表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/173

第17話 俺はいつでも旅行する3

 俺と日下部は今まさに緊急事態にあった。携帯は繋がらず(圏外だから)連絡手段が一つもない。その上、人気(ひとけ)がなく、道案内を任せられそうな人も一人たりともいない。土地感が一切ない俺にはやはり荷が重い。下手に動けばより一層状況の悪化へとつながる可能性があるからだ。動かないほうがいい。そう俺は思いかけていたのだが、ガラの悪いやつらがこの通りに入ってきたため、動くことにした。変なやつに絡まれるのだけは勘弁したいし。


 圏外から外れ、親父と連絡が取れた。いやいやではあるが、状況を話さないといけないと判断したまでのこと。いつまで経っても帰ってこなかったら向こうから電話してくるだろうし。そういう面倒なことはすぐに終わらせておきたい。


 すぐには繋がらなかったものの何度かかけていく内に電話はつながった。今の状況を簡単に説明し、どう動くつもりかを適当に言い募る。親父は、呆れたような感じで、


『たくっ、お前は自分勝手な行動が多いんだよ、バカ』


 第一声がそれかよクソ親父。そんなことわかってるって話だ。お前に言われんでも。


「反省してるよ、親父に言われんでも」


 思ってもいないことを適当に言う俺。日下部はキョロキョロと周囲を見ては俺の方に近づき、かと思えばまたキョロキョロ。何がしたいんだ、コイツは?


『気をつけろよ。·······それで今どのあたりにいるんだ?』


 親父は面倒だなとでも思っているのだろうか。投げやりな感じで俺にそう聞いてきた。やる気がないなら、母さんと変わってくれ、頼むから。それに話したくないのはお前だけじゃない。俺もだから。


 俺は周りを見て、


「善光寺からいつの間にか離れていて、今は地獄谷野(じごくたにや)猿公苑(えんこうえん)にいる」


 写真上で何度も見たことのある景色からそう判断した。なんでこんなところまで来てしまっているのかはよく分からないが。親父はそれを聞いて素っ頓狂な声を出し、俺は携帯から耳を話した。


 耳障りな声を出すなよ、親父のヤロー。気持ち悪いんだよ。俺がトイレ行って吐いたらどうするつもりだ。たくっ。


『ん、マジでか。俺らは今、松本城にいるぞ』


 俺の携帯からザワザワとした声が聞こえるのはそれが原因か。もう少し静かなとこで電話の対応ができないのか。頭が悪いことこの上ないな。


「・・・・・・わかった。今からそっちに向かうよ」


 俺はそう言って電話を切ろうとした。これ以上は話すこともないし、出来る限り親父と電話などしたくない。早く切りてぇ。今すぐ切りてぇ。


『そうか。道に迷うなよ』


 道に迷うか。まあ、何、さっきまで道に迷ってた俺だ。道に迷う確率は確実に高めだろう。考えるまでもなく。だがな。だが、お前にだけは言いたくないと言いたい。もっとも迷子になる率、我が家No.1のお前に。言わずもがな、2位はりずはだ。3位は多分、俺。母さんはなんでもかんでもそれなりにそつなくこなせてしまう人だからな、道に迷うとか想像もできない。なんで親父みたいな人と結婚したのだか。世も末だな。


「わかってるよ。今現在は便利なスマホってものがあるからな。わからなくなったらスマホで調べるなり、人に聞くなりするよ」


 早く切らせろよ、クソ親父!


『そうしろ、そうしろ』


 親父はそう投げやりな感じで言った。コイツ、マジで感じ悪ぃな。マジで神経疑うわ。


(親父視点からだと)、当麻はほんとに何なんだよ。勝手にいなくなるは迷子になるは。話になんねぇよ。ストレスクソ貯まるだろうが!勝手なことしやがって。電話なんかしてくんなよ!早く切らさせろよ!


「それじゃ、松本城で」


 通話を切ると日下部の方を向き、親父と話した内容をかんたんにまとめて話した。日下部自身も責任を感じているらしく結構落ち込んでいた。実際は俺の協調性ゼロの行動が原因なのだが、それを今言っても意味はないだろう。今回の騒動の原因は俺と親父との仲の悪さが原因なのだから。それ以上のものではない。


 俺は携帯からgoogle map とか言うアプリでまずは松本城の位置を調べる。今の位置からどのくらい離れていてどのくらいの時間がかかるか。これによってはバスやタクシーを使うことも考えなければならないが、金はあまり心もとない。だから、なるべく金を掛けず、それでいて短時間の移動で済むようにしたい。だが、うまくいかないだろう。これまでうまくことが進んだことがない。警戒することもまた重要になるだろう。俺達自身の体力だとか、体調とかにも気を配ってな。なにが起きても対応できるように。


 俺と日下部はスマホの地図を頼りに行動を始めた。後ろをつけてきている奴らに気づかずに。


…………………………………………………………………………………………………………


 私はお兄ちゃんと日下部さんとはぐれてしまったことを知るやお父さんに必死に頼んだ。お父さんがお兄ちゃんを嫌っているのは知っているけどそれどころではないし。


 連絡が繋がらず、ドキドキしたけど何度か電話をしているとやっとのことで繋がった。圏外のところにいたらしい。お兄ちゃんらしくなくどこに行ったのやら。遠くまでいくの普段は嫌っているのに張り切っちゃって。今回の旅行、楽しみだったのかな?分からないけどもしそうだったらいいな。普段は仏頂面で感情とかもあまり表に出さないし。これを気に旅行をエンジョイしてほしい。勉強を忘れてね!やっぱ、日下部さんがいるから楽しみなのかな?ふふ、日下部さんの()()()()に気づくのも結構早いかもしれないね。日下部さんは気づいてないと思うけど。私が気づいてるってこと。びっくりするかな?するだろうなぁ。だって、日下部さんは・・・・・・。


 お父さんが戻ってきた。すぐに話したことを私とお母さんに言ってくる。


 連絡によると地獄谷野猿公苑にいるらしい。なんでそんなところにいるのか、疑問に思うけど聞く場面じゃない。とにかく今は合流。観光を楽しむことも大切だけど今はそうじゃない。こういった緊急事態にも冷静に対処する。それが今、いちばん大切だ。


 何もなければいいんだけど。


 私達は今、松本城の前にいた。大きな城で写真でしか見たことがないけど金閣寺や銀閣寺みたいだ。


 天守ってものがあるらしくて(お兄ちゃんに聞いたことだけど)、日本の中ではかなり珍しいことなのだとか。私は勉強好きではないけど社会で歴史をやっている。さすがにお兄ちゃんみたいに勉強バ・・・・勉強好きではないけど。あれ?これもしかして2回言ってる?ハハッ。お兄ちゃんに聞かれたらまた小言もらっちゃう。今のはなかったことに。


 歴史についてもお兄ちゃんほど知ってはいない。むしろ、知らないことのほうが多いと思う。それもそう。小学校で習うことなんてたかが知れてるってお兄ちゃんが言っていたし。お父さんも知らないみたいでなんでここに来たのか正直わからない。でもまあ、大きい城を見れたしいいか。うんうん。


 私とお父さん、お母さんはお兄ちゃんがくるまでどこかのお店で待とうということになった。お兄ちゃん達がいつ来るのかわかっていないし、こっちが動いちゃうとお兄ちゃん達と合流するのは難しいから。


 お父さんも珍しくお兄ちゃんのことを心配しているようだった。お父さんも少しは素直になればいいのに。この前、お兄ちゃんが高校で学年トップだって知ったときね、


『うおしゃああああああああ!!!!!!』


 って叫んでたし。少しうるさいと思ったな。このときはお兄ちゃんいなかったっけ?だったら、お兄ちゃんは知らないのか。残念。


 お兄ちゃんとお父さんが不仲な感じなのはお兄ちゃんが中学3年生のときから知っている。というか、いい加減仲直りしてほしい。お兄ちゃんもお兄ちゃんだけど。だんだんと勉強できるようにはなっているけど性格の方は勉強ができるようになるにつれてひどくなっている。日下部さんと会ってからは多少は良くなったのかな?どうなんだろ?わかんないや。


 お父さんが言いたいこともわからなくはない。わざわざ、少し遠いとこまで行くのは(お父さんの視点だから、あれだけど。お兄ちゃんからしたら大して遠くないみたい。電車で40分ほどで着くそうだし)心配になるってこと。電車でなにがあるかわからないしって言ってたし。あれ?これって女の子の場合じゃないかな?お兄ちゃんは男の子だよ?やっぱお父さんの言ってること、わからないや。


 お兄ちゃんも我が道を行く姿勢もいいとは思うけど、少しは人の気持ちも考えてほしい。お父さんの言い分の上で自分の意見を言うとか。論破とかしたら、関係壊すのわかってるじゃん!!ほんとに性格がねじれ曲がっているんだから。日下部さんに嫌われちゃうよ?いいのかな?いいわけないよね。お兄ちゃんにとって日下部さんは大きな存在だろうし。あの全国模試のときに挫折していたお兄ちゃんを救ったのは紛れもなく日下部さんだ。恩義を感じているんじゃないかな?私から見たらあった当初と何も変わっていないように見えるけど。それでもまあ、仲良しならそれでいい。


 私はとにかくお父さんとお兄ちゃんに仲良くしてほしい。


 それだけが私の願い。


 お兄ちゃんも少しずつだけど変わってきていると思う。それも日下部さんのお陰。喧嘩したときもあったけど、今では仲良さそうにしているし、本当はつきあってるんじゃ?と思わなくはないけど、違うらしい。お兄ちゃんが頑なに否定するし、日下部さんに聞いても顔を赤くしてすごい勢いで否定するし。二人の関係は一体何なんだろう。よくわからないなぁ。


 私はお兄ちゃんみたいに勉強できないけど、楽しい旅行を台無しにはしたくない。後悔しないために。



よろしければブックマークと評価ポイントをくれると私自身励みになります。

また、こういう話を書いてほしい!というものがあれば感想欄に書いてください。

次話以降もよろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ