第9話 俺はいつでも喧嘩する2
日下部とケンカ別れをしてから数日たった。俺は勉強をひたすらやり続けていたが、効果はない。集中ができず、ストレスがたまり、勉強が全くはかどらない。何をしているのか、自分でもわからなくなってきた。手を動かしていても何かに気を取られ、勉強に集中てきていない。
小テストで満点をとっても達成感がなく、何をしても無関心。嫌になってきた。何もしたくない。何もやりたくない。どこにも行きたくない。それだけが俺の頭の中にあった。
夏休みが近づいている中、期末試験が近づいている中、俺は勉強をついに···········やめた。これまで続けてきたことを俺は手放すことにした。
試験が返却された。それは、今までにない“最低点”であった。学年では2位。何をしているのか。俺は結果を見て笑いがこみ上げてきた。
切井当麻
国語 99/100
数学100/100
英語 98/100
社会 94/100
理科 96/100
合計487/500
日下部響子
国語 97/100
数学100/100
英語 98/100
社会 97/100
理科 98/100
合計490/500
なんだこれは。勉強を全くやらなかったがために点数を大きく落とした。それは至極当然のことで、当たり前の結果だ。努力しなかった分、点数が下がる。なんら不思議なことはない。
本来なら、復習なんかをするべきなのだろう。だけど今は何もしたくない。それに勉強したところで何になる?なんにもならないだろ?勉強してきたからと言って俺が変わるとは到底思えない。あの子と再会したい?今ではもう、どうでもいい。
俺は廊下を歩いていると、
「切井、どうした?お前らしくなく、点数落として。何か悩みとかあるのか?先生が聞くぞ」
数学以外の全ての教科でテストが返却されるごとに俺はそう言われ、どこまでも俺は落ちぶれていった。俺は変な気遣いはいらないと口にしたいが、それすらも面倒になってきていた。
「いえ、なにもないです」
俺はそう言うと、席に戻っていった。教科担当の先生はそんな俺を心配した目で見てきたが、俺は気づかないふりをしてスルーする。どうせ、このあとの科目でも言われることだ。相手にするだけ無駄だ。それにテストの点数をたとえ下げても今は何も感じない。何も思わない。そんな俺は変なのだろうか。
俺はホームルームが終わると速攻で家に帰宅した。
家にはりずはがいた。俺は気にすることなく、期末試験の個表を机の上においた。日下部はあれから来ていない。そう、俺と揉めてから。
りずはは黙って俺の結果を見ていた。りずはは驚愕の顔で俺を見て、
「お兄ちゃん、これ············!」
まあそういう反応するよな。今まで普通にやって満点だったからな。でも、これからそんなことはもう二度と起きない。親が勉強にうるさい人でなくてよかったと思う。ほんとに。
俺はもうどうでもいいものであったのでそのままにした。
りずはは俺が勉強しなくなったのを見ている。それについて詮索するようなことはしてこなかった。俺がやめた原因も知っていることだと思うし。
俺はどうすればよいのか。どうするのが正解なのか。考えていつも行き着くのは勉強することだった。しかし、勉強をしたところでなにか変わるようなことはない。それは俺が無意味に過ごしている日常から分かる。むしろ、退化したのではないか。そう思わずにはいられない。
部屋の中で俺は天井を見上げ、ぼーっとしていた。
ピンポーンと音がしたが、りずはが対応するだろう。俺はいつも出てないし。
少し時間がたっただろうか。一階がやけに騒がしい。俺はイライラしながら、一階へと降りて行った。
「うるさいぞ。少し静かにしろ」
俺はそう言うと、
「お兄ちゃん、どうせ勉強なんかしてないでしょ。ぼーっと天井見てるだけじゃん。ここ最近ずっと」
「・・・・・・・・・・・・」
りずはの言い分に口答えすることができなかった。というか、実際そうだし。それは置いといて、なんで日下部がいるんだ!?
日下部はリビングのソファに腰を下ろしていた。特に今までと様子は同じ。喧嘩をしてから色々と顔を合わせるのが気まずく感じていたが、いつもどおりの日下部を見て俺はホッとした。だが、りずはが言ったことを聞くと驚く表情を浮かべた。
日下部はりずはが言ったことが信じられないかのように目を見開いている。そんなに勉強していない俺が想像できないか。まあ、勉強しなくなったのは初めての経験ではあるが。
俺はとにかく日下部を無視し続けるのもなにか違うだろうと思い、
「久しぶりだな」
「う、うん。久しぶり」
口籠ってはいたが、返事を返してくれた。学年トップは今、日下部だ。もう勝つことはないだろう。というより、これから下がることしかない。勉強なんてもうやるつもりもないしな。
「勉強してないの?」
日下部は恐る恐る聞いてきた。俺はどこぞのヤクザか。
「そうだよ。これからもやるつもりはない」
俺の言葉にはりずはも驚いていた。今まで勉強以外を捨ててきた俺だが、全国模試の結果から勉強する気力が消え失せた。
もうやらねぇ。やる気すら消えた。それが俺の今の気持ちを端的に表す言葉だ。
「ふざけないでよ。あの子のために勉強するんじゃなかったの?!」
日下部は認められないか、俺に詰め寄ってきた。俺は顔をしかめながら日下部を見る。
鬱陶しいな。お前には関係ないだろ!
「勉強すれば何になるっていうんだ?勉強すれば人の役に立てる。そう思って勉強してきた。だが、現実はそうじゃなかった。俺はもう“不要”な人間だ。日下部もそう思うだろ?」
「な、何言ってるの?切井くん、冗談言わないでよ」
冗談だと!?俺は本気で言ってるのに冗談だと。ふざけんじゃねえ。
「もう話すことはない」
俺は部屋に戻ろうとした。足を踏み出し、リビングから出ようとすると、腕を掴まれた。
「話は終わってない」
「何を話したって変わらない。俺はもう勉強しない!」
「切井くんなら絶対次トップになれる。私は信じてるから」
「次なんてねぇって言ってんだろ!!なんでわからねぇんだよ!!」
「わかってないのは、切井くんの方だよ!!なんであんな点数取ってて普通でいられるの?前ならすごい悔しがって勉強してたじゃん!」
「前の話をするんじゃねぇ!過去の話なんかをあてにして、逃げて、俺はどんどんクズになり果てた···········。日下部だって俺が点数落としたのをあざ笑ってんだろ?だったら、ほっとけばいいじゃねぇか。そしたら、お前の言う次の試験でも1位が取れるんじゃねぇのか?」
日下部は信じられないかのように俺を見て、俺をぶっ飛ばした。
「ふざけないでよ!!!!!!」
涙声で俺に向かって怒りをぶつける。今まで見たことがない日下部の表情に俺は動揺した。俺は頭が真っ白になり、そして、自分が言った言葉の数々を思い出してより嫌気がさしてきた。俺はどこまでクズなのだろうか。
「一回失敗しただけで諦めるくらいなら、端から人を救いたいなんておこがましいんだよ!!!」
「んなの、わかってんだよ!!!!!」
日下部の胸くらを掴み、叫ぶ。
「お前に言われるまでもなく、んなことわかってんだよ!!!!!もうどうしたらいいかわからねぇんだよ・・・・・・・・・・・。
日下部、人のおせっかい焼いてないで家に帰って勉強でもしてろよ。俺みたいなザコの相手してたらバカになるぞ」
俺は日下部の襟首から手を離すとそうつぶやいた。
日下部は俺に呆れたのか、りずはに「じゃあ帰るね」そう言って帰っていった。
俺はいつでも変わらない。やることなすこと、全てが間違っていて、俺は勉強すらもできなくなり、クズへとなり果てた。いいきみだ。
りずはは俺に何も言わず、部屋に戻っていった。
リビングには俺だけがのこされ、日下部に殴られた部分をさすりながら、自室に戻った。
俺はいつでもダメなやつだと確信した。
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