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第19話 俺はいつでも旅行する5

 日下部の親戚、またはそれに準ずる人なのだと思っていた人がヤクザみたいな集団を率いていた件。


 どこかの物語の題名風に見えなくもないが、字面はヤバい感あるな。そもそもヤクザみたいな集団ってなに?ヤクザ集団で良くない?良しとしてこれからヤクザみたいな集団のことをヤクザ集団と呼ぶことにする。


 ヤクザ集団との一文着のあと、俺と日下部はひたすら走っていた。土地勘は一切ないので俺はとにかく前に前にと走った。日下部は走っている間も顔を真っ青にしている。この様子から日下部とあの青年(ヤクザ集団を率いているかもしれない、ヤバいやつ)とはおそらく知り合いと言っていいのかあれだが、おそらく互いに知っているのだろう。それは間違いない。しかし、どこで知り合った?なぜさらわれそうになる?日下部はこれまでに何があったんだ?


 分からないことだらけだ。ほんとにいやになるし、怖くてまじビビる。オシッコちびりそう。


 建物と建物の間の路地に入り込み、俺は座り込んだ。この路地には人通りがなく、ヤクザ集団が来そうではあるのだが、少しは休憩したい。俺のモットーには『焦ったときほど冷静に』というものがある。どんな不測事態に遭遇したとしても冷静であれば大抵のことはなんとかなる。そんな感じの意味だ。今回の騒動が大抵のことの範疇にあるのかはこの際置いておく。


(親父には一度連絡したが、もう一度しておくべきか。状況は今、刻々と悪くなっているし)


 俺はそう思い立ち上がった。日下部は俺を見てきたが、すぐに視線は下へと移っていく。ほんとに日下部はどうしてしまったのか。日下部が心配なのだが、今の状況を打破をしていくためにも親父との電話ですぐにでも合流を果たしたい。そうすれば警察とのやり取りもスムーズに進むだろうし。


「親父に電話してくる。日下部はここにいてくれ」


 俺はそう言って日下部から離れようとすると、


「行かないで!」


 日下部が俺の袖口を掴んだ。俺は驚きのあまり固まる。


 えっと………これはどういう状況なんだ。


「く、日下部?どうした」


「一人にしないで・・・・・・!」


 そう言って日下部は泣き出してしまった。俺はアワアワと慌てる。女子が泣くのを見るのは俺としては一大事だ。状況が状況なだけに今は非常にマズイ。


俺は深呼吸して自分自身を落ち着かせる。そして日下部に寄り添い、


「く、日下部落ち着けって。今の状況がどういうあれなのか分かってないのはお前だけじゃない。俺も全く分かってない。それに一人にしないで?するわけないだろ」


 俺はそう言って言葉を切る。日下部は顔を上げた。


「こわいのはお前だけじゃない。俺もこわいんだよ。良くも分からないのにヤクザ集団に追われるはで、ほんとに何なんだよ!」


 日下部は俺の悲鳴に対してビクッと体を震えさせた。俺はヤベェやり過ぎたか!と思った。俺はしゃがみ込んで日下部の背中を擦る。日下部は涙でぐしゃぐしゃになった顔で俺を見た。


「俺は一人だったらこうして冷静にもいられないだろう。でも、俺は一人じゃない。日下部がいる。だから、こうして立てているんだよ。いつまでも泣いてないで立ってくれよ、日下部。この良くも分からない状況を打開して旅行を楽しもうぜ」


「う……ん。うん!」


 日下部はそう言って笑った。


 ◇


 私達はやっとのことでホテルに到着した。でも、お兄ちゃんと日下部さんはいなかった。


 お父さんはホテルの従業員の人に聞いたりと奔走していたけどまだ着いていないことがわかった。


 私達のほうが遠かったはずなのにお兄ちゃんたちはまだ着いていない。


 こういう状況になるとお兄ちゃんたちの身に何かあったのではないか、そう思ってしまう。無事でいていることを祈るだけしかできないのがもどかしい。


 ………………………………私って何ができるんだろう。


 ◇


「親父、俺だ」


『振り込め詐欺か?お断りだ』


「親父、何いってんだ?」


 いきなり何言われるかと思えば振り込め詐欺?ふざけているのか、コイツは。


「真面目な話がしたい。ふざけていないで」


『俺は常に真面目だぞ』


 どの面下げて言ってやがるコイツは!鏡見ろよ鏡!お前のブッサイクな顔が見えるだろうよ!俺と比べてブッサイクなことを知ってトラウマの一つにでもなりやがれ!


『ホテルにまだ着いてないようだな。なにしてるんだ?まさか遊んでいるわけじゃあるまいな?』


 口調がきもい!きもすぎる!なんなんコイツ!ツッコミ待ちか?そうなんだろ!


「ヤクザ集団に追われてるって言ったろ?」


『ちょっと待て、ヤクザ集団?なんだよそれ』


 親父は何か慌てたようにそう言った。何か、驚くポイントがあったのだろうか。


「正式名称ってもんでもねぇけどヤクザみたいな集団ってのの略だ」


『クククククッッッ、ハハハハハッッッ!』


 笑い過ぎだろお前!笑える要素なんてどこにあった!つうか、ふざけていないで真面目な話って前置きおいたろ!話が進まねぇだろうが!


『はぁ、久方ぶりに笑った。当麻のネーミングセンスのなさに。お前、子供ができたとき変な名前つけるなよ?』


「つけるつけない云々なしに俺は結婚しねぇよ!」


 電話を強く握りしめ、今にも殴りだしそうだ。


 親父がここにいたら殴れるのにな…………。ああ、残念だぁ。


『そう、だったなぁ……………お前、彼女いないもんなぁ……………』


親父は鼻をすすり、服に顔を擦り付けているような音がした。


「ちょ、何泣きそうになってんのお前!」


 もうマジムリ!ついて行けない。主に親父の情緒不安定さに。


「もう話が進まねぇからコッチで勝手に話すわ」


 俺は親父との電話を早く切りたいがために勝手に話しだした。


 俺と日下部が松本城へと向かっている途中、一人の青年にあったこと。最初は日下部の親戚、または知り合いだと思っていたのだが、どうやら違うということ。そこからなぜか追われる立場になってしまったこと。


「これが今に至るまでの話だ。どうしてこうなったのか、今も分からない」


『原因はわかった』


「は!?」


 原因がわかった!いまの話から?あの普段アホな親父ごときが。そんなバカな!天と地がひっくり返ってもありえないだろ。


 俺は驚きのあまり口を開いたまま、ホへぇとか変な声を出してしまった。日下部は、ん?と俺を不審な目で見てくる。ヤベェ、変な声を出しちまった。これもすべて親父のせいだ。


「原因ってなんだよ」


『お前の性格が悪いことだ』















「は?」












 俺は一瞬何を言われたのか理解できなかった。


『お前があまりにも性格が悪いあまりその青年はお前を見ていられなくなったんだ。そしてヤクザを寄せ集め、お前を追うように仕向けた。なんという、話だ……。日下部さんがかわいそすぎる』


「……………………」


 コイツに期待した俺がバカだったわ。うん、やっぱ親父だな。妄想力豊かすぎる。りずはがああなってしまったのもコイツのせいだな。


 それから今回の騒動とは全く関係のないことを言い合い、電話を切った。こいつにはもう電話しねぇ!


 ◇


 私は一人部屋に戻り、お兄ちゃんたちが到着するのを待っていた。


 だけどいつまで経っても一向に帰ってくる気配がなく、心配度がどんどん上がっている。時刻は7時を過ぎ、辺りはもう暗い。


 街灯によりある程度は明るくなっている。


 長野はそうでなくても山に囲まれているため、暗くなりやすい。街灯でも都市に比べれば大した明るさではないだろう。


 私は窓からお兄ちゃんが見つけられるわけでもないのにひたすらに探し続けていた。


 そんなとき、お父さんが部屋の中に入ってきた。


「お父さん!お兄ちゃんたちは………」


 お父さんの様子を見て私はまだホテルについていないことに気づいた。だってお父さんが下を向いているから。こういうときは良くないことが起こったということを意味している。


「お父さん、お兄ちゃんは?日下部さんは?」


「今のところは無事のようだ。電話によるとな。話をするから座ってくれ。母さんも」


 お父さんにそう言われて私はベッドに座った。母さんは私の隣に座った。


 お父さんは話し始めた。お兄ちゃんと日下部さんの今の状況について。


 どれだけ時間が経ったのだろうか。


 お父さんが、


「だから、少しの間、待っていてくれ」


 と言って話は終わり私は、


「ちょっと待ってよ、お父さん!お兄ちゃんたち、近くにいるんでしょ?だったら向かいに行ったほうが…………」


「いや、それはできない」


「な、なんで…………」


「今回の騒動では俺たちを巻き込みたくないと日下部さんが言ってきた。だから、俺たちは下手に何かをするようなことはしないほうがいい」


「…………………ッ!」


「それから当麻からの伝言なのかよくわからないのだがな…………」


 それって………………!私は最悪な状況を想像した。それはこの旅行を途中で中止し、家に帰るというものだ。


「明日の予定を立てといてくれ、だそうだ」


「…………………」


 なによそれ!!!!!!!!!!!!!


よろしければブックマークと評価ポイントをくれると私自身励みになります。

また、こういう話を書いてほしい!というものがあれば感想欄に書いてください。

次話以降もよろしくおねがいします!

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