#6 あくまで自分でバグ修正
「はーあ……」
「あらあらうふふ、マイカーさん大分お疲れのようね。」
「!? は、はいGEAr様! ご、ご機嫌麗しく!」
私がその日、ギリギリ定時で仕事を終えて帰って来た後。
いつも通りというべきか、GEAr様に報告していたわ。
……どうでもいいけど、これって残業に当たりませんか?
「どうだったかしらマイカーさん、ネコニックバン国は?」
「あ……は、はい! そ、そうですね……」
私はGEAr様のこのお言葉に、曖昧に笑い返した。
――ははは、またまたがっぽがっぽ! 労働対価自動変換魔械……人間が働いた量を、そのまま金に変換できる魔械だ!
……そう、GEAr様がおっしゃる通り!
あの国は、馬鹿な国民には価値が分からないとか言って、国民たちには偽通貨を使わせて!
国王がぼろ儲けするために、その労働対価自動変換魔械を使って国民が稼ぐはずだったお金を全て巻き上げている太い奴らです!
……と、言いたいところなんだけど。
――私のマイカーさんをこんな目に合わせやがってええ! 何晒しとくれとんじゃおらあ、すぐにでも滅ぼしてやるわああん!?
……それを聞いたGEAr様がどんな行動に出られるか分かりきっているので、ああああどーしよう!
……よし。
「……も、申し訳ありませんGEAr様! そ、それが私まだ突き止め切れていませんで……」
「あらあらうふふ、そうだったの。マイカーさんでも確かめ切れてないなんて、今回は中々難敵ねえ。」
「は、はい! 面目もございません……」
と、まあこう言うしかない訳よ。
……よしよし!
かくなる上は、GEAr様がご干渉なさるまでもなく!
この私の力(と、時々pystonの力)で!
「だ、大丈夫ですGEAr様! この私が必ず! 必っず!! ネコニックバン国の秘密を暴き立てて見せます!」
「あらあらうふふ、マイカーさんがそう言うなら♡ じゃ、引き続き頑張ってね!」
……ええええ、GEAr様!
この私マイカー、あなた様のためなら例え火の中水の底です!
◆◇
「いやしかしよおお前、母上にあんな大見得切っといて大丈夫なんだろうな?」
ネコニックバンの街道を歩きながら、私はバッグに変形したpystonの(いつも通りねちっこい)嫌味をギャアギャアと聞かされていた。
「ああもう……いい、ここでは極力話しかけないでって言ったでしょ? 私の声はpystonちゃんとは違って他に聞こえるの!」
「おいおい何だ? まさか、ハッタリだっていうんじゃねえよなあ? それは中々いい度胸だなあ、マイカーさんよお」
……ああもう、本当にねちっこいんだから!
と、その時。
「ほら魔法技師! さっさと動けや!」
「は、はいすみません!」
「本当に使えないわね!」
「ははは!」
まあた、あのブラック勇者パーティー!
グラシャスさんばっかり働かせてるわ、もう!
ん、ちょっと待った。
――ど、どうですかこれ!? い、一年中部屋を寒いままにできる魔械ですよ!
――う、うん……はっ、ハーックション!
「……これだわ!」
「は? おい聞いてんのかマイカー、無視すんなよ!」
相変わらずのpystonのねちっこさだけど!
ここは、やるしかないわ!
「……よし。」
◆◇
「ほら、しっかり押せや!」
「ぐっ……こ、この屋台重すぎますよ! ぼ、僕が魔械で自動で動くようにできますから」
「ああん!? 何だ、俺に歯向かうってのか魔法技師風情がよお!」
「ああ、下っ端は黙っとけ!」
「ええ、あんたみたいな下っ端! 口一回聞くのもお金が要るぐらいよ!」
「ははは!」
……あーあ、まったく!
相変わらずの悪辣ぶりねブラック勇者パーティーさんたち!
そんな奴らには、これよ!
「……コール、拘束魔械!」
「ぐっ……な、何だこれは!?」
私は魔械を発動し。
ブラック勇者パーティーのうち、グラシャスさん以外だけ地面から触手を生やして拘束したわ!
「お久しぶり、ブラック勇者パーティーさん?」
「な……ま、マイカー!」
「マイカーさん!」
あらあら、驚いてる。
……だけど。
「悪いけど見せてもらったわ! あんたたちがグラシャスさんにしてた、反吐が出るような所業の数々を!」
「な……」
「さあて……私を怒らせたらどうなるか、分かってるわよね?」
「……ひいい!!!」
私はジト目で、空中に括られたブラック勇者パーティーの面々を睨みつつ叫んだわ。
すると奴ら、意外と学習してるらしく怯えてくれてるわ。
――あらあらうふふ……はあ゛〜!? こいつらよく見れば……私の可愛い可愛いマイカーさんをいじめてくれた奴らじゃねえか!? 許さない……私の可愛いgearntちゃんたちが踏み潰してやる゛よおお!
……そう、以前ガーデニンシュイであったことはちゃんと覚えているみたい。
……なんだけど。
「だけど、まあいいわ……私はあんたたちだけが踏み潰される分にはザマアって思うだけだけど! この世界諸共潰されるなんてとばっちりも甚だしいから私もいや! だから……あんたらには、私の要求を一つ呑んでくれたらそれでいいわ!」
「よ、要求?」
そ。
そういうことよ!
あんたらなんかと心中する趣味はこの世界の誰にもない!
だから、この要求だけは呑んで?
ん、どんな要求かって?
それはね……
「……グラシャスさんを解放してあげなさい! それだけよ。」
「な……か、勝手にそんなことを!」
あら、こんな要求一つも呑めないの?
しょうがないわね……
「……そ、聞いてくれないんだ? じゃあ」
「ま、待て! わ、分かった! そ、そいつを解放してやる!」
「……やる? へえ、そんな上から目線かあ?」
「ぐっ! か、解放する! だ、だから俺たちも解放……してください!」
へえ、素直でいいじゃない!
分かったわ、解放してあげる!
「ぐ! く、くそ……あの女、また俺たちをコケにしやがって! 今に見てろ」
「ち、ちょっとリーダー! そ、そんなこと言ったらよお」
「い、いいんじゃない……あいつもグラシャスとかいう魔法技師も、もういないんだから。」
解放してやったブラック勇者パーティーだけど。
結局、今回も変わらないままとはね!
……まあ、いいわ。
ひとまず、グラシャスさんを連れて私はさっさとトンズラしたから。
◆◇
「ふふ、はははは! 今日も我が臣民たちは必死に汗水流して働いているか?」
「はい! それはもう昨日にも増してかもしれません!」
その頃、ネコニックバンの王城では。
まあた、あの王様と大臣が!
その悪人顔を、気持ち悪くも歪ませて笑っているわ!
「ははは、結構結構! さぞかし今宵もこの労働対価自動変換魔械で大金に変換されるのだろうなあ!」
――へえ、それってどんな魔械なの?
「ははは、これはすごいぞ! 人間が働いた量を、そのまま金に変換できる魔械だ大臣! 分かりきったことを聞くとは馬鹿だなあ貴様もははは!」
「ははは! ……いえ王様、わたくしではございませんよ?」
「……何?」
「だ、誰だ! え、衛兵共出会ええ! 曲者が城内に侵入した模様」
――いいえ、模様じゃない……それが真実よ!
私はそう叫びながら。
天井に自ら騎乗するpyston諸共張り付いていたのを、一気に降りて来たわ!
「だ、誰だ!」
誰?
いやまあ、信じてくれないとは思うけど……
私は、この世界そのものでもある機母神GEAr様の技師!
異世械技師の少女マイカー・エンデバーよ!