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第95話 俺はこうして後悔した

「木村」


 俺はそう日下部に話しかけた。日下部も俺の顔を見て、


「当麻くん」


 そう返してきた。


 俺たちの周りにはまだ栄光生はまだおり、俺は目立つのはマズイだろうと思い、


「少し場所を移そう。栄光から少し離れたところに泉があるだろ?そこで話をしよう」


「··········分かった」


 その分かったという答えは一体何について分かったのであろうか。俺が言おうとしていることなのか。それとも――――――――。


 ◇


 歩いている間は無言だった。その静寂はひどく居心地の悪いもので、俺は早足で泉へと歩く。


 栄光の近くにある泉は通称、“恋人ファウンテン”などと呼ばれている。なぜそんな名がつけられているのか俺には全く理解できないが、なんかここで告白したカップルが結ばれたとかいうことが関係しているのだろう。知らんけど。


 俺と日下部はそこに到着すると、


「木村、俺はお前に言いたいことがある」


 俺はそう切り出したが、


「待って!」


 日下部はそう言って俺が話すのを静止させた。日下部のその顔はなにやら緊張している様子で、それでいて何かを“覚悟した”ような顔だった。


「な、なんだ」


 俺は落ち着きを保とうとするもののそれはできなくて、どもってしまった。

 日下部はそんな俺を見ても無表情で、いつもの日下部とは何か違うような気が俺にはした。そして、それは言葉となって放たれた。


「もうこれ以上、私には関わらないで」


「はっ?」


 俺は今、何を言われた?日下部に俺は何を言われた?


 俺は日下部に言われたことを理解できなかった。いや、正確には日下部の言葉は聞こえた。けれど、俺はその言葉を理解したくなかった。


「な、何いってんだよ、木村。お、俺は」


「もう話しかけないで」


 日下部はうつむいた状態で俺にそう言った。俺は頭が真っ白になり、何も日下部に言い返せなかった。


「············」


「当麻くん、じゃあね」


「お、おい!待てよ!」


 でも、俺は諦め悪く、日下部を捕まえようとしたが、日下部は俺の背中を泉の方へと()()()


「えっ?」


「さよなら、当麻くん」


 そう日下部は俺に告げた。その声は震えていて今にも泣き出しそうなものだった。か細くそして、消えてしまいそうなそんな声。

 日下部の顔は涙でボロボロで俺は目を見開いた。俺は日下部にこんな表情をしてほしくなかったのに。


 ドボーーーーーーン!!!


 泉に俺が落ちたことで辺りに水が飛び出した。俺は水の中でもがき、なんとか泉の中から抜け出すことに成功した。


 俺が泉の中から這い上がったときには日下部の姿はなかった。風がただ吹くだけで無音。


 俺は、いつ以来か分からないが涙した。



 ◇


 私は当麻くんを泉の中に突き飛ばしたあと、すぐに当麻くんの家への帰宅した。


「あ!日下部さん、おかえりなさい!」


 りずはちゃんがいつもの調子で私におかえりと言ってきた。


「········ただいま」


 けど、私はいつも通りができなかった。りずはちゃんも私の異変に気づいたのだろう。少し不審な目で私を見ている。


「··········どうかしたの?」


 りずはちゃんは私を伺うように見てきた。


 りずはちゃんにはやっぱり気づかれちゃうな。


「な、なんのこと?」


 そんなことを言っても意味はないのを私は知っている。けれど、りずはちゃんが気づいていない可能性にかけてみた。それはゼロであるだろうけど。


「酷い顔してるよ、日下部さん」


「··········」


 ひどい顔かぁ。私は本来はこんな顔なのに、ひどい顔なんてひどいなぁ。


「お兄ちゃんと何かあったの?」


「りずはちゃん」


 当麻くんの名前をもう私には聞かせないで。もう、私は。


「今までありがとね、りずはちゃん。さよなら」


「えっ?日下部さん!な、何言ってんの?じ、冗談でしょ········」


 私はりずはちゃんに別れの言葉を告げると、りずはちゃんを振り切って自室に行き、荷物をまとめた。もうこの家には帰ってこれないだろうから。


「それじゃあ、私は行くから」


 りずはちゃんの声に耳を貸すことなく、私は家を出た。もう、後戻りはできない。できないところまで来てしまったんだ。



 ◇


 俺はポタポタと垂れる服から修学旅行内で買った服に着替えた。


 俺は濡れた服をビニール袋に入れると家に帰ることなく、小田切宅へとなぜか向かっていた。なんで俺は小田切の家に向かおうとしているのか。それは、多分、今、家に帰れば日下部と鉢合わせることになるからだと思う。あんなふうに拒絶されてどう日下部と顔を合わせろと言うのだ。無理に決まってる。


 俺が小田切宅の周辺を歩いていると、そこには小田切がいた。


「どうしたんだ、切井。日下部さんは?」


 日下部、か。もう俺には関係のない人間だ。


「木村はただの赤の他人だ。俺には関係ないし、小田切にも関係ないだろ」


 冷たい言い方だと思う。けど、俺にとって触れてほしくないワードを小田切は言ったんだ。


 これまでがおかしかった。俺がクズであるのに日下部が俺のことを信用しているだなんて。長野旅行で見たあのときの笑顔も偽物だったんだ。


「·········ふざけてるのか」


 小田切は俺のその言葉に眉を顰めながらそう言った。


「ふざけてなんかいねぇよ。俺は事実を言ったまでだ。今までがおかしかった。日下部に信頼されてると、信用されてると勘違いしてた。実際は全く、そんなことはないのに」


 ほんとにそうだ。日下部に言われるまで俺はなぜ気付けなかったのだろうか。なんのために俺は勉強していたのだろうか。


「木村に拒絶されて、俺はやっと気づいた」


「なっ············!?」


 小田切は目を見開き、驚いていた。驚く要素など無に等しいのに。


「何驚いてんだ。お前だって気づいてたんだろ?」


「日下部さんが切井を拒絶した?なんかの間違いだろ!」


「だったら!」


 俺は目から涙がまた流れた。日下部に言われたあの言葉が俺の脳裏に蘇ってくる。夢ならどれだけよかったか。小田切には絶対にわからない!


「だったら!なんで俺はこんな目にあうんだよ·········!俺は日下部の助けになりたくて、声をかけた!なのに、日下部はそんなことを望んでなかった。それどころか·········拒絶されるなんて思ってなかった··········」


 俺は情けなく喚いた。冷静なんてそんなものはどこかに捨ててしまったのであろう、俺は大きく取り乱し、ただ叫ぶだけ。


 日下部に拒絶されるくらいなら手を伸ばさなければよかった。現状維持が一番よかったのだ。


「日下部なんかを助けるなんてマネをしなければよかった········。現状維持が最善のやり方だった」


 俺は泣き止むとそう呟いた。だってそうだろ?俺はこんな人間でしかないのだから。


 俺は下を向くと次の瞬間には倒れていた。いや、殴られた?


「ふざけんじゃねぇ!!!!!!!!!」


 小田切がそう言って俺を見下ろしていた。

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