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第47話 俺はいつでも勉強会する

 なんでこうなった。

 

 俺は、ふと思う。だが、それはもう遅い。手遅れだ。いつもこうなる運命にあるのなら、そんな運命、捨ててしまいたいのだが。


 俺は、過去のことを思い出したくないが、どうしてこうなったのか、説明しようと思う。嫌だけどね。マジで嫌なんだけどね!


 ◇


 俺は、いつも通りに学校に着くと、担任が、


「来週は、中間試験があります。確認試験で赤点のヤツはここで点数を取れないと留年、はたまた、退学なんてこともあるから心してかかるように」


 なんて言った。


 テスト範囲は、基本的に2週間ほど前に配られる。だが、俺はまともにそんなものを見たことがない。


 結果、テストがいつあるのかわからないという情けない状態になる。


(やっべぇ。完全に忘れてたわ・・・・。前もだが、中間試験とか影薄すぎだろ!だから、わかんねぇんだよ!)


 逆ギレするが、意味はない。毎度のことながらテスト勉強をまともにやらず、点数をかっさらう。最低の所業。人間として人として最悪と言っていいだろう。


 しかし、俺は前回すべて満点を取れていない。1学期の期末試験で大きく点数を落とし、2位に下がっているのだ。


 今回、小田切という存在があるが、こと中間試験に関しては勝負の決めようがない。互いにすべて満点をかっさらうからだ。そんなこともできなければ、全国模試でトップクラスに入ることは難しい。否、不可能と言っていい。


 とにかく今回の試験は何が何でも点を取らなくてはならない。無論、いつも通りにやれば問題はないのだが、何かあったらということも踏まえ、対策はしないとな。


 模試も確かに大事だが、試験で点数を取れないのでは模試で点数を取るなどできるわけがない。基礎が出来ていないのだから。



 ◇


 俺は全ての授業が終わるとすぐに家に帰ろうとする。今日から模試対策から試験対策へと切り替えなくてはならないからだ。


 模試対策と試験対策は同じではないかとそう思う人もいるかもしれないが、厳密に言うと少し違う。と言うのも、試験では、模試と違い、必ずここが出るということがわかる。しかし、模試に関しては全てが初見。もちろん、過去問と似たような形式のものはあると思うが、数値が違うとか、問題の出し方や聞き方。そういったことが異なってくる。そういった意味で違うということだ。試験対策と同じような対策でも十分だが、より良い結果を出したいのなら、まあ、深くまで勉強したほうが良いだろう。


 俺は、頭の中でこのあと家で何をするか、簡単にシュミレーションをし、イメトレのようなことをする。


 大体固まると教室を出る準備をし、リュック片手に教室を去る。


 クラスメートと一緒に帰るということは俺にはないため、こういった自分優先の行動ができる。友達なんかがいると待たなくてはならないようだが、俺にはそんなやつはいない。いなくてよかったわな。


 俺は、廊下を歩いていた。そこら辺にホコリが溜まり、汚いが学校はこんなもんだろう。掃除をどれだけしたとしても必ずまた汚れるのだ。だからといって、掃除をしないというのは良くないな。衛生面で。


 汚いと勉強意欲がなくなるしな。俺も定期的に自室は掃除しているしな。


 掃除は得意な方だ。掃除することに得意不得意を考えるのは、小学生のような気もするが、大人になっても掃除ができないやつはいる。親父とかな。親父とかな!


 俺はそんなやつにはなりたくない。


 閑話休題。


 俺は、下駄箱の前にいた。が、後ろには当然のごとく、日下部がいる。何故か。鉢合わせたのだ。たまたま、だと思いたい。


 俺は普段、日下部と一緒に帰っているのだろうと思われるのかもしれないが、そんなことはない。日下部には俺と違い、クラスメートとの交流がある。時間が合うこともなければ、合わせることもない。


 とりわけ長いというほどの付き合いでもない上、俺と日下部は友達ではない。そこら辺にいそうなライバル関係にある。


 長野旅行が終わってから、日下部は俺の家に住み始めているが、ほとんどりずはと話しているようだしな。俺としても助かる。りずはの対応してくれていることは。


 ただ、今日は運悪く日下部と遭遇した俺だが、邪険に接するのもあれだろうということでいつも通りにする。


「よう、日下部。元気か?」


「毎朝、顔合わせてるよね?切井くん。その挨拶はどうなの?」


「日下部、お前ってやつは・・・・・」


「えっ!な、何!何かしちゃた私!」


 日下部は、えらい勢いで慌てる。これでは、俺が日下部をいじめているかのように見えるのではないか。


 ここはまだ学校内。いじめというのは、学校側がすぐに対応するが、これでは誤解される!


「日下部、取り敢えず落ち着け。俺がいじめしてるみたいに見られるだろ!」


「実際、それに近いじゃん!」


「いいや、待て。落ち着け、日下部」


「慌てすぎたよ、切井くん・・・・」


 俺がなんか慌ててたわな。


 気を取り直して、


「今日は、いい天気だな」


「えっ?今日、雨だよ」


 そうですね。今日、雨降ってますね・・・・・・・。


 結局、だめだった。


 ◇


 俺は、日下部と帰っていると、後ろからものすごい勢いで走るやつがいた。


「切井ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 金切り声とともに。


 俺は、振り返ると徳川が息をあらあらとさせながら、立っていた。おそらく、学校から走ってきていたのだろう。


 徳川は、やっと見つけたみたいな顔をしている。どれだけ探していたのか考えたくないが、何か俺したのだろうか。


「徳川、何のようだ?俺は、試験対策がしたいのだが」


「ハァハァ、切井、お前に頼みがある」


「?何だ?金か?なら貸さん。金は貸さない主義だからな」


「金じゃねぇよ!」


「切井くん、話くらい聞いたら?頼み事があるんだよね、徳川くん」


「えっ?日下部、お前徳川のこと知ってるの」


「去年、同じクラスだったんだよ」


 徳川は、ボソリとそう言った。


 だが、俺としては、昨年同じクラスだったということは理由にはならない。クラスメートの名前など覚えたことがないから。それはそれで問題がありそうだが、それについては言い訳が言いたい。


 俺は、他人に興味がなかっただけ。


 これやっぱ、問題発言だな。


 俺は、ふとそう思った。


「それで頼みってなんだ?俺にできることならって条件はあるが」

 

「切井、お前ならできることだ」


「?」


「勉強教えてくれ、切井!」


「········は?」


 ◇


 俺は、日下部と徳川とともに帰宅していた。

 徳川が急に変なことを言ったがために空気が死んでる。


 俺たちは無言のまま歩いている。遂に徳川がこの空気に耐えられなくなったのか、話し始めた。


「切井、お前って日下部さんと付き合ってるんだろ?」


「はあ?」


 何急に言ってんだコイツは。


 徳川の第一声に対してそう思った。


 俺が日下部と付き合う?は?何抜かしてんの?


「お前に勉強教えるのやっぱやめたわ」


「なんで!」


「急に何言い出すかと思えば、寝言か。寝言は寝て言えよ、徳川」


「付き合ってないのかよ、切井」

 

「なんでそうなるのか逆に知りたいわな」


「女子が男の部屋に来るとか異常だろ。彼女でもない限り」


「知らねぇよ、そんな一般論。聞いたことすらないわ」


「いや、だって異常だろよ。日下部さん、切井と付き合ってるんですよね?」


「お、おい!バカ!」


「私が切井くんと何?」


「付き合ってるんですよね?」


「へっ?」


 ヤバイ。これはマズイ!これはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれは!徳川、お前のことは忘れないからな!


「な、なな、ななな、何言ってんの、徳川くん!」


「あれ?」


 俺が思ってた反応と随分違うな。いつもならキレるのに。徳川を犠牲にして逃げるつもりだったのに。


 日下部に怒られそうなことを考える俺だが、このときの日下部にはそんな余裕がなかったらしい。あとになって聞いた。


 ◇


 日下部が大慌てしていたが、なんとか日下部の事情を簡単に話し、徳川に納得してもらう。無論、ヤクザ集団については省いたが。


「そんな事情があったのか・・・・。悪いな二人とも。変な誤解して」


「そうだな、反省しろ、徳川。猛省して明日、出直してこい!」


「切井くん言い方!」


 あれこれ言いながら俺の家の前についた。

 そして、冒頭に戻る。


 ◇


 徳川に勉強を教えてほしいと頼まれた俺だが、正直、人に勉強を教えることはあまり好きではない。と言うのも、時間をその教えるひとに割かなくてはならず、勉強時間が削られるからだ。


 俺は、それをできるだけ避けたい。が、それもできそうにない。なぜなら、徳川が現在進行形でアホを貫いているからだ。


 前回の確認試験で赤点。前回の期末でも赤点。

 救いようがないとはこのことだな。とてもではないが、俺が教え、赤点回避ということは非常に難しい。おそらく、徳川自身も諦めているのだろう。


 だが、そんなこと知ったことか。


 あるゆる理不尽。差別を乗り越え、人は頂に達するのだ。なら、むしろバカな方がいい。


「徳川、お前に言っておく。お前はバカだ。とんでもないくらいにな」


「んん?」


「ちょっ、切井くん!」


 日下部が俺の言葉に静止をかけようとする。しかし、俺は止めない。


「だが、バカってのはな、成績が上げやすいんだよ。天才よりテストで点数が低いからな。天才なんかより点数を多く伸ばせるって話だ。徳川はその基準をクリアしていると言える」


「「!」」


 勉強ができるということは一つのポテンシャルだ。


 勉強ができるに越したことはないし、できることはかなりいい。


 だが、世の中にはできないやつもいる。


 どれだけ努力しても結果が出ない。それで勉強をしないやつもいるだろう。


 一つ例をあげよう。


 学年トップのやつと学年ビリのやつがいたとする。この内、どちらが一番成績が伸びるか。






 答えは単純明快。“ 学年ビリ ”のやつだ。


 何をと言うやつもいるかもしれないし、綺麗事をと取って捨てるやつもいるだろうが、俺はそう信じている。学年ビリのやつは努力すればトップクラスに入り込むことができる。でも、ビリのやつはやる前から諦めていることが多い。俺はもったいないと思う。やればできるのにだ。だがまぁ、それには当然、犠牲は必要だが。今まで勉強せずにゲームやら部活やらをしていた時間を勉強に費やすのだ。フリータイムは減る。それもしゃあないと割り切れればいいが、すぐには無理なことだ。


 徳川にそんなことができるのか。勉強は全然、今の段階ではできていない。


 だが、


「お前は、勉強のやり方を知らないだけだ。だから、勉強ができない。なら、やり方がわかれば、トップクラスに入ることができるってわけ」


「そう都合よく行くか?」


 徳川の言葉に俺は呆れる。


 そんな世の中うまくできていない。すぐに結果が出るのなら、勉強ができなくて困っているやつはいない。


 俺は当然のごとく徳川に言う。


「行くわけ無いだろ。だが、挑戦する価値はあるだろ?それに試験までまだ時間がある。赤点回避だけじゃなくてもっと上、トップを狙おうぜ、徳川」


「おう!頼むぜ、切井!」


「ああ、任せろ!」


 俺は、ドンと胸を叩き、徳川の言葉に対して返事をする。さあ、勉強を始めよう。


 どんな理不尽にも打ち勝ち、トップに成り上がるそんな物語を作りに(笑)


 いやいや、トップは無理だわな。だって“俺”が取るから。誰にも譲らねぇよ。絶対に。それが神の領域に達しているやつであったとしても。



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