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第73話 将来

長らくお待たせしました。

やっと山場を超えることができたので更新を再開します。

第四章も終わりが見えてきているのでこれからも頑張って書いていくので応援よろしくお願いします。

「はぁ、今年も吉か」


 俺はおみくじの結果を見て落胆した。今年こそは吉以外を取ってやる!と意気込んで見たものの全く効果はなかった。ほんとに俺は神に嫌われているのだろうか。マジでショック。


 俺は小田切を見た。初めてみた!みたいな顔をしている。キラキラと輝いているというのだろうか、どことなく嬉しそうだ。


「お、小田切。お前、おみくじどうだった?」


「見てくれよ、切井!大吉だぞ!」


「う、裏切り者!!!!!!!!!!!!!!」


「ちょっ、切井くんボリューム下げて!」


 日下部から注意を受けた。だが、俺は不完全燃焼状態。小田切なら俺と同じ部類だと思っていたのに裏切られた。大吉とか。大吉とかないだろ。俺一度も取ったことねぇのに!


 俺は肩をガクリっと下げた。もう、来年からはおみくじを引かないようにしよう。


 毎年恒例のおみくじは俺の心が折れることで終了した。


 ◇


「切井、元気だせって」


「お腹が空いて力が出ない」


「お兄ちゃんがアンパンマンになってる」


 りずは少し呆れているかのようにそう言った。りずはは相変わらず大吉だった。小田切と同じ大吉だった。そう、大吉だったんだ。


 りずはに対しては特に何も思わない。だって毎年のように大吉を引いているから。だが、小田切は違う。今年初めて一緒に引いた親友だ。知らないこともまだ多くある。大吉を引くなんてそんなこと誰が想像できた?いや、誰もできないだろう。


 大吉なんて運が良ければ取れるとか思ってるやつは俺は嫌いだ。今年の運勢が分かるなんて言われるこのおみくじにおいてこの一本を引くために運を使い果たすことになるし、今年は受験を控えている身であるので運はかなり重要なポイントだ。


 共通テストと言われるものが導入され、その結果をもとにどの国立大学を受けるか検討する。俺はこの共通テストで9割以上を目標としている。どういう結果となるかはまだ分からないが、受験間近になったら、小田切の家で協同で対策をしようと模索している。徳川は昨日の話によると何件か推薦が来ているのだとか。良いご身分だ。


 神社参りは終了し、親父たちと合流を果たした俺とりずは、日下部と小田切はトボトボと歩いていた。


「当麻」


「なんだ、親父?」


 俺は後ろを振り返り、親父を見た。親父は電話をしたときと同じように真面目な感じ。いつものちゃらんぽらんな雰囲気とは全く違う。


「楽しめたか?」


「・・・・・・ああ、親父が言ってたことはなんとなく分かったよ」


 親父は俺が友人がいないことを昔から知っていた。事故をきっかけに段々と俺から距離を取るようになっていた友人たちを見ているから。


 事故の原因は俺にあるため、友人をなくしたのは俺が悪い。親父が気に病む必要など微塵もないはずだ。だが、親父は俺の父親だ。息子に友人がいなく、かつ悩みを打ち明けることがなかなかできないことを気にしていたのだろうか。普段の振る舞いからはそんな様子は伺えないが、こういうところで真面目になるから親父には困る。


 友人関係なんてそのうち、何もなかったかのように有耶無耶になるものだ。全員とこれからも関わるなんてことは絶対ない。それを知っていても今を楽しく生きるためには将来関わりがなくなろうとも友人としてともに生きていくことは大切なのだろう。


 今は小田切とも徳川とも日下部ともこうして仲良くしているが、それはいつまで続くことか。高校のうちだけかもしれないし、はたまた社会人になってからも関わるかもしれない。そんなことは誰にも分からない。


 今遊べば、一生を棒に捨てる。この社会はそのようにできている。だが、常に遊ぶのではなく、たまにならいいのではないのか。


 親父はそう言いたかったのだろう。今のように遊べることはこれからは少なくなる。人によっては仕事でそんなことをしている余裕すらなくなるかもしれない。だから、今がチャンスなのだ。今を楽しく生き、これからの社会に希望を持つ。理不尽、不平等それすらも楽しみの一つとして受け入れられるくらいに。


 俺は前を向くと小田切と日下部がいた。こっちこっちと手を振っている。俺はやれやれと肩をすくめながら、二人の元へと歩いていった。


 ◇


 ホテル一室にて。


「俺の勝ちだな」


「クソっ!」「ああ、負けちゃったぁ」


 日下部と小田切はそう言って少し悔しそうな顔を見せた。


 昼間言ったとおり俺と小田切、日下部は部屋に集まってトランプをしていた。今回は神経衰弱。頭を巧みに活用し、どこにどの数字があるのかを暗記。いかに多くのカードを相手より多く取るか。この戦いはかなり厳しいものであった。


 まぁ、単純に小田切と日下部は秀才で暗記に関してもかなりのレベルだ。俺も二人に負けず劣らずを誇っていると自負しているし、実際、最初の方は膠着状態にあった。


 中盤あたりで小田切が連続してカードを取りまくり、冷や汗をかいたが、いかんせんこの勝負には微妙な緊張感がある。小田切はミスをし、残りすべてを俺が掻っ攫うことで勝利を収めたというわけだ。


「いやぁ、盛り上がったな」


「明日で最終日だからな・・・・・これでトランプ勝負も終了か」


「受験終わったら、やろうぜ!」


「それはいいな、切井。今度は俺の家でやらないか?」


「お?マジか。それなら徳川も誘おうぜ。ぶっちゃけるとアイツはカモだ。トランプにおいては最弱を誇る」


「えっ?そうなの。徳川くん、なんか得意そうに見えたけど」


「いやいや」


 俺は甘い甘いと言うかのようにチッチッと舌を鳴らす。小田切は俺のそんな様子に苦笑いだ。


「徳川はすぐに表情に出るんだよ。トランプしてるときなんかそうだ。お前らも絶対すぐにわかるぞ」


「そうか。トランプではポーカーフェイスが重要だしな」


 小田切は部屋の中の天井を見てそう言った。


「とにかく受験後にまたやろうぜ!」


「ああ、了解だ」「分かったよ」


 日下部はその後、部屋に戻ると言って部屋から出ていった。


 俺はボスっとベッドに倒れ込み、天井を見る。小田切もベッドに乗っかっていた。


「切井」


「ん?なんだ?」


「受験で気になったんだけど、切井はどこ大、受けるつもりなんだ?」


「栄光来たときから決めててだな、東京大学を受けようと思ってる」


「奇遇だな、僕も受けようと思ってるんだ」


「えっ!?マジで」


「ああ」


「俺はてっきり海外の大学に行くのかと」


「海外大学も考えたことはあったけどお金がね」


「あー、そうだな。海外となるとそれなりに金はかかるな。それに比べれば国内なら出費を抑えられるか・・・・・」


「僕の家は自慢ではないけど金持ちだ」


「よーく知ってる」


 あの小田切の家からして相当な金持ちなのは容易に想像できる。あれで違うなら、金持ちとはなんなのか議論になるな。


「今まで色々と迷惑だってかけてきたし、これ以上はお金はかけたくないんだよ、僕としては。それに君のおかげで“夢”が見つかった」


「夢?」


「僕は幼馴染二人の夢を潰した。だから、僕のようなやつが夢を持つのはおかしいと思ってた·············でも、それは違った」


「・・・・・・」


「僕は教師になろうと思う」


「教師・・・・・」


「二人に教えたときの失敗を生かして今度こそ失敗しないために」


「・・・・・・」


「うんとまぁ、こんなふうに考えられるようになったのも君のおかげだ。感謝してる」


「感謝されるためにやったんじゃない。ボランティア精神的なあれでやったんだ」


「ボランティア精神、ね。そうか。そういうことにしとくよ」


 小田切は意味ありげに俺を見てニヤニヤしてきた。


「そういうことにしとけ」


 俺は照れくさくそう言うと近くにあった枕で顔を隠した。小田切はきっと苦笑いでもしているだろう。


「君は東京大学に行って何がしたいんだ?なりたい職業とかがあるのか?」


「俺は・・・・・・」


 なりたい職業。小学4年終わり頃にもあの子に言われたことだ。


「決まってないのか?」


「俺が行くのは、その、な」


「・・・・・ん?いやその、言いたくないことは言わなくていいぞ」


「お前にはあの子のこと言ったよな?」


「・・・・・・・ッ!君もしかして・・・・・・・」


 小田切は分かったのだろう。


「俺が東京大学に行くのは“あの子に会うため”だ」


 バカバカしいと言われるだろうか。そんなの理由にならないと怒られるだろうか。


 小田切のことはまだよく分からないが、今回の件で疎遠になるかもな。それも運命ってやつか。


「いいんじゃないか?目的は人それぞれだし、その子に会いたいという気持ちは話してもらったときから分かってるつもりだ」


「バカとかって思わないのか?こんなの理由にならないって」


「確かに目的としてなかなかあれだけどさ、僕のことを助けてくれた恩人なんだ。バカにするなんて失礼すぎることできるわけがないだろ?それに―――」


 俺はハッと息を呑んだ。


「それに君と僕は“ライバル”だ。大学でも切磋琢磨仕合いたい」


『私の“ライバル”だ』


 日下部にも言われたこと。ライバルとは複数いるものなのか?


「俺のライバルは日下部だ。小田切は俺の友達。これじゃだめか?」


「日下部さんと切井がライバル?は?」


「··········何が言いたい?」


 俺は苛立ったように小田切に詰め寄る。小田切は俺の様子にあわあわしたが、息を整えると俺に言った。


「君と日下部さんの関係性はそんなものではないだろ?」


「そんな関係?お前!」


「日下部さんは君にとって大切な存在のはずだ!たった一言で済ませられるはずがない!」


「~~~~~~~ッッッッ!!!」


 俺は歯を食いしばり、小田切を睨む。


「もう少し日下部さんのことを考えてあげてくれ。あの子に会いたいと、そう思うのなら。そして―――」


「そしていつか君自身が“本当にやりたいこと”を見つけられることを僕は心の底から望んでる。················切井、おやすみ」


 小田切はそう言うとベッドに横になり、しばらくすると寝息を立てた。


 俺はバサッとベッドに倒れ込み、


「俺にとって日下部は・・・・・」


 ライバル。あのとき確かにそう言った。しかし、違和感が多くあったのは確かだ。


 なら、日下部と俺はどんな関係なんだ?



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