『オレグ』には死の安息すら許されない
『オレグ』の秘密の儀式が披露される。
そして彼等は素直に謝れないイタイ奴等。
後、シオンは独裁者と言うより暴走車両。
夜が明けて。日が昇り。互いに信頼を深めたサラサと謎の砂漠の狩人リョウの二人が、敵の追跡を振り切る為に、次の行動に移行しようと動き始めていた頃。
西方『シディア』の艦艇『バルナラント』では、『シオン陛下の暇潰しの余興に『オレグ』の秘伝の儀式をお披露目したい』というバルゼル僧の申し出により。シオンが老バトラや親衛隊の側近達を従えて、居留の為に『オレグ』僧達にあてがわれた船底の一室に赴いていた。
『皇帝陛下を呼び付けるとは不敬である』と老バトラは憤懣やるかたない。
皇帝の重鎮として、シオンの意向に表立って異を唱える事は避けているが、彼はそもそも『オレグ』との共闘に前向きではない。むしろ、内心では明確に不要であるとさえ思っている。
上げれば理由は幾つでも思い付く。
『オレグ』が忠実なのは自己の教義に対してのみであり。その教義も状況に応じて舌先三寸、朝令暮改、都合よくコロコロと解釈を変える。悪辣。排他的。独善的。不誠実。自己の目的の為なら手段を選ばない。基本、異教徒は道具としか見做していない。etc…。
そのくせ協力の見返りだけは厚かましく要求する。
表向きに出来ない秘密工作を任せれる程の信用が奴等にはない。
そもそも、その種の仕事を処理する為に『シディア』には親衛隊が用意されているのだ。
『親衛隊』は派手で目立つ印象があるが、単なる皇家の『飾り物』では無い。
部隊の正式な呼称は、皇帝直下『シディア』皇家親衛近衛兵団。
『シディア』における親衛隊の表向きの役割は、シオン等皇家要人の身辺警護だが実態は違う。
必要とあらば危険分子の排除、暗殺も厭わない、皇帝直隷下の超法規的武力集団・粛清部隊。
それが、その真の姿なのだ
その暗殺・戦闘能力の高さは、決して『オレグ』のそれにも引けを取らない。
知っている。縄張りを荒らされて、親衛隊長ディジオも内心穏やかではない事を…。
しかし、肝心のシオンの意向が、『オレグ』と『ロココ』の数百年に渡る怨念めいた確執は本物であり、『ロココ』教団に対抗する駒として『オレグ』僧会との共闘は有益であると考えている。
今も彼は好奇心旺盛で、むしろ『オレグ』側の趣向を面白がっている素振りさえ見て取れる。
シオンは昔も今も変わらない。
王家の事情で幼少から身内に命を狙われ。
少年期は逃げ回って身分を隠し、名を変えて市井で育った。
その頃から今と変わらず、活発で好奇心旺盛、その上負けず嫌いで、何にでも首を突っ込んで気侭に暴れ回っていた。王家に復帰しても、皇帝の地位に即位した今でも、基本、自由奔放な彼の姿勢は変わらず、宮廷の格式を無視し、未だに、地位に応じた言葉使いにすら改め様としない。
北に興味深い巷の噂があれば言って事実を確かめようとし、南に豪傑があると聞けば行って、その実力を競おうとする。東に争いごとあれば双方平服するまで叩きのめし、西に悪巧みあれば、潰すまで徹底的に追い込む。常に自分の気分次第、勝手気侭に任せて、東奔西走の毎日を過す。
その都度、彼の側近達は、彼の奔放さに振り回され、後始末に走り回る事になる訳だが、シオンが細かい政務を傍任せにして、気紛れな行動が執れるのは、彼を中心にした執政府と、その官吏機構が効果的に機能している証左でもある。
その機関を統制強化して育て上げて来たのも他ならぬ彼自身なのだ。
文官、武官を問わずシオン個人の才覚に心酔する者は多い。
それが彼の魅力とも言える。
そんな者達にとって、シオンに与えられた自らの職務を全うし、シオンの自由奔放な生活形態を守り、直接的、間接的に国家に貢献出来る事は、無償の喜びに他ならない。
敢えて異論を差し挟む意図はないが、シオンの本心が自分達と同じであると、疑ってもいない。
だから彼等は皆、静かに命令に服し、時機の到来を待っていた。
船底の船倉の一室に着くと、バルゼル僧を筆頭とする六人の『オレグ』僧が彼等を出迎え。
部屋の中には、どこから持ち込んだのか、人間一人がスッポリと収まってしまいそうな透明なガラス円筒容器が二基、それを中心にして不可解な装置が設置されていた。
その前には既にシオン専用の観覧席までが用意されている。
シオンは当然の如くズカズカと、それ以外は格納倉庫を改装しただけの殺風景な部屋に入り込む。
そのまま豪快に、ドッカと椅子の上に腰を降していた。
その後に老バトラ、完全武装した親衛隊員達が続く。
油断なく周囲を警戒しながら、無言で彼の傍に控えた。
因みに、シオンは軽装で武装は愛刀を帯びたのみ。
老バトラは基本、軍艦乗船時は兵装を解かない。
その装備は親衛隊員に劣るモノではない。
『シディア』勢と対面するように『オレグ』僧達も整列し、バルゼル僧以外は跪いて恭順を示した。
「わざわざご足労いただき恐悦至極に申し上げ奉ります。皇帝陛下」
シオンの前に歩み出したバルゼル僧が、恭しく口上を述べ上げる。
ここまで慇懃だと逆に無礼にすら感じる。
「堅苦しい挨拶は抜きだ。・・・面白い見世物があると聞いて来たが?」
「ならばまずは、これをご覧下さい」
バルゼル僧の口上に合わせて、後ろの『オレグ』僧が上に幕を掛けた板状のモノを、両手で捧げる様に掲げる。幕には人の頭大の二つの山上の形状があり、何かが置かれている様子だ。
バルゼル僧がサッと幕を引くと、板の上に並べられているは間違い無く二人の人間の生首だった。
矢庭、シオンの背後が騒がしくなる。
「無礼者! 陛下の御前で、何のつもりか?!」
老バトラに至っては、早くも鞘に手を掛け、鍔下三寸、鯉口を切る始末だ。
些細な口実からでも『オレグ』との関係を解消する糸口とする。
機会を見て加勢するよう、予め親衛隊長ディジオとも謀っていた。
死人に口無。特に今は戦時下だ。殺ってしまえば、後はどうとでも揉み消せる。
機先を制し計画を実行に移そうとして、しかし、寸前の処でシオンに制止させられていた。
例えるなら、道を切り拓くのがシオンの役目、それを均して道として整えるのが彼等の職務だ。
統制の執れた組織ほど、概してその枠組みを逸脱しない。
一瞬で張り詰めた緊張の糸は緩み、老バトラも親衛隊も動けなくなっていた。
彼等は剣を収め、元の態勢に戻る。
「・・・しくじったのか?」
何事も無かった様に言葉を続けるシオン。
砂漠の生物にでも食われたのか、至る所に欠損が見受けられる。
彼には、その首の持ち主に見覚えがあった。
問うと、バルゼル僧は飄然と首を横に振る。
「『ロココ』の血族の追跡の任に服した後、消息を絶ちました。後続の者を派遣し、捜査したところ、今朝方、両名の亡骸を発見してこれを持ち帰りました。不覚を取ったようではありますが、まだ、明確に、しくじったと云う訳ではございません」
言葉遊びの様な言い訳だが、バゼル僧はキッパリと言い放つ。
「異なことを、死ねばそこで終わりだろう」
当然とも言えるシオンの疑問に、バルゼル僧は我が意を得たりといった調子で、口元にニタリと、気味の悪い笑いを形造っていた。
「『オレグ』の者には、時として死の静寂も安息ではございません。」
彼が合図すると、生首を持ったオレグ僧は、その姿勢まま、クルリと背後に向き直す。
引き継いだ二人のオレグ僧が生首を鷲掴みにし、それぞれ別の円筒容器の中に、それを投げ込む。
「細工は流々、後は仕上げをご覧じろにございまする」
言うとバルゼル僧は不可解な呪文を唱え始めた。
その行為に、意味があるのかどうかは判らない。
透明の容器内に満たされた溶液の中で、首は激しく浮沈を繰り返す。
変化は程なく現れた。
突然、円筒容器内の溶液が沸き立つように発泡したのだ。
たちまち生首は、泡の中に消えて見えなくなる。
容器内が白い泡で満たされてから暫し・・・。
「オオッ!」
その場にいた『シディア』の者達は一様に感嘆の声を漏らしていた。
円筒容器の上部に、ニュッと現れたアザ黒い手が、その縁を掴んだかと思うと、サバッと水柱を上げて、そこから、それが飛び出して来たのだ。
床に下り立つと同時に、すかさず仲間のオレグ僧が駆け寄って、それに僧衣を羽織らせる。
そのまま、シオンの前に跪いたその男は、
「ハッ、ハシェル僧・・・」
半ば予想していたとは言え、思わず動揺してしまう自分を、シオンは隠し切ることが出来なかった。
珍しく感情を露にし、得意そうな笑みを見せながら、ハシェル僧は恭しくシオンに向って一礼する。
ゾクッ・・・。
凍り付くような戦慄が、背筋を駆け抜けて行くのが判った。
「神よ・・・。」
誰かが呟く声が聞こえる。
熊の様な体躯。岩の様な筋肉。
どんな英雄・豪傑と対峙しても、どんな逆境に直面しても、決して臆することの無い鋼の如き精神力。
これまで、数々の戦場を渡り歩き、命の遣り取りを続けて来た歴戦の勇士、『シディア』皇家親衛隊隊長ディジオをして、思わず神の名を口にしてしまう程、その情景は、あまりにも不条理で幻想的だった
「ホッホッホッ、これぞオレグ最大の最終の秘術『転生の儀』。・・・人を極めたモノだけに許される技、古より我が教団に伝わる秘奥義の一つに御座いまする」
バルゼル僧の得意気な口上が続く。
しかし、儀式はまだ終わっていない。
「バルゼル僧、カナルル僧はどうした?」
もう一つの円筒容器の中は、まだ激しく発泡したままだ。
シオンの驚然とした表情に『皇帝の興味を惹きつける事に成功した』と確信したバルゼル僧は、さらに得意気に口上を再開する。
「陛下、この秘術は一人の例外を除いて我々オレグ僧にも、一生に一度しか許されぬ儀技にございます。と言うより、多くの者は一度までを施術の限界とし、二度目の転生を試みる者は、すべからく何らかの代償を支払うこととなります。・・・この私めのように」
そう言ってバルゼル僧は、自分の異様な体躯を指差して見せた。
「では・・・?」
「カナルル僧が、この術を施されるのは確か二度目…。我々にもカナルル僧がどれ程の化け物に転ずるか、まったくもって見当もつきませぬわ! ヒョーッホッホッホッ!」
バルゼル僧が哄笑したその時だった。
残る円筒容器の透明ガラスに無数の亀裂が走ったのは…。
中から溶液が滲み出る。続けて勢いを増して噴き出す。
卵から殻が剥げ落ちる様に、ガラス片が破裂し崩れ落ちた。
バルゼル僧は口元の不敵な笑いをそのままに、異変の発生源に視を移す。
「ヌオっ!」
倉庫内に響く破裂音に、シオンは咄嗟に手をかざして顔を庇う。
『シディア』勢は皆一応に同じような行動をとったが、そこから視線を逸らす事は出来なかった。
『オレグ』相手に、並大抵のことでは驚かない決意を固めていたつもりのシオン達ではあったが、刹那、目の前で起こった出来事に、息をするのも忘れるほどだった。
そこにいたのは人間と呼べる様な代物ではなかったのだ。
それが発した獣の様な咆哮が、船倉に響き渡る。
グルグルと獣の様な唸り声を上げる。
口の中に連なる幾つもの鋭い牙。
赤々と底光りする眼。蛇の様な虹彩と瞳孔を持つ瞳。
かつての倍以上に膨れ上がった体躯。まさしく岩の様な、と言うより岩その物に見える身体中を覆う皮膚と筋肉。S字型に歪曲した獣の様な脚。そして、何よりも四本の腕・・・。
そこに嘗てカナルル僧であった痕跡を見つけ出す事の方が難しい。
外観は獣の様に変わり果てても、人間として理性と羞恥心は残しているのか、円筒容器の中から出て来ると同時、仲間からふんだくる様に僧衣を受け取り、下腹部を覆い隠す。
居並ぶ他のオレグ僧と同様にシオンの前に跪いていた。
その様子は滑稽ですらある。
「ホッーホッホッホッ!」
自慢気な、バルゼル僧の哄笑だけが酷く耳に付いた。
『転生の秘法』。
その技は『オレグ』の寺院に古くから伝わる。
かつて生命すら自由に作り変えたと伝えられる古代文明の人間達は、この技術で厭きた玩具を取り換える様に、自ら幾度も転生し、数千年を生きたとも言われているが、これは、その技術の、僅かに残された一部に過ぎない。故に不安定であり、人間離れした屈強な身体を持つオレグ僧と言えども試みることは一生に一度しか許されない。と、言うより一度が技術的に限界なのだと言った方が良い。
それ以上、行えば十人に九人は確実に死に至るからだ。
しかも、その死に様は無残の一言に尽きる。
巷では冷酷無比の代名詞として知られている『オレグ』僧会でさえ、その高い致死率と、無残な死を哀れんで複数回の転生を禁止した程にだ・・・。
にも係わらず『オレグ』において複数回の転生を試みる僧侶は後を絶たない。
二度目以降の転生が、時に予想不能の超人を生み出すことがあるからだ。
言うならば、カナルル僧の転生がそうである。
身体の機能を殆ど封じられながら異常な精神力を獲得する者もいる。
バルゼル僧が、実はその転生の一例である。
屈強な肉体と、転生を望む強い意志と執念があれば、転生の成功率が格段に上昇するという出所不明のデマを妄信し、不滅の肉体と、強靭な精神力、昇華の試練を超えて、生きながらに神の域に到達する事に成功すれば、目指す『オレグ』の理想形態が、そこには存在する。
但し、生命への冒涜は今も昔も明確に禁忌なのだ。…本来、触れる事さえ許されない。
それは『オレグ』においても同様…。
極めて機微な公然の秘密と察すべき…。
「直答にて、陛下に御報告申し上げることを、お許し下さい」
過剰とも思える『オレグ』側の芝居がかった演出が終了した。
全てのオレグ僧がシオンの前に居並ぶと、『シディア』勢を圧倒する余韻のままに、口を開いたのはバルゼル僧ではなく、その右隣りに控えるバゼル僧だった。
低く落ち着いた声、精悍な顔立ち、長身でスラリと引き締まった体躯。
外見からしても隣に控えるバルゼル僧とは対極的な男だ。
夜の街でホストをやっていても、客足が絶える事は無いだろうと思える程の目鼻立ちの整ったイケメン男で、感情を抑制することを常とするオレグ僧達の中で、この二人は明らかに異質であり、表情に感情の起伏が見て取れる。
それは彼等が判断力を要する地位にある存在だからだ。
バルゼル僧を八人の指揮官とするならば、バゼル僧は、それを補佐する敏腕副官と言った立場か。
額に埋め込まれた『オレグ』の階級を現す宝石の色(彼等の間では『第三の眼』と呼ばれる)は、バルゼル僧の青、他のオレグ僧の緑とも違って赤である。因みに彼は『赤の一番』の異名を持つ。
シオンは黙って頷き、バゼル僧に承諾の意志を示す。
「ハシェル僧に経緯を確認致しました処、逃亡した件の『ロココ』教徒を追い詰め。まさに捕縛せんとしたところ、不意に現れた『謎の男』に意表を突かれ、不覚を取ったと・・・」
「謎の男・・・?」
シオンが特に不審に感じた台詞を強調し問い返す。
「ハッ、両名を発見した現場付近で、先行した我々の捜査でも第三者の介入を示唆する。頭髪、足跡などの物証を確認しております。・・・特に頭髪は少し長めの金髪です」
ちなみにサラサの髪の色は栗色。
オレグ僧は基本、断髪しており頭髪はない。…今件に関わったオレグ僧は双方ともそうだ。
成る程、第三者の存在を立証する確かな痕跡だと言える。
「『ロココ』の神聖隊か・・・」
シオンが最も最悪な予想を口にする。
『神聖隊』とは、『ロココ』教団における対『オレグ』特殊工作部隊の総称である。
表向きはシディアの皇家親衛隊と同様に、要人警護、儀仗、布教が、その主な任務だが、その実態は、やはり謎に包まれており、『オレグ』絡みの事案にはどこからともなく駆け付けて、速やかに、その元凶を排除するとも言われている。
『オレグ』にとってはまさに天敵の様な存在である。
その出現は『シディア』としても芳しく無い。
加えて、事を構える時機として今は早過ぎる。
「その可能性もあります。しかし、蓋然性が低過ぎます」
「『砂海』には、オレグ僧二名を瞬く間に倒せる人間が、その辺に歩き回って居ると?」
「いかに申してもそれは極論かと、然れども憶測での犯人の特定は早急…、あまつさえ『ロココ神聖隊』の介入があったなどと言う明確な証拠は何処にも存在しておりません。しかし、陛下の御命令さえあれば我等が、その総力を結集し、全ての障害を取り除いて、件の『ロココ』教徒を経陛下の御前に連れて参ると、お約束致しましょう」
自分の言葉がシオンに届いている事を感じ取り。バゼル僧は更に畳み掛ける。
シオンは少し逡巡する素振りを見せた後で言い放っていた。
「よかろう、バゼル僧!」
「ハッ!」
改めて平服するバゼル僧。
拝聴致しますの姿勢。
「貴様に、引き連れて来た六人のオレグ僧の指揮権、及び監督権の付与を認める。遊撃隊として引き続きサラサの追跡と、逃亡を幇助した介入者の調査を続行せよ。なお艦外での貴様等の活動に『シディア』は一切関与しない。サラサさえ生かして連行して来るなら手段も詮索しない、貴様等に一任する。それとバルゼル僧には『シディア』と『オレグ』の連絡要員として、このまま艦に常駐する事を命ずる。今後、資金、物資、情報のやり取りが必要な場合は、バルゼル僧を通して調整するように。良いな!」
「ハッ、御意のままに、このバゼル、必ずや部下等の屈辱を晴らし、速やかに任務を遂行して御覧に入れましょう!」
バルゼル僧も、バゼル僧も深々とシオンに頭を下げて平服して見せる。
他のオレグ僧も続いて、それに倣った。
「よろしい! その言葉忘れるな! 期待して成果を待つ!」
言うとシオンは立ち上がり、身を翻した。
『シディア』勢を率いて足早に船倉を後にしたのだった。
『上手く行った』一瞬、バゼル僧の顔が『したり顔』に見えた。
しかし、思惑通りに事態を進めたと認識しているのはシオンも同じだ。
『死者転生か・・・。不完全とは言え古代以来多くの権力者が夢見た不死の夢。一時の余興としては充分に楽しめた。しかし、それだけだ。後は俺の掌の中で存分に駒として踊るが良い』
素直に謝罪する事も出来ない融通の利かない尊大な自尊心。
周りくどい演出。ついでに痛々しいまでの自己陶酔。
抑え処が判れば、むしろ『オレグ』は扱い易い。
『ロココ』の牽制役として『オレグ』程、効果的な駒もない。
この駆け引きに勝者は存在しない。
但し、明確な敗者も存在しない様だった。
☆
そして『オレグ』の反撃が始まる。
次回、逃げるサラサに追うオレグ(第二部)