#5 ネコニックバン国
「さあいらっしゃい! 朝どれの野菜は要らんかね?」
「いやいや、朝どれ魚もうまいよ!」
「何の何の、朝どれ肉もうまいよ!」
「何言ってんだ、この朝どれ農具もうまいぞ!」
「いや農具は取れるものじゃないし食うもんでもないだろ!」
「あ、そうか! あははは!」
うん……
とてもGEAr様のバグが起こっているとは考えられないほど、笑顔に溢れた街ね。
そんなこんなで、私は。
新たな任務のため、ネコニックバン国に来ているわ。
その名の通りというべきか、ネコの獣人たちによる国。
でも、ここは。
――馬鹿な国民には価値が分からないとか言って、国民たちには偽通貨を使わせて国王がぼろ儲けしてやがるネコニックバン国! まったく、何晒してくれとんじゃああ!
……GEAr様がおっしゃることには、そういうことらしいわ。
あーあ……
私が説得しなかったら、あのお方は。
今すぐにでも、この国をgearntちゃんたちで踏み潰すところだったわ!
◆◇
時は、今朝に遡るわ。
私がGEAr様から任務内容を聞いて。
そのすぐ後に、GEAr様が癇癪起こされた時よ。
「お、落ち着いてくださいGEAr様! あ、あなたの妊娠されている可愛い可愛い巨人族gearntちゃんたちを出すまでもなく! 私がちゃんと、そのバグ修正しますから!」
「ば、馬鹿かお前は! そ、そんなんで母上が納得なさる訳がないだろう!」
「あらあらうふふ……pystonちゃ〜ん、今私のマイカーさんに何を言ってぐれ゛だの゛がな゛あ゛〜!?」
「ひ、ひいい! も、申し訳ありません母上!」
……あらあらうふふ(棒読み)、pyston……
あんたが相変わらずねちっこく言うもんだから、話がややこしくなったじゃないの!
「謝るべきは私じゃないわよね〜?」
「は、はいい! (癪だが)マイカー! す、すまない!」
「ああら、呼び捨て〜?」
「ひいい! も、申し訳ありませんマイカー様!」
いや、様付けされるほど偉くはないから!
そこは、マイカーさんじゃない?
さておき。
「い、いいんですGEAr様! 別に気にしてませんから……と、とにかく! ここは私に免じて、どうかpystonちゃんとgearntちゃんたちをお鎮めください! どうか!」
「……あらあらうふふ! ええ、マイカーさんがそうおっしゃるなら〜♡」
「あ、ありがとうございます!」
……ふう、やれやれ。
な、何とか騒ぎは収まったわ……
◆◇
「……おい、マイカー!」
「ん! ぱ、pystonちゃん!」
と、私が浸っていると。
手元から、改造してバッグに変形させたpystonの声が。
「お前……俺のこと忘れてなかっただろうな?」
「わ、忘れてなんかいないわよ!」
……ごめん、正直忘れてたわpyston!
……でもこのバッグ、モフモフしてて手触りいいのよね……
「む! や、止めろ! さ、触るな!」
「ち、ちょっとぐらいいいでしょ! それに、ここはまだ通りなんだから、声のボリューム落としてよ!」
私の手つきにpystonは、さぞご不満な様子。
まあ、それはごめんなんだけど。
今言った通り、あんましうるさくしないでよね!
「ふん、俺の声はお前にしか聞こえないんだよ! 大体、お前が余計なこと言うから母上に……もが!」
……はいはい、相変わらずねちっこいわよ!
そんなんじゃだめ、あなたはただモフモフされてるか武器にされるのが仕事なんだから! (うん、我ながら酷い!)
「は、はあ……!? ふ、ふざけんな、誰がそんな……もが!」
私は尚もねちっこいpystonを、モフモフして黙らせる。
いやだって、GEAr様も。
私があなたのお目付役だっておっしゃられてたし。
お目付役なんだから……サボらないように目付けられ役を有効活用するのも仕事でしょ?
「ふ、ふざけんなもが! は、離せ」
うんうん、分かったから。
少しは黙りましょう、ね?
さあて。
「喉乾いてきたわ……何か買いましょ。」
「お、おい人の話を……もがが!」
私はpystonの口にもなっているバッグの口に手を突っ込んで。
お財布を、取り出したわ。
「……すみません、冷やし水の瓶詰め一つ」
「あいよ! 銀貨一つね!」
うん、そこで使うのがこの歯車型銀貨。
これが、偽通貨らしいわ。
だけど。
国民には偽通貨を使わせて、国王がぼろ儲け?
どういう魔械かしら?
「はい。」
「へい、毎度!」
水の瓶詰めのラベルを見ると。
うん、税込又は税抜きの表示なし。
「ん? どうしたんだいお嬢ちゃん?」
「あ、いいえ……すみません、税ってどのくらい取られてますか?」
そう、国王がぼろ儲けするって言ったら。
真っ先に浮かぶのは、税なんだけど。
「ははは! 何だい嬢ちゃん、忘れちゃったのかい? ここは、税なんてないさ! 天国みたいな所だよ!」
「……え!?」
……税がない?
それで国王がぼろ儲け?
……ますます、分からなくなって来たわ。
「おら、何ちんたらやってんだ!」
「は、はいすみません!」
ひっ!?
と、そこへ。
聞き覚えのある声が聞こえ、私は思わず物陰に隠れた。
それは。
「さあさあ、いらっしゃいいらっしゃい! ブラック勇者パーティーによるブラック焼き屋台だよ!」
……あのブラック勇者たち、ここで屋台なんて開いてたわ!
しかも……
リーダーのブラックによるパワハラ被害に遭ってるのは、何とグラシャスさん!
◆◇
「ははは、いやあ税がない国なんてここぐれえだからなあ! ははは!」
その日の終わり。
まったく……
相変わらずブラックや部下たちは、魔法技師――グラシャスさんばっかりに働かせて自分たちは椅子に踏ん反り返っているわ!
「ほら魔法技師! さっさと動けや!」
「本当に使えないわね!」
「ははは!」
……ごめんなさいグラシャスさん、助けたいのは山々なんだけど。
まだ定時までは、時間があるから。
「……pystonちゃん、行くわよ!」
「はあ? 行くってどこへ」
「……お城に。」
「……はあ!?」
いや、そんな驚かないでよ。
ガーデニンシュイの時も、城に無茶苦茶な魔械があったでしょ?
◆◇
「……コール、ステルス魔械! 発動!」
「ひい! か、身体が透明に……? お、お前今度は何を」
いや、だってねpyston。
あなたに普通に乗って城に行ったら、そりゃあ目立つでしょ?
私はまたpystonを改造して付け足した魔械の機能を使い。
私とpyston自体を透明にし、城までひとっ飛び!
「今よpystonちゃん、壁に貼り付いて!」
「命令すんなよ! まったくお前はどうしていつもこう」
そうして壁にpystonを貼り付かせて。
私はそっと、窓を覗いた。
すると。
「……フォッフォッ! さあ大臣よ、今日も儲けられるか?」
……うわあ。
顔は猫なのに、表情はワニみたいな。
いかにも悪人顔の王様登場よ!
「は、もちろんでございます! 今日も愚かな……ゴホッ! ……勤勉な国民たちが、せっせと汗を流した分をご覧に入れましょう!」
こっちもいかにもな、大臣だけど。
次の瞬間には、奴らの印象は一気に薄くなったわ。
それは。
「……さあ、魔械よ発動せよ! 愚民……ゴホッ! 臣民たちがせっせと稼いだ分を、金貨に変換せよ!」
ガーデニンシュイと同じく。
部屋中が歯車機構に囲まれた空間と化し、魔械が姿を現したから!
現れた魔械は。
そのまま何と、大量の金貨を生み出したわ!
「ははは、またまたがっぽがっぽ! 労働対価自動変換魔械……人間が働いた量を、そのまま金に変換できる魔械だ!」
……なるほどね。
自分たちは魔械で、国民が本来稼ぐはずだった分を本物の金貨に変換して!
国民たちには、国内でしか使えない偽通貨で買い物ごっこをさせる。
さながら法人税100%の、ブラック国家だったのね!