#9 人体を魔械造/偽機母神教国の秘密
「え……ほ、本当なの、お姉ちゃん!」
「ええ、きっと!」
私はスマラちゃんに、そう告げた。
「おいおい、やめとけよ! 金はたんまりあるんだから、医者に頼みゃいいじゃねえか? そもそも、俺らはなあ」
「……さ、やろスマラちゃん!」
「うん!」
「モガモガ……お、おいマイカー!」
私はむんずと、pyston変形カバンの口を掴んだ。
悪いけど、少し黙っててもらえるかしらpystonちゃん?
私だって分かっているわよ。
一刻も早く偽機母神教の実態を探らなきゃいけない、でしょう?
それは分かってる。
―― ……あ゛あ゛〜! よくもよくも、今すぐにでもgearntちゃんたちに他の全人類諸共! 滅ぼさせてやりでえ゛なあああ!
……改めて思い出したけど、あんなGEAr様の本気を見た後じゃね。
でも。
「……薬やお医者さんじゃ治せるか分からない。でも! 私にそういうスキルがあるなら……治せると思う、多分!」
「もが……まったく、多分とは! 無責任この上ないな!」
あーもう、口を塞がれて尚ねちっこいわあんたは!
……とはいえ、我ながら無責任なのは否定できないわ。
だけど。
「無責任に言った分……きちんと! 責任は果たすから!」
「モガモガ! ……ったく、つくづくお人好しだな!」
そう、私やってみる!
じゃないと、スマラちゃんのお母さんは本当に助からないかもしれないから!
「さあ……始めるわ!」
私は、魔械と化したスマラちゃんママの身体に。
メス――じゃなくて。
スパナやドライバーを、入れたわ!
◆◇
「……こ、これは」
「お母さん!」
「スマラ! わ、私はどうして」
……ふう、何とか終わったわ。
やれやれ、ちょっと格好つけすぎたけど。
一応、手術――いえ、修理は完了よ。
「マイカーお姉ちゃんが、助けてくれたの!」
「マイカーさんが……? あ、ありがとうございます!」
「あ、いえいえそんな!」
スマラちゃんママが、恭しく頭を下げてくれたわ。
「……よかったな、まぐれで口ばっかりにならずに済んで」
「……好きでやっただけですから〜!」
「……モガモガ! ち、離せマイカーてめえ!」
私はスマラちゃんママに、頭を下げながら。
相変わらずねちっこいpyston変形カバンの口を左手で掴む。
うん、まああなたの言う通りよpyston!
だけど、あなたには言われたくないわね〜!
◆◇
「あらあらうふふ、ご機嫌ようマイカーさん。」
「はい、GEAr様こそご機嫌麗しく!」
その日の仕事終わり。
私はいつも通りというべきかGEAr様に、報告を上げようとしていたわ。
「あらあらうふふ、何か分かったかしら?」
「あ……はい。」
だけど私は、そこで言い淀んだ。
――私に――いや、GEAr様に逆らうのか? 供物を怠ると神の怒りを買うぞ!
はい、GEAr様。
あの腹黒司祭の一味――偽機母神教が人々から信仰を餌に供物と称して金品巻き上げています!
……なんて言えないい!
いやだってだって、言っちょったら!
―― ……あ゛あ゛〜! よくもよくも、今すぐにでもgearntちゃんたちに他の全人類諸共! 滅ぼさせてやりでえ゛なあああ!
……ってなるのが、目に見えてんのよ?
「あらあらうふふ、どうしたのかしらマイカーさん?」
「……申し訳ありませんGEAr様。まだ調査は進んでおりません……」
「あらあらうふふ! そう……でも焦らなくていいわよ、マイカーさん♡」
「は、はい……ありがとうございます!」
うん……非常に申し訳ないけど!
私はまだ、GEAr様にこのことを隠し立てすることにしましたとさ!
◆◇
だけど……次の日のことだったわ。
「頼もう! マイカー・エンデバーなる異国嬢はこちらではないか?」
「!? あれは……兵士さんたち?」
何と。
スマラちゃんの家に、偽機母神教擁する兵士たちが!
「スマラ、あなたは下がって! ……これはこれは兵士様方。私たちは、左様な者は知りませんが」
「何だと……このアマ!」
な……この兵士!
ちょっと、スマラちゃんママはすぐ応対したでしょ!
何で乱暴なことすんのよ!
「司祭がおっしゃったのだ、罪人マイカー・エンデバーはここにいると! ……司祭や巫女猊下のお言葉は機母神GEAr様のお言葉! それに知らないと返すなど機母神様への冒涜なるぞ!」
「く……申し訳、ございません……」
「お、お母さん!」
だから、何してんのよ!
GEAr様への冒涜?
特大ブーメランかましてんじゃないわよ偽機母神教!
「スマラ……駄目よ、入ってなさい」
「ええい、まどろっこしい! 家探しせよ!」
「はっ!!」
「ひい、お、お母さん!」
「スマラ!」
く……あんたたち!
スマラちゃんママのみならず、スマラちゃんにまで……こんな小さい娘に、何してんのよ!
「ふん、見つからぬか……まあよい。あの小娘を誘き寄せるための、餌に使える! 女と娘は連れて行け!」
「はっ!!」
「す、スマラ!」
「ママ!」
「く……スマラちゃん、スマラちゃんママ……!」
私は、のこのこと。
二人が連れ去られ、家が荒らされた後にやって来たわ!
「ふむふむ……『女と娘は預かった、返して欲しければ神託所まで来い』……ったくマイカー! 中途半端に一般人に関わるから、面倒が増えたぞ!」
ええ……面目ないわ。
だから。
「……なら行ってやろうじゃないの、神託所とやらに!」
「シャー……ん、この匂いは。こりゃ……お前の大好きな、ブラック勇者パーティー御一行の匂いだな!」
「……え!?」
pystonはがま口部分から舌を出して――これ、匂いを嗅いでるらしいわ――、そう言った。
私はそこで、ブラック勇者パーティーがここに来ていることを初めて知った。
◆◇
「まったく、あの小娘め! ……マイカー・エンデバーと言ったか。私に恥をかかせおって!」
少し、時を遡るわ。
昨日のこと。
あの腹黒司祭――確か本名はクローム司祭、だったかしら?――は私がスマラちゃんを助けたことに腹を立てていた。
「あの、ちょっとお尋ねしますが」
「何だ!」
「ひっ!」
と、そこへ。
声を掛けて来たのは、密入国してたブラック勇者パーティー!
「あ……すみません、俺あトランシュ・ブラックと言います。こいつらは俺が率いる勇者パーティーの連れで」
「ど、どうも!!」
「……ふん、聞いたこともない勇者パーティーだな。よほど底辺のパーティーなのだろう。」
うん、腹黒司祭。
あんた、今回は正しいわ。
「ひっどいな、旦那。……ところで。俺ら、女を探してんすけど。マイカー・エンデバーって奴知りませんか?」
「……何!?」
「うおっと! だ、旦那あ!?」
だけど、私の名前を聞いた途端。
腹黒司祭は、ブラックに掴みかからん勢いで掴みかかって来た!
いや実際に掴みかかってるけどさておき。
「貴様ら……あの小娘を知っているのか?」
「あ、はい……どうやら知ってるみたいっすね〜! ちょっと教えて欲しいんすけど。」
「……貴様ら、密入国だな?」
「ええ!? ど、どうしてそれを」
「こ、こら馬鹿! ここはとぼけてやり過ごす所でしょ!」
いや、無理よ。
あんたたち、潮の匂いがする水でビッショビショ。
それじゃ、『私たち海を泳いで渡って来た密入国者です』って言ってるようなもんでしょ。
え、私?
やだなあ、ちゃんと正規の入国手続きしてるわよ!
さておき。
「……貴様ら、密入国については目を瞑ってやろう。だから……私に協力しろ!」
「は……はい!」
半ば脅迫めいたやり方で腹黒司祭は。
ブラック一行に、そう持ちかけたわ。
それによって腹黒司祭は、私を罪人に仕立て上げて。
あんなひどいことを――
◆◇
「……機母神教の神託所ですよね? 言われたから来ました、私はマイカー・エンデバー! 早くスマラちゃん親子を離して!」
「……ふむ、よくぞ来たな小娘! 飛んで火に入る夏の虫だな、ははは!」
「む……痛い! ちょっと、そんなにしなくても……大人しく捕まるわよ。」
そうして私は。
大人しく、腹黒司祭に捕らえられたわ!
◆◇
「お姉ちゃん!」
「マイカーさん!」
「何でよ! スマラちゃん親子はすぐ離してくれるんじゃなかったの!?」
……だけど。
神託所内で、私は。
偽機母神の偶像が立つ祭壇を前に、スマラちゃん親子と共に縛られている。
「口の利き方に気をつけろ罪人めが!」
「痛っ!」
「お、お姉ちゃん!」
私は殴られた。
……ったく、腹黒司祭!
後で覚えてなさい……
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だから心配しないで、スマラちゃん! ……こんな偽機母神教、所詮本物の女神様には敵わないんだから!」
「何だと、この減らず口が!」
痛い!
私は今度は、蹴られた。
でも、けろっとしてる。
ふん……でもいいわよ。
だって本当のことなんだから。
……でも待って、あのブラックたちと手を組んだのよね?
だったら、本物のGEAr様のこと何も聞いてないのかしら?
「あんたたち」
「まあ待ちなさいクローム……機母神様の前で、はしたないわよ?」
「!? も、申し訳ございませんカサンダ巫女猊下……」
と、私が奴らにそのことを聞こうとしたら。
ん、猊下?
そう呼ばれた、まだ10代後半ぐらいの女の子が祭壇の上にいたわ。
……なるほど、あなたがこの偽機母神教の要かしら?
「……でも、ええとマイカーさんかしら? 偽機母神教とは心外ね、正真正銘本物の機母神様なのに!」
……はいはい、そうですかーだ!
「まあいいわ……百聞は一見にしかずね。 ……さあ、我らがGEAr様! この者たちにも、祝福を!(発動、偽機母神魔械!)」
む、カサンダとかいう人!
心中でだけど言ったわね、偽機母神魔械って!
言ったわね!
そう私も、心中でつっこんだけど。
「!? む」
「な……何これ!」
「スマラ!」
私たちは瞬く間に、異空間へと送り込まれた!
……そこは。
「……私たちの、GEAr様……」
「アラアラウフフ、ドウシタノ?」
……ぶっ!
何これ、舐めてんの?
私が呆れたことに、それは分かりやすいほどにチャッチいGEAr様の偽物だった――
◆◇
「……さあ、今日こそ。人類が滅ぶ日よ……」
でも私は、この時知らなかった。
GEAr様の、お覚悟を――