#7 労働対価自動変換魔械の最後
「な……で、出鱈目を……そ、それも最高に罰当たりな出鱈目を言うな!」
「そ、そうだぞ小娘! 貴様のようなガキが、機母神GEAr様の技師だと? ふざけるな!」
へえ?
そういうこと……言っちゃうんだ?
「……pystonちゃん!」
「ったく、母上にあんなこと言っておいて結局は俺の力を借りるとはな! まあ……別に嫌じゃねえから引き受けてやるよお!」
「くっ……なっ!」
私は騎乗するpystonに。
その背中から、声をかけたわ。
「ば、化け物だあ!」
「……はあ゛〜!? ふざけんじゃねえぞてめえら! 人間の分際でよくもこの俺を化け物呼ばわりしてくれたなおら! 俺は機母神GEAr様の息子だぞオラ、機母神と同じく崇め奉れよ俺を!」
……うん、またねちっこタイムが始まっちゃったけど。
「そんなことはどうでもいいから、pystonちゃん!」
「おう、分かってるっての! ここは……俺の力でこんな奴ら捻り潰して」
「もう、ねちっこい上に脳筋なんだから! ダメよ、あくまでこいつらには生きながら地獄を味わってもらわないと!」
ねちっこい上に脳筋とは、つくづく扱いづらいわねこの子は!
「だあもう、まどろっこしいなあ! ここはさっさとやっちまえば」
「さあ……魔械カバーオープン!」
「ぐっ……もが! ま、マイカーてめえ!」
まどろっこしい?
ねちっこいあんたには言われたくないっつーのpyston!
やっぱりこういうときは、魔械に改造してしまうに限るわ!
「な! ば、化け物が銃に」
「……機関銃魔械、発動!」
「な!? ひ、ひいい! こ、こいつ弾丸を連射して!」
「な、何をしている衛兵! 早くせんか!」
「は、ははあ!」
あらあら。
私が鬼の形相で、機関銃型に改造したpystonを乱射したら。
王様たちはビビッて、衛兵たちを促したわ!
……でも、残念でしたー☆
「ぐああ!」
鍛え上げられた衛兵たちも、さすがに。
私の乱射する凶弾の前には、役に立たなかったワ♡
「な……き、貴様! 人殺しをしたな!」
「はい、次はあなたたちの番でーす♡」
「ひいい!」
「お、王様!」
まあ、なーんてね!
これはただの睡眠弾、殺しなんてできゃしないんだけど!
でもこれは、王様たちを追い立てるのが目的なので。
私は逃げ惑う王様や大臣にも、弾丸を乱射した!
◆◇
「く、来るな!」
「いいえ、来ますよ鬼さんは……あなたたちの、首が欲しいから!」
「ひいい!」
私はpystonを抱えながら、そしてぶっ放しながら。
尚も、怯える王様や大臣を追いかける。
……でも。
「おっと!」
「!? お、王様! 奴はコケました! 今のうちに!」
「あ、ああ! ……あれだけは、何があっても触れさせん!」
あらら、私がコケた隙に。
王様と大臣は逃げる逃げる!
「お、おいこら! 何コケてやがんだよ、早くあいつら追わないと」
ああもう、機関銃に変形してもねちっこいわねpystonは!
まあでも、大丈夫よ。
どこに行くかは、分かっているから。
◆◇
「はあはあ……お、王様どうぞ!」
「ああ、感謝する……さあ、扉を閉めよ!」
そのままネコニックバン国王と大臣が立て篭もった先は、分厚い鉄の扉に塞がれた部屋。
その部屋には、更に。
「だ、大丈夫です陛下! これで如何な奴らと言えど入って来られませぬ!」
「だははは! そうだそうだ、機母神GEAr様の技師などと出鱈目を宣っても何も出来まいよ!」
……いやムカつくな、出鱈目じゃないってのに!
まあそれは置いといて。
その部屋には更に、金銀財宝が唸るほど保管されていたわ!
そう、ここが奴らの行き先。
つまりここは、金庫よ。
「おお、ワシの可愛い財宝たちよ……ワシを守ってくれるのは、そなたたちだけじゃ……」
あーらら、みっともなくも。
王様は、金銀財宝に抱きつく抱きつく!
まったく、見てられないわね……
でも、分かったわ。
「今です、グラシャスさん!」
「わ、分かったマイカーさん! ……コール、年中氷室魔械!」
「!? な、何だ! 今の声は……あの小娘か!」
「ひ、ひい王様! な、何やらこの金庫寒く……はっ、ハーックション!」
ええ、私はグラシャスさんに協力してもらったわ!
――ど、どうですかこれ!? い、一年中部屋を寒いままにできる魔械ですよ!
――う、うん……はっ、ハーックション!
あの時彼が作った、一見すると使い所がない魔械を使ってね!
「こ、小娘……な、何をしたあ!?」
あら、王様が何かほざいてる。
何をした?
そんなの、あんたがさっき言った通り。
―― おお、ワシの可愛い財宝たちよ……ワシを守ってくれるのは、そなたたちだけじゃ……
そう、その可愛い財宝たちと一緒にいられるようにしてあげたの!
更に、それだけじゃないわよ?
「……コール、労働対価自動変換魔械! さあ、魔械よ発動しなさい! バカ王……ゴホッ! 偉大な王たちが我慢比べでせっせと稼いだ分を、金貨に変換しなさい!」
「な、何!? が、我慢比べだと……ハーッ、クション!」
そう、この際だから。
私はあなたたちの労働対価自動変換魔械も接収し、それを利用してあなたたちみたいな無能でも稼げる方法を模索してこうなりました!
「す、すごいよマイカーさん! 王様たちの働き振りが、お金に……あれ?」
グラシャスさんが、労働対価自動変換魔械のある王の間から呼びかけてくれてるけど。
ああ大丈夫、何が今起こっているかは金庫のすぐ外にいるpyston持ちの私でも分かります。
「……ちょっとちょっと王様あ、ちょっとしかお金にならないんですけどお?」
「本当だな、今回ばかりはお前に同意だ! こんなんじゃお前の言う愚民共の方がもっと稼いでたぜ?」
私とpystonが言うように。
王様と大臣の稼ぎは、残念ながら大したものにはなってませんねえ。
「うーん、じゃあ選ばせてあげる! これまで国民から巻き上げてた金庫にあるお金、そのまま全部国民に返すか。それとも、その金庫で可愛い可愛い財宝たちに囲まれたまま我慢比べで稼いで返すか。……さあ、どうするの?」
「な……は、ハーックション! き、貴様あ……」
私がそう、王様や大臣に呼びかけると。
あらあら、お気に召さないのか。
怨嗟が返って来たわ。
「ふーん、選べませんか……でも、早くしてくれませんかねえ? もう定時なんで。」
「は、ハーックション! な、何を言っている……知ったことかあ!」
いや、充分知ったことですよ?
だって、これは……
――あらあらうふふ、マイカーさんどうしてお帰りにならないの?
「!? な、何だこの神々しいお声は……」
「こ、これはまさか……」
「……聞いてくださいよGEAr様! この人たちが帰らせてくれないんです! このままじゃ」
――あらあらうふふ……はあ゛〜!? また私の可愛い可愛いマイカーさんをいじめる奴らかあ゛〜!? 許さない……私の可愛いgearntちゃんたちが踏み潰してやる゛よおお!
「ひ、ひいい!!!!」
「な……何だこれは!?」
あらあらうふふ(棒読み)、驚いてるわ。
まあ、金庫の中の周囲の空間が一気に暗くなり、何か蠢く巨人みたいな者たちが見えたってなればさすがにね?
充分知ったことだって言ったでしょ、このままじゃネコニックバン国だけじゃなくて世界そのものが滅ぼされちゃうんですよ?
「……さあ、さっさと選んでくださいますよね王様?」
「ひ、ひいい! わ、分かった! この金は全て国民に返す、だから開放してくれええ!」
……はい、ありがとうございます。
「……さあて。グラシャスさん、年中氷室魔械を止めて下さい!」
「り、了解!」
「ハーックショ……お? お、王様! 冷気が収まりました!」
「お、おお! や、やった!」
私はまず、金庫の中の冷気を止ませた。
そして。
「コール、労働対価自動変換魔械! 改造……そして、労働対価全額国民還元魔械発動! 金成地、発動!」
「な!? そ、そんなあ……せっかく貯めた財宝があ……」
あらあらうふふ(棒読み)、そうあなたたちが貯めたお金は。
◆◇
「お、おお! な、何だこの金は!」
「す、すごい……俺たち一日で何もしていないのに億万長者だ!」
ネコニックバンの国民全てに、地から湧いて還元されました。
それと、ネコニックバンの国民さん。
いやいや。
それは何もしていなかった王や大臣が巻き上げていたお金を、あなたたちが今ようやく受け取ったというだけですからね?
「あ、あれ? ぼ、僕にもただでお金が……」
ああグラシャスさん。
だって、あのブラック勇者パーティー屋台で働いていた人はあなただけでしたから。
あなたにも、当然受け取るべきものが還元されただけですからね?
◆◇
――さぁあんたたち……私の可愛い可愛いマイカーさんへの落とし前、どうつけてくれんじゃゴルァアア!
「ひ、ひいい! お許しをお許しを!」
……だけど王と大臣は、財産喪失を悲しむ間もなく。
GEAr様に今、迫られているわ。
「……まあお待ちくださいGEAr様! この者たちにはこれから、汗水流して国民や自分たちのために働いてもらいましょう! それで贖罪としてもらう……いいですよね、王様と大臣も?」
「ひ、ひいい!! あ、ああ何でもするから許してくれええ!」
……はい、素直でよろしい。
「……GEAr様。まあこの通り本人たちも反省してることですし。それに、確かに定時は過ぎてますが直後に休憩時間です。ギリギリセーフですから、どうか」
――あらあらうふふ! ごめんなさい私としたことが♡ ええ、マイカーさんがそう言うなら……分かったか、ボケ共があ!
「ひいい! は、はいい!」
……うん、私ギリギリ残業はしてないの。
かくして。
GEAr様のバグ:労働対価自動変換魔械によるネコニックバン国王による国民からの搾取と偽通貨の流通、これにて修正完了!
お疲れっしたー!