表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/600

1歳 家族で遊んだ



 お父様が帰って来た日から数日後、商工会代表のポケナイさんが噂通り賄賂(わいろ)を受け取ってたことが判明し、新たにまだ若いけど実直で同僚からの信頼も厚いフェアーさんと言う(かた)が商工会の代表にならはった。


 フェアーさん、今の問題を解決せえへん限り、また同じことが起こる言うて、

「どのようにすれば、時間をかけず公明正大に積荷のチェックができるか?」

 港の職員さんたちやチェックを受ける側の人たちから話を聞き、その方法を考え、試し、意見を聴いて、また考えて……って、頑張ったはった。


 出張して他領の港へも視察に行ったりしたはったんやけど、或る日、


「ヴェンザー領の(はず)れにある小さな港なのですが、外国から譲り受けたという特別に訓練された犬を使って積み荷をチェックしていました。

 その犬を使えば、荷物を1つ1つ開けることなく、また巧妙に隠されている麻薬まで発見することができます。是非とも育成したいので、その施設を領内のどこかに作らせて欲しい」


 と、お父様へ要望書を提出してきはった。


 麻薬を発見する犬……たぶん “ 麻薬探知犬 ” のことやな。


「それなら一緒に救助犬を育成しては?」と提案してみると、

「それは何だ?」とお父様が訊いてきた。


 どうやら常識ではないみたいなので「本で読んだ」と前置きし、


「災害時に動けなくなった人を見つけられるように訓練された犬で、要救助者の呼気や皮膚から発するストレス臭などの浮遊臭を感知し、動くことができずに同じ場所に留まっている “ 呼吸はしているが声を出すことができない状態の人 ” を見つけられるように訓練するらしいから、その犬を使えば船内に隠されている奴隷の人も見つけられるんじゃないかな?

 普段は積荷のチェック、災害時は救助の手助けになるから、育成して損はないと思う」


 と、実際には「しゃいがいじに……」って舌っ足らずな状態伝えた。


 お母様の通訳無しで私と直接話せるようになったお父様ではあったが、これについては今まで目にしたことが無い案件やったから、ちょっと理解してもらうまでに時間が掛かった。



 そして、ポケナイさんがお縄につくきっかけとなった、 “ 領内に奴隷はいないか ” 問題。

 調査の結果、ウチの領には奴隷にされてる人は、ぃや~らへんかった。


 というか、領内には昔、奴隷にされてて逃げてきはった人がいたり、その時の様子に同情して奴隷を使役する人を嫌う方々が結構いはるから、奴隷を連れて他領から移住してきた人やお店なんかは、生活の為に奴隷を通常の従業員として雇うしかなかったらしい。

 そりゃ、街中から総スカンくらったらそうするしかないわな。



 そんな感じで、最初は「何や、この人!?」って思ったお父様やけど……いや、実際にアホなとこもあるんやけど……若いのにちゃんと仕事したはった。


 周りの意見聴いてから判断し実行して、その後のチェックもして柔軟に軌道修正したり、一からやり直したりもしはる。


「ごめん。誤った判断をした。悪いけど、やり直すから協力して欲しい」


 って頭を下げはる。子供の前でも……。


 職場(家の中にある執務室)の隅っこに家族の机を用意するあたりがアホで、面会の人がいぃひんようになるとすぐ、本を読んだり字の練習してる私や兄様を抱っこしてくる。


 でも、すぐに次の面会の人が()はったりするんやけどな。

 仕事に問題があるんやなくて、仕事を口実に久々に帰ってきたお父様と喋りにきたはる人が大半や。しょっちゅう執務室が笑いに包まれる。

 お父様、人気者やねんな~。手土産にお菓子も持ってきてくれはるから、貧乏な我が家は助かる。



 で、仕事が無い時……朝の散歩やお昼休み、土日なんかは外で一緒に遊ぶ。

 その間も「あ~、もぉ~、ちくしょ~、可愛いな!」って、突然、私達を抱きしめてきたりしはる。転がるボールを追いかけて捕まえた途端(とたん)抱きしめられて、何事かと思ったわ。


 みんなで変装して街に出た時は、あの格好で「よぉ、そこの可愛い姉ちゃん。俺とお茶しねぇ?」って、同じ格好の1歳の私に言うてきた。アホや。

 そして「ダメ! ミャーリーは、ぼくとおちゃちゅるの!」と、最近 助詞を使うことを覚えた兄様が言うた。どうやら、さ行は、まだ苦手みたいや。


 3回ぐらい、領主一家として変装せずに海水浴にも行った。

 領主ってことで、海岸の隅っこの方に専用スペースを設けてくれはる。ちょっとお金持ちな気分や。


 抜けるような青空と目の前に広がる青い海!

 太陽光を反射してキラキラな水面が見てて気持ちいい~!


 久々に泳ぎたかったけど……1歳児にクロールは無理やった。お母様に手を持ってもらってバタ足やカエル足で泳ぐ。

 水が綺麗やから少し潜って、魚を眺めたりもした。溺れたと思ったお父様にすぐに抱き上げられたけどな……。


 お父様もクロイも結構いい体してる。お母様も女性らしい、いい体やねんなぁ~。ふふ、私の将来が楽しみや!

 で、普段 抱っこされてて思う ―― 確実にイイ体なモモ爺 ―― にも脱いで欲しかったけど、(なん)かあった時すぐに動けるようにって、ワイシャツにネクタイ姿で待機しはった! すぐに脱がへんあたりカッコイイけど、暑ないか!?

 クロイは水中で何かあった時の為に水着らしいけど……ホンマやろか?


 お父様、ホンマに家族が好きみたいで、お風呂も家族で入るし、寝るのも週末以外は家族で寝た。

 お父様とお母様。2人とも20代前半の若い夫婦やしな。私は週末以外も別々に寝ていいし、ちゃんと兄様も預かるで~。と思って、


「兄様と自分の部屋で寝る」


 って言うたら、


「メアリーは父様のことが嫌いなのかーーーっ!?」


 と大騒ぎになった。


 まだ若いのにそれでええのか? 思いながら一緒に寝ることにした。

 そうして、朝 起きると、時々お父様がベッドから落ちてることがあった。それでも、一緒に寝るのが嬉しかったらしい。


 おねしょした時も朝から家族でお風呂に入り、

「朝風呂、気持ちいい~。メアリーのおかげだな」

 って上機嫌やった。ふむ。おねしょのしがいがあるというもんや。


 9月の初め頃のある夜、お父様の発案で庭にラグを敷いて家族4人で寝っ転がって夜空を眺めた。

 相変わらずの満天の星と ―― 2つの月。

 4月に見た時は少し離れて並んでたけど、その日はくっついてて、大きなレッドムーンの後ろから、ひょっこりと小さなブルームーンが顔を出してるみたいに見えた。

 

 ふふ……(なん)か可愛いな。ちょっと頬を緩めると、


「メアリー、可愛い!」

「ミャーリー、かわいい!」


 お父様と兄様がキスしてきた……。

 も~、せっかくのええ景色やねんから空を見なはれ。


 その後すぐクロイに見つかり、お父様が代表で怒られているのを横目で見ながら、メイドさんが入れてくれた温かいミルクを飲んだ。


 雨が降った翌日に遊んだ時には、お父様と兄様と3人で泥んこになったりして、お母様とクロイに怒られたり……。


 お父様が王都に戻らはるまでの3ヶ月間、飽きることなく毎日が楽しかった。



 9月の終わり。

 金木犀の甘い香りが鼻をくすぐると、肌に当たる風も急に冷たくなった気がした。これから、どんどん寒くなっていくんやな。


 炎のような赤紅色に染まる空。同じように染められた茜雲。

 それらと同じように、馬車とお父様たち王都出発組の面々が夕日に照らされ(あか)く染まっていた。


 もともと秋なんて物悲しいもんやのに……。何もこんな時間に出発せんでもええやん。


 クロイが少ない荷物(王都の使用人さんへのお土産と移動中の着替えのみ)を馬車に積み込み、お父様がモモ爺やトクター先生、使用人の皆さんに声を掛け、最後に馬車の(そば)にいる私達のところへ。


「ロンリー、母様とメアリーのこと頼んだぞ。メアリー、お転婆なのはいいが、ほどほどにするんだぞ」


 夕日に照らされたお父様が目を細めながら兄様と私にキスしはる。


「うん。ぼく、がんばって、まもる!」

 兄様が元気よく言い、

「あ~い」

 と私が適当に言うた。


 その後、お母様に「いつも、すまないな。留守を頼む」と言って、帰ってきた時同様、た~~~っぷりキスしはった。

 

 夕日に照らされるキスシーン。(なん)かちょっと涙が出そうになった。

 

 が、お父様がお母様に抱きついて、

「やっぱり行きたくない! ナタリーと離れたくない! ロンリーとメアリーともっと遊ぶ~」

と言い出すと、スッと涙が引っ込んだ。


「12月には戻ってくるんですから、早く乗ってください! 宿に間に合わなくなります!」


 クロイがお父様の襟を後ろから引っ張って、お父様の首を絞めながら馬車に乗せた。

 

「いってらっしゃいませ~」

 とお屋敷居残り組が動き出す馬車に手を振ったり、お辞儀をしたりした。


 馬車が見えなくなると、(みんな)で屋敷の中へ。

 てくてく歩きながらお母様の顔を見上げると、やっぱり寂しそうやった。

 あんなラブラブな相手と遠距離って、そりゃつらいわな。


 お茶を淹れてもらってる間、リビングのソファの上に立ち、座ってるお母様に抱きつきながら頭を撫でると、

「ありがとう、メアリー。あの人にまたズルいって言われるわね」

 って、切なげな笑顔を向けてくる。

 うん、せやな、間違いないわ。


 お茶……私と兄様は洋梨のジュースを飲む。……静かや。

 ……預かってた孫が帰った後のおじいちゃんとおばあちゃんの気持ちってこんなんかな? って思ってしまう。

 この日は、親子3人でお風呂に入って、3人で寝た。



 翌日からは、また兄様と2人に戻った。

 お母様は領主代理の仕事でくたくた。モモ爺がいる言うても、お父様とクロイがいんのといいひんのとでは、仕事量 全然ちゃうしな。何よりも責任が重い。できるだけお母様の邪魔はせんようにせな。

 

 兄様の面倒は私がしっかり見るから、あんまり無理せんときや~。

 そう心の中で呟きながら、お母様におやすみのキスをした。


 自分たちの部屋に戻ってお布団に入ると、

「ミャーリー、ぼくがいるからちゃみちくないからね、ぶちゅ」

 兄様が抱きついてきて、キスをした。


 自分が寂しいんちゃうん? 少し笑いながら、

「にいしゃまには、わたしがいるからにぇ、おやしゅみなたい。ちゅっ」

 ってしたら、ちゅっを10倍返しされた。


 ホンマ親子やわ~。嬉しそうにキスをするお父様の顔を思い出した。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ