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1歳 オトンびっくり



 リビングに入ると、二人掛けのソファーにお父様とお母様が座り、兄様は2人の間に、私はお母様の膝の上に座らされた。


「クロイ、モモ爺を呼んできてくれ。あと、一緒に帰ってきたメンバーだが、今から……明日も、休みにしてやってくれ。あっ! お前は対象外だからな。ここへ戻れよ」


(かしこ)まりました。では、一旦 失礼いたします」


 お父様が指示し、クロイが一礼して出て行った。

 入れ替わりに、メイドの(みんな)がお茶とお菓子を運んできてくれる。


「わ~い! チョコエートとモモー!」

「えっ? メアリーはチョコレートを知っているのか? 最近、パルヌス領で開発された新製品なんだが……。そうか、もうこっちにも出回ってるのか」


 えっ? 珍しいもんなん?!


「しょ…しょうにんしゃんがもってたごほんにのってたにょ!」

「えっ?」

「商人の(かた)が持っておられた本に載ってたらしいわよ」

「はっ? メアリーは本を自分で読むのか? しょうにんって(あきな)いをしてる商人?」


「えぇそうよ。たまにこの子達を連れて街へ出るのだけど、お店やレストランで自国や他国の人問わず知らない人に話しかけたり、商品を見せてもらったりするのよね~。

 2人とも熱心に話を聞くものだから街の人も面白がっちゃって……。

 今では新しい物や珍しい物が入ったりすると、向こうから声を掛けてくるようになったわ。


 あ~、あと、本だけど、2人とも自分で読むわよ。絵本じゃなくて、普通の本を。外国の本も港で外国の人に読み終わったものを身振り手振りで頂いたり、顔見知りになった(かた)に言葉を教えてもらったりするの。びっくりするわよ」


 お母様がお父様に、私と兄様の様子を報告すると、


「……。俺、4ヶ月も一緒にいれなかったと思ってたんだが……。4ヶ月しか経ってないのに、何だそれ!!」


 オトン、たまげた。


 いや、だってさ、ホンマに凄いんですよ。脳が。絶対、今のうちに色々知っていく方がええと思うわ。

 脳内シナプス道路よ、脳全体を網羅するのだ!

 言うても、得た知識の使い方がわからん残念な私。

 とりあえず、外国語は覚えて損はないやろ。


「今日からの3ヶ月が楽しみだな。う~ん、でも、このチョコレートは苦いからな。お前達には少し早いな。こっちの桃を食べるといい」


 残念、チョコレートGETならず。カカオ80%ぐらいなんかな。

 まぁ、桃も好きやしな。全然OKや。


 口に入れてもらって、あむあむしてたら、クロイがモモ爺を連れて戻ってきた。


「おかえりなさいませ、シンリー坊ちゃま」

「ただいま、モモ爺。いつもありがとうな。あ~、ヤーサ以外は下がってもらって大丈夫だ。みんなにもチョコレート買ってきてあるから食べておいで」


 お、モモ爺と挨拶し、ヤーサ以外のメイドさん達を下がらせはった。

 メイドをこき使う人ではなさそうやな。安心、安心。


「じゃあ、モモ爺とクロイ、そっちに座って。話を始めるぞ」

「着いて早々、仕事ですか…少しぐらい休んだ方がいいのでは?」


 クロイが心配して言うと、


「そんなことしてたら、いつまでたってもこの子達と遊べないじゃないか!」


 って、子供みたいなこと言わはった。

 まぁまだ21歳やねんし無理はきくわな。若いってええよな~。

 


「奴隷制度撤廃、上手くいったようで何よりです。お疲れ様でした」


 モモ爺がヤーサの淹れたお茶を優雅に飲みながらお父様を(ねぎら)わはる。


 お父様、(なん)か凄い計画に加担してたんか?


「ああ、だが、まだまだだな。新たに住民登録された人数が事前に把握してる人数に全く足りていない。

 ってことで、全国の領主が招集され勅命が下された。


―― これから3ヶ月以内に領内の奴隷をゼロにしろ。10月以降に発見されるようなことがあれば、新法に基づき紋章付与権限を剥奪する ―― とのことだ」


 お! お父様がさっきまでとは違う真面目な顔で話さはった。領主っぽい!


「そうですか。キーモン領では、昔から奴隷はいないので大丈夫だとは思いますが……新たに移住してきた家を重点的に再度、領内を調べます」


「ああ、モモ爺の方はそれで頼む。クロイ、お前は港に着く積荷のチェックを強化するようにしてくれ。ウチの領を通って他の領で売買されないようにする」

(かしこ)まりました。ポケナイに言って強化させます」


 ん? ポケナイ? それって、この前、港で聞いた人なんちゃうやろか?


「ポケニャイしゃん、わいおもりゃって(賄賂貰って)にゃかみみじゅに(中身見ずに)にあげきょきゃ(荷揚げ許可)しゅりゅことありゅ(することある)みたいりゃよ」


 小耳に(はさ)んだことを報告。


「えっ! それ本当なの、メアリー!? ポケナイさんは商工会の代表よ。一体どこで聞いたの?」


 お母様が私の言葉にびっくりして、私を向かい合わせになるように膝に乗せなおして訊いてきはる。


「うんと、みにゃと()のしょくどうでぎょはんてゃべてる(ごはん食べてる)とき、でょこか(どこか)ふにゃのりしゃん(船乗りさん)が、チェックにじきゃんが(時間が)かかりゅにょ(かかるの)ぐちっててゃら(愚痴ってたら)、べちゅのふにゃにょりしゃんがポケニャイしゃんにおきゃねわたしぇば(お金渡せば)しゅぐにきょきゃおいゆじょっ(許可下りるぞ)ていってた」


「そう……。それが本当なら証拠が欲しいわね。モモ爺の(ほう)で調査できますか?」


 領主代行のお母様がいつものようにモモ爺に確認。


「勿論です。すぐに動きます。今日はあまり時間がないので、クロイ、今の勅命の話は明日の朝からポケナイにして17時まで足止めしてくれ。

 家に行って分不相応な物を所有してないか確認させる。

 本日は港での聞き取り調査を行い、夜に報告に上がります。では、失礼いたします」


「ええ。急で申し訳ないけどよろしくお願いします」


 お母様の言葉に頷いて、モモ爺がキビキビと部屋から出ていった。


「メアリー、今みたいなことは早く教えてね。領内で悪い物が売買されなくても、ウチの領で持ち込み許可したと思われたくないの」


「ごめんなしゃい。ぎょはんてゃべてるあいだにわしゅれちゃったにょ」


 後で言お~思たこと、時々忘れる。若いのに大丈夫やろか私。


「ミャアリー、わるくない。ポケナイたん、わるいの」


 兄様がフォローしてくれた。ありがと~な。


「そうね……。ごめんね。メアリー。でも、怒ったわけじゃないのよ」


「うん、わきゃってりゅよ(わかってるよ)、おかあしゃま。りょうしゅにょいえ(領主の家)でゃから、ちゃんてょ(ちゃんと)きゃんりしにゃくちゃ(管理しなくちゃ)いけにゃいもんにぇ」


「メアリーいい子ね」


 お母様にギュッと抱きしめられてキスされた。


「クロイ……。お前、今の一連の流れわかったか?」

「いえ。とりあえず、明日9時から17時までポケナイと話さなくてはいけないこと以外は、全く分かりませんでした」

「だよな!」


 お父様とクロイが置いてけぼりや。


「ナタリー、ズルい!! 俺も子供達と意思疎通したい!! モモ爺の方が意思疎通できてるとか……。俺、泣きそう」


 ありゃ、お父様、項垂(うなだ)れてしもた。


「旦那様のことは置いておくとして……一体お嬢様は何を(おっしゃ)ったのですか?」


 そして、そんなお父様を横目に、お母様に詰め寄るクロイ。


「置いとくな! (はげ)ませよ! ナタリー、こいつじゃなく俺に説明して!」


 あ、お父様が復活した。


「港の食堂で私達が食事をしてる時、同じ店にいた船乗りさん達がポケナイさんに賄賂(わいろ)を渡せば積荷のチェック無しで荷揚げできる、って話してたそうよ」


 お母様が要約して話してくれた。


「それは本当なのか?!」

「それは本当なのですか?!」


「言っていたということは本当だと思うわ。この子達、今までもこうやって教えてくれましたもの。内容の真偽に関しては、モモ爺さんの確認待ちね」 


 声を揃えて目を見開いた夫と執事に、兄様の頭を撫でながら淡々と言うお母様。


「今までって?」

「え~と、海外からの楽団の楽器と一緒に麻薬が運びこまれてるとか、いつどこで取引が行われるとか……かしら? まだ小さいし、外国語もわからないだろうと(たか)(くく)って、この子達の前で喋ってたりするみたいよ」


「何やってるんだ!そんな危ないことっ!」


 ガバッ! と、お父様が恐い顔して立ち上がらはった。まぁ、普通はそうなるわな。


「ちょっと、あなた、落ち着いて。別に忍び込んだり人目の少ない場所に行っているわけではないの。本当にちょっと酔ったり、油断した人達が喋っているのをたまたま聞いただけなの」


「それにしたって、お前達の顔は領民に知られてるんだ!……報復にくる奴がいるかもしれないな。屋敷の警備を強化する! ナタリー、君達3人は外出禁止だ!」


 ありゃ。どうやら、お父様に軟禁されるようや。


「あなた……。いいから本当に落ち着いてくださいまし。私達、街に出る時はちゃんと目を隠して変装してます。誘拐されても困りますからね。

 それと、モモ爺の他にプーマさんとチヨネ姉さんにも付いてきてもらってます。あなたとクロイについてきてもらうより、よっぽど、安全ですわ。それに警備の強化なんて、ウチには新たに人を雇えるようなお金はありませんわよ」


 お母様がお父様を言葉の(やいば)でチクチク。


 (ちな)みに、プーマさん(31)とチヨネ姉さん(26)いうのは、モモ爺の知り合いのご夫婦で、出掛ける時にお世話になってる。

 美男美女で身体もそこそこ鍛えたはるらしく、抱っこされた時に筋肉を感じる。


「よっぽどって酷くない?!……変装って、どんな変装してるんだ? 我が家の特徴的な目は、ちょっとやそっとじゃ隠しきれないぞ」


 眉尻を下げて、一瞬、落ち込んだお父様。ちゃんと自分で軌道修正しはった。


「6人とも目が隠れるくらい前髪の長いカツラを着けてますわ。あと色の濃いサングラスにアロハシャツのような柄シャツを着て出掛けますの。

 コンセプトは【実家に子供を連れて帰ってきた娘が父親と姉夫婦と共にショッピング】ですわ」


 お母様が丁寧に説明する。(ちな)みにサングラス、プラッチック製ではないので大きいと重い。のでレンズは丸型(小)だ。


「なるほど……。その柄の悪さ。よもや貴族とは誰も気付くまい」


 メガネのブリッジ(真ん中のとこ)をツィッと中指で上げながら言うクロイ。


「何だそれ……。凄く楽しそうじゃないか! よし! 土曜日に俺も一緒に行くぞ! プーマ師匠とチヨネ姉さんは抜きで、コンセプトは【嫁の実家にきた旦那が義理の父と弟と一緒に家族とショッピング】だ。クロイ、お前が弟な」


 お父様、さっきまでとは打って変わって、むっちゃ楽しそう!

 ちゅ~か、プーマさんのこと “ 師匠 ” って言うた。何の弟子なんやろ?


「はいはい。では、日差しも強くなってきてるので皆さんの麦わら帽子も用意しておきます」


 クロイがちょっと呆れた感じで言うた。気ぃ利くなぁ~。

 でも、ちょっと(ちゃ)うねんな~。


「わたしはバンダニャがいい」

 私が “ はい! ” と手を上げて言うと、

「ぼくも! ミャアリー、いっちょ」

 真似しぃの兄様が言い、

「おっ! メアリーはなかなかのオシャレさんだな。よし! 俺達家族はバンダナ。モモ爺とクロイが麦わらな」

 むっちゃ張り切ってるお父様がノリノリで言うた。


(かしこ)まりました。用意しておきます。それにしても、お嬢様……さらに柄が悪くなって凄くいい感じですよ」


 クロイ。私はカッコイイ(おも)て言うたんやけどな……。


 それにしても、アレやな。娘役のお母様、実家の父・姉・弟と全然、似てへんで。旦那と妻の(ほう)が兄妹に見えるがな。



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