#1 ブラック勇者パーティー追い出しパーティー
◇登場人物
●主人公
マイカー・エンデバー
魔法技師の少女。
ブラック企業OLだったが異世界転生してブラック勇者パーティーの魔法技師である少女になってしまった。
そこを追放された後世界、いや世械そのものでもある機母神GEArの技師兼助手に転職する。
その後はプライベートも充実させるため、何かサークルを立ち上げようともする。
●機母神GEArとその一味(一味?)
GEAr
この世界そのものでもある機母神。
いわゆるあらうふ系だが同時に荒事上等でもあり、何かにつけて自分が孕む巨人たちを生み出し、世界を滅ぼそうとする。
gearnt
GEArが生み出す巨人たち。
pyston
GEArの息子である羽根なし但し羽毛ありのモフモフドラゴン。
ドラゴンだからか蛇のようにねちっこい性格。
titanomachina
GEArの子たち。
●ブラック勇者パーティー
勇者(とは名ばかりなブラック野郎)であるトランシュ・ブラックが取り仕切る勇者パーティー。
トランシュ・ブラック
インガ・クリス
カナル・ギッシュ
◇設定
魔械
魔法の機構そのものであり、それを扱えるのは魔法技師である。
私はマイカー、魔法技師。
頭のゴーグルに作業服、更に工具一式収めたベルトっていう典型的な技師の格好してるわ!
ん? 魔法技師って何かって?
それはね……
「おい、魔物がやって来るぞ! クズノロ魔法技師、早くしろ!」
「は、はい!」
おおっと、ここのブラック勇者パーティー主宰の勇者様にどやされちゃった。
見れば、トカゲ型魔獣が私たちに襲いかかって来て。
女剣士や男魔導士、そしてブラック勇者が戦っているわ!
ま、ちょうど実演の機会が幸運にも巡って来たからいいわ!
さあ。
「……魔械カバー、オープン! コール、火炎魔械! 改造、獄炎魔械……」
私は徐に、空間の一部をドリルで切り取り。
そのままスパナやその他工具を使い、中に覗く歯車機構をいじくり回す。
これをするのが魔法技師であり、その魔法技師が今作ったのが世界の一部を魔法の機械として利用する魔械よ!
「おい早くしろよ本当使えねーな!」
「はい、もう少し……」
私はブラック勇者に散々罵倒されながら作業してる。
そう、これがこの世界の魔法!
世界の一部から作り出した機械でなされる魔法よ!
「できたわ、はい!」
「ったく、遅えよ! ……男魔導士!」
「はい、勇者! ……獄炎魔戒起動! ターゲット、ロックオン……」
私が急いで構築した獄炎魔械を使って、男魔導士はしっかりと魔獣に照準を合わせる。
そうして。
「……発射!」
魔獣に向けて、獄炎の魔法を発射した――
◆◇
この世界、ちゃんと春夏秋冬あるんだけど。
普通の冬とは別にどの季節でもなぜか週末二日間だけ冬になるっていう謎の現象があるのよね〜。
そのためかこの世界の畑には、温室設備があるの。
まあ、それとかを除けばいい世界なんだけど。
「まったく使えねーな! この程度の魔械システム、前もって作っとくべきだろうが! こんな即席システム作らなきゃいけない状況にしやがって!」
「あ、す、すみません……」
「ああ!? 聞こえねーんだよ!」
……そう、それとか、こういう勇者パーティーのブラックぶりとか除けばいい世界なのよ。
いやいや、だってだって。
火炎魔械だけでいいって言ったのはあんたじゃないの、ブラック勇者!
ああ、この感じは――
――聞いてんのか、この鈍臭女!
――ひいっ、す、すみません!
私の頭の中に、前世の――ブラック企業OL時代の記憶がフラッシュバックさせて来る!
その後私は、激務で注意力散漫のまま帰宅途中。
車に轢かれて死んじゃって。
この世界に、転生して来たんだけど。
「おら、やる気あんのかボケ!」
「ひ、ひいい! す、すみません!」
……今のここも、こんな感じで。
あーあ、異世界転生ってもっと楽しいんじゃないの?
◆◇
「ははは、さあさあ、滅多に食えねえトカゲ型魔獣の肉だぞ! 食え食え!」
このブラック勇者パーティーでの一番のお楽しみは、何かにつけて開かれるこのパーティー。
まあ、私はいつも料理作りや給仕ばっかりやらされて碌に食べられないんだけどね!
「ねえ、魔法技師! ちょっと水足りないからあんた、そこの滝川で汲んで来てよ!」
「あ、はい!」
私が忙しくしていると。
女剣士から、用を言いつかっちゃった。
それで私が、滝川から水を汲んだ桶を重そうに持って来ると。
何か、ブラック勇者パーティーが話している声がする。
「あーははは! あー、すっきりするぜ! まったく、入って来る奴らは誰も彼も役立たずばっかり。」
「まあまあ! そいつらの追い出しパーティーを口実にこうして勇者パーティーによるパーティーできるんだから、儲けもんじゃない!」
「あははは!」
「あの女魔法技師は、まだマシな方だったが……クズには変わりねえな、やっぱり使えねえよ!」
……そーですかそーですか!
これは追い出し晩餐パーティーでしたか!
私は次の瞬間には、水汲みの桶を放り出して走り出していた。
ああ、消えてしまいたい……
もっといい世界に、次は転生できますように!
私はそう思いながら、崖に身を投げた――
◆◇
「ねえ、起きて……」
「うっ……」
「起きて……マイカーさん?」
「……はっ! え? ここどこ? ……きゃっ!」
私はふと、目を覚ます。
何かとろけるような声で呼ばれたような気がして。
そしたら目の前には、すごく綺麗な女の人の顔が。
「あらあらうふふ、どうしたの?」
「あ、い、いいえ! す、すごくお綺麗な方だなあと……ま、まるで女神様のようです!」
「あらあらうふふ、ありがとう! まあ……女神ってのは本当だけどね。」
……へ?
いや女神って、自分で言いますか!
「あらあらうふふ。ようこそ、この世界の機構の中へ!」
は、はい?
こ、この世界のからくり?
「あらあらうふふ、私は機母神GEAr! よろしく、マイカー・エンデバーさん。」
え?
き、機母神様!?
き、機母神って、この世界そのものでもあるあの機母神様!?
「も……ももも申し訳ございません! ま、まさかモノホンの女神様だったとは!」
そ、そりゃあ女神って自分で言うしかないわよねえ!
見渡したらここ、そこら中光っている中に。
歯車たちと、GEAr様のご尊顔だけが見える!
ん、でも待って!
「あれ? 私、何でここに?」
「あらあらうふふ、私があなたをスカウトしたの! 私の技師兼助手になってくれないかしら?」
!?
え?
せ、世界そのものでもあるGEAr様の技師兼助手!?
「そうよ、あなたもご存じの通り。この世界の人間たちは魔法を節度をもって使ってくれている子が大半なんだけど……中には、節度を弁えずに私の秩序を乱す子たちもいてね〜!」
あ〜、そういえば。
魔法を使って悪さする奴もいるって聞いたような聞かなかったような……
「あらあらうふふ、さあ……これが要項よ!」
へ?
私はGEAr様から渡された紙を見る。
すると。
『職種:異世械技師
業務内容:この世械の歯車乱れを修理する――具体的には、魔械の技術を乱用して世界の秩序を乱す者たちを懲らしめて秩序を取り戻す。
待遇:世界を司るこの神の仕事は何と給与は望む数だけ支給! おまけに残業なし、完全週休2日(ただしその2日間世界は冬になる)、長期休みは夏はないが冬はある!
有休もあり! などなどホワイト企業!』
な、なるほど……
す、すごく待遇良すぎ……
で、でも待って!
こういううまい話には、きっと裏があるの!
「あ、あの〜いろいろ聞きたいんですけど……まず、頭がこんがらがっちゃって……」
「あらあらうふふ、そうよね〜、そんなすぐには事態を呑み込めないわよね? でも大丈夫よ……あなたの実力を買って、私はあなたを助手に置きたい! それだけのことなんですから。」
は、はあ……
い、いやだから!
「だ、だから! 何でそれが私なのかなって! も、もっといい人いっぱい」
「あらあらうふふ……かわいそうに……」
「!? え……?」
ああ、何ということでしょう……
GEAr様のご尊顔が、私に近づけられ。
私とGEAr様は、オデコツした。
ああ、途端に。
私の気持ちが、とろけていく――
「……かわいそうに、ごめんなさいね。あっちの世界で亡くなったあなたの魂に、私は先天的な可能性を見出してここに転生させたの。でも、手違いでここじゃない所に飛ばしちゃったせいでまた辛い思いさせたわね……」
……ぐっすん。
ああ、お優しいGEAr様。
私を転生させてくれたのは、あなた様でしたか……
「……でも、重ね重ねごめんなさいね。あなたが嫌がるのなら、強要はできないわ……」
「……いいえ! だったらこのマイカーはGEAr様に尽くさせていただきます! よろしくお願いします!」
ええ、GEAr様!
私は……御恩に報いらせていただきます!
「……あらあらうふふ、ありがとう、マイカーさん!」
「い、いえそんな……あ、でも! ごめんなさい、いくつか確認しておきたいことがあります!」
「あらあらうふふ、何かしら?」
ええ、私がまず聞きたいのは待遇の所です。
ここの残業なし、完全週休2日って。
仕事が終わらなきゃ、残業休日出勤上等ですよね?
「あらあらうふふ、大丈夫よ。あなたの手にも負えないようなら……私が今妊娠している、可愛い可愛い巨人族gearntちゃんたちを生み出して! その子たちがそいつらや国ごと踏み潰すだげだがら゛〜!」
!? ひいい!
お、お優しかったGEAr様が鬼のような形相に!
さ、更に……
こ、この空間が一気に暗くなり、な、何か蠢く巨人みたいな者たちが!
ま、まあ一瞬だったけど……
こ、これがGEAr様の妊娠されている、可愛い可愛い巨人族gearntちゃんたちですか!
か、可愛い要素ない、恐ろしい!
「だいだいあいつら……私のマイカーさんをこんな目に合わせやがってええ! 何晒しとくれとんじゃおらあ、すぐにでも滅ぼしてやるわああん!?」
「ぎ、GEAr様! GEAr様!」
「……あらあらうふふ、ごめんなさい私としたことが♡」
う、うん……
ひ、一つ分かったのは、GEAr様がとんでもなく荒事上等だってこと!
こ、怖い……
まあ、ともあれ。
私はこのお優しくも空恐ろしき女神様の技師に転職いたしました……