#2 助手初仕事
「す、すごい……何これ!?」
い、いや住宅支給とも聞いたけど……
ずらりと周りを囲む壁に、その中から突き出して見える尖塔の数々!
こ、これってまるでお城じゃない!
「あらあらうふふ、それでは物足りなかったかしら?」
「い、いいえGEAr様! む、むしろ身にあまりすぎて光栄すぎます!」
うん、言葉遣いまで変になってるけど。
それぐらい、今の光景には驚いているわ。
こ、これ城でしょ?
「あらあらうふふ、気に入ってくれたようで何より。じゃあ明日も早いから……ゆっくり休んでね☆」
「は、はい!」
分不相応とは思いながらも、せっかくのGEAr様のご好意を無駄にはできない!
だから、このお城はありがたくいただく!
うんいただくん、だけど。
「……広すぎて落ち着かなくて、まったく眠れない!」
これが私の家って、やっぱり分不相応だったわ……
◆◇
「さあて……まずは調査っと。」
と、言う訳で私は。
まずは、今回任務を仰せつかっている国にやって来て街を歩いている。
国名は、ガーデニンシュイ。
ここ、一見するとただの豊かな国なんだけど。
「あっ、ははは! まあた儲けたぞ!」
「ああ、がっぽがっぽじゃ!」
……どうも、おかしな空気が漂っているのよね。
いや、住民たちは幸せそうでそれはいいけど。
「ところで、隣国からまた変な手紙送られて来てないか?」
「ああ、水返せ! だっけ? 意味不明だから関わらないようにした方がいいわよ!」
……なるほど。
調べるのは、隣国もセットみたいね。
◆◇
「あらあらうふふ、さあどうかしらマイカーさん? ガーデニンシュイは?」
「あ、はい……国自体に変わったことはなさそうだったんですけど。どうも、この隣国たちがおかしいんですよね……」
私はその日、(定時で)初出勤を終え。
文字通りの根城に、戻ってGEAr様に報告。
「あらあらうふふ、周りの四国のことね!」
そう、ガーデニンシュイの隣国は四つある。
街の人が話していたのは、その隣国四国からのクレームのことだったらしい。
「隣国四国では、いずれも川の水や降雨量が減っているといいます。これは……ガーデニンシュイに、何か無茶苦茶な魔械システムがあるためではないかと」
「あらあらうふふ……ええええそうよ! ガーデニンシュイはつい十年ほど前にできた新入りの癖しやがってええ! 隣国四国から水資源を巻き上げて、本来砂漠である国土を豊かにするっていう卑怯なやり方をして来やがったああ! あ゛あ゛、許せねええ!」
「あわわ、GEAr様あ!」
ああ、でも。
GEAr様の癇癪が始まってしまったああ!
「お、お落ち着きください!」
「生意気なクソ国がああ! 私の可愛い可愛い可愛いgearntちゃんたちが、踏み潰してやろうかああ!?」
空間が一気に暗くなり、な、何か蠢く巨人みたいな者――GEAr様の可愛い(!?)gearntちゃん――たちが!
「お、お落ち着きくださいってばGEAr様! わ、私がこの国の悪事を暴きますからああ!」
ああ、もう……
女神様の沸点は、思った以上に低かったわ……
◆◇
「さあて……やらなくちゃ!」
と、いう訳で私はやらないと!
そうよ、女神様の逆鱗に触れる前に面倒を取り除かないと!
という訳で翌日。
私はまた、ガーデニンシュイにいるわ。
「おい技師、いつまで俺の背中に乗ってんだ降りろ!」
……って、人が折角やる気になってんのに!
私は今しがたまで背中に乗っていた者から降りる。
それは。
「GEArのお気に入りだからって調子乗りやがって……まったく、だから俺は反対したってのにこんな奴」
ああ、ぶつくさ言ってて蛇みたいにねちっこいこいつは。
今自分で言ってた通り、GEAr様の可愛い(?)息子である羽根なし四つ足ドラゴン・pyston。
うん、まあ蛇みたいというか蛇そのものっちゃそのものなんだけど。
さておき。
「はいはい……ああ、でもこのモフモフたまんない〜!」
まあ、こいつの中身はともかく。
外見は羽根はない癖に、羽毛が生えててすごいモフモフしてんの!
ああ、気持ちいい……
「な! は、離れろ! ったく、母上に言いつけるぞ!」
ん、いや別にいいでしょ?
息子を可愛がってんだから、GEAr様も大喜びでしょ。
とはいえ。
「さあて……今から城に潜入したら、もう後戻りはできないわ……果たして、定時までにできるかしら?」
私は名残り惜しくもモフモフするのは止め。
そのまま、今来ているガーデニンシュイの王城壁を見上げる。
うーん、まあできる保証はないわ。
だけど!
―― 私の可愛い可愛い可愛いgearntちゃんたちが、踏み潰してやろうかああ!?
……うわぁ
ダメよ、絶対ダメえ!
無闇に国を滅ぼしていいなんて、如何なGEAr様と言えどダメよ!
……やるっきゃ、ない!
「この世械のバグの一つ……ガーデニンシュイ国による周辺国からの水搾取、許されがたいので修理されるべきです! さあ世械技師マイカー、行きます!」
さあ、GEAr様から授ったチートスキル発動よ!
「前置き長えよ、早くしろ!」
だあもう、あんたは本当にねちっこいわpyston!
ちょっと黙ってて!
「……王城の守護魔械、解析! ……解析完了、これより改造開始……」
私はそのまま、チートスキルでもって王城を守護する魔法――守護魔械を解析し。
侵入できるように組み替えるべく、改造開始を唱える。
すると。
ひとりでに、城壁の一部はカバーとして開かれ。
そこに工具がこれまたひとりでに動いて、改造を加えていく。
「ふん、まあ……お手並み拝見だな!」
む、またねちっこいなあpyston!
まあ見てなさい……
◆◇
「さあて、今回はいくら貰えるんだろうなあ!」
「急ごうぜ、リーダー!」
「さあて……何買おうかなあ!」
と、何と!
あのブラック勇者パーティーが、ガーデニンシュイ王城に向かっているじゃないの!