところだ。金閣寺に入る際に入場料としての金を払い、チケット的なものをもらった。これはこれでしおり代わりにできそうだ。清水寺のときもそうだが、チケットが役立つものだ。観光スポットとして広く知られている理由はこういった小さなことへの気配りによるものかもしれない。まぁ、あくまで俺の自論だが。
「ねぇ、当麻くん。写真!写真撮ってよ!」
津田は俺に早く早くと急かしてくる。俺はリュックをあさり、スマホを取り出した。電源をつけ、カメラアプリを開き、
「小田切、津田の隣に行ってやれ。写真撮ってやるよ」
「「えっ?」」
二人は同時に驚きの声を上げた。しかし、すぐに二人は顔を見合わせ、まんざらでもないような表情で金閣寺の前に立ち、写真を撮った。
「後で小田切のラインの方に送っておくな」
「ああ、ありがとう。切井」
俺は小田切と春休み旅行に行ったときにラインを交換していたのだ。春休み以降もなにかと連絡を交わしたりしている。
俺はすぐに小田切に写真を送った。小田切はその写真を見て顔が緩んでいる。表情にすぐに出るよな、小田切は。
「ちょっと、当麻くん!私には送ってくれないの?」
「は?いや、お前のライン、俺は持ってないだろ?送れって送りようがないじゃねぇか」
「あ………。そういえばそうだった……ね」
津田は完全に忘れてたのだろう。スカートのポケットからスマホを取り出し、俺に差し出してきた。
「………」
「なんで無言なの?それとも何、私とは交換したくないみたいなこと?」
「いやちょっと、落ち着けって津田」
俺は津田の肩を抑えて言う。今のこのタイミングでこのセリフはマズイ。非常にマズイ。
「切井くんってサイテー、ですね」
鳥橋の冷たい視線。
「切井くん、それはないよ」
日下部の俺への非難の声。
徳川と小田切はそんな俺を見捨てて遠くに行ってしまっている。
「はぁ〜〜〜〜〜〜!分かったよ、交換すればいいんだろ」
「なんでそんなに嫌そうなの?」
「小田切から送ってもらえばいいんじゃねぇかと思っただけだ」
「「「あっ!」」」
徳川と鳥橋そして日下部は忘れていたと言わんばかりに声を出した。コイツらあんだけ俺を責め立てておいてこの仕打。マジで許さん!
当の津田はというと、
「いや………そのね……。小田切くんのライン、持ってないし、その、小田切くんとはまだそんな仲じゃないから、ね?」
「新幹線のときは楽しげに話してただろ?もう友達でいいんじゃねぇの?むしろ、それで友達じゃないなら友達って何なんだよって俺はなるんだけどな」
まあいいかと俺は呟いて俺は金閣寺を見ることに集中した。津田と小田切がその後、ラインを交換したかは当の本人たち以外知らないだろう。だって、俺たちは小田切と津田から離れて金閣寺を見るようにしたからだ。
なにはともあれ俺たちの修学旅行一日目は平穏に終わりを迎えた。
俺と日下部との喧嘩まであと20時間