表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
562/600

7歳 シンリー(27歳) とある領主の長~い1日 = 推理 =



「ウチの子供たちがここへ寄れない理由(わけ) ── ちゃんと包み隠さず説明してくださいよ」


「ええ。でも、その前に一つ ── これから話すことは殿下たちに秘密に願います。それと、最後まで大人しく聞いてくださいね。()()()()()です」


 子猿に例えるのは()めて欲しいと思いながら念を押すと、逆に注意された。


 内密に……と言ったからには腹をくくったのだろう。


 これなら大丈夫だと抱きつくのを()め、扉の前で仁王立ちすると、


「まだ信用されていないようですね。いいですよ。腰を下ろして話しましょう」


 そう言って、俺の前で胡坐(あぐら)を組み始めた。


 逃げる気はないと言うコトか……。


「あまり上品ではないですが、いいでしょう」


 こんなところナタリーに見つかったら怒られるなと思いながら、片膝を立て、幾分立ち上がりやすい姿勢で腰を下ろすと、これまでニコニコと笑っていたハッタリさんの顔からスッと笑みが消えた。


 内緒にするだけあって、あまり良い話ではなさそうだ。

 師匠たちがここで呑気に手伝ってくれていると言うことは、そこまで大層なことではないと思うのだが……。


「一体何があったんですか?」


 よく分からない状況に不安を感じ、すぐに話すよう(うなが)すと、


「はぁ……。そうこうしているうちに陛下が来てくれることを願ったのですが……ダメでしたね。諦めて話すことにします」


 この一連の流れが時間稼ぎだと白状された。


 ハッタリさんがここで待っていたのは、俺でもアッシュでもなくリュージだったようだ。


 もしかして……子供たちの居場所を訊いた時に、タロンたちの居場所を答えたのも、そういう理由なのだろうか? 俺、反省したのに……と、少々、人間不信に陥っていると、


「え~っとですね……(じつ)は山を登っている時、上空に巨大な鳥魔獣2頭が現れまして」


 ジッと意識を集中し周囲の気配を探っていたハッタリさんが(ようや)く俺の知りたいことを話し始めてくれた。


 巨大な鳥魔獣……って、庭から見えたアレだよな?


「それなら、こちらからも見えましたよ。あっ、もしかして……ウチの子供たち、怖がってそれ以上登れなくなったんでしょうか……? それで一旦、村にいる監察員の(みんな)に預けて、村人を結界まで送り届けた(あと)でリュージがあの子たちを迎えに行き、山側から【聖女の館】へ帰ってきたと、そういうことですか?」


 しっかりしていると言ってもやはり子供。行かせるべきではなかった……。


 あの時、心配したことを思い出し、今更ながら後悔したのだが ──

 

「いえ、鳥魔獣については誰も怖がってはいませんでした。問題はその(あと) ── 鳥魔獣が足で(つか)んだり、(くちばし)(くわ)えていた熊の魔獣が我々の隊列の近くや真上に落ちてきた時で…」


「え? 熊の魔獣が落ちてきた?!」


 俺の推理はあっさり否定され、改めて鳥魔獣が現れた時の対処法を考えさせられるようなことを言われた。


 だがしかし!


「いや、それって、嘘ですよね?! モモ爺も、村人もアッシュも、誰1人そんなことを言ってませんでしたよ!」


 そんな大事件、黙っているワケがない!

 この期に及んでどうしてそんな嘘を()くんだ!?


「ほぉ、それは嬉しい報告ですね」


「はあ? 何が?!」


「村人たちが信頼できる者たちだと知れたことがですよ。モモヂ様が率いておられた先陣の者たちについては(すで)にキーモン(がわ)にて下山中だったため、そのような変事が起こっていたことを知らないので話しようがないのですが、それ以外の者たちについては……全員が無事な理由として聖女マリアが作った珍しい魔道具 “ シールド ” のことを話すことになるだろうから、この件についても誰にも話さないでくれと口止(くちど)めさせていただいたのです。(みんな)ちゃんと守ってくれているようなので安心しました」


「ああ、なるほど……。そういうことですか……」


 そんなことがあったとは知らないモモ爺とシェンダ村長が、団長たちの前で原住民モモインジャーの魔道具だと言って、他の魔道具のことまで喋ってしまったことは(あと)で話すことにしよう。


「でも、まぁ、これで理由が分かりました。そんなことがあったのなら、あの子たちが怖がるのも無理はありません」


「いえ、怖がったのは聖女マリアの “ シールド ” の効力を知らない村人たちで、ロンリー坊ちゃん達は怖がるどころか我々よりも落ち着いた様子で対策を話し出し……お嬢様に至っては、我々【影】にシールドを発動するよう指示し、村人にはそこから出ないよう指示されました」


 今度こそ間違いないと思ったのだが……。

 苦笑(にがわら)いしながら語られた言葉に、ガクッと首を前に倒す。


 ウチの子供たちよ……。 “ 子供 ” っていう言葉には “ 行動などが幼く、思慮が足りない者 ” という意味があることを知っているか?


 俺どころか【影】まで凌ぐようになって……この先、俺はどうやって “ 親 ” になればいいんだ!

 子供は親を見て育つらしいのに、追い抜かれている気がするんだが!?


 って、今はそんなことを論じている場合じゃない。

 そんなしっかりした子供たちに一体何があったんだ?


「今の話だと、さほど問題はないように思いますが……。全員シールドに入って事なきを得られたから、口止(くちど)めすることになったんですよね?」


「そう……そこまでは良かったんですよ。問題が起こったのはその(あと)です」


 俺の放った魔法を倍返しされた時のことを思い出し、村人も驚いただろうが熊の魔獣も驚いただろうな……と、若干、熊の気持ちになりながら確認すると、ハッタリさんが眉間に皺を寄せ、低い声をさらに低くして話し出した。


 その不穏な空気に眉を(ひそ)めると、


「熊の魔獣が落ちてきた時……その真下にいた者が驚いてシールドから出てしまい、それを見たお嬢様が慌ててその者のもとへ駆けつけ、()()自分のシールドをその者の手首に()め、その者にシールドを発動させました」


 メアリーの見事な対応を話しながら、ジャケットの袖を(めく)り、手首に着けている “ メアリー ” とオシャレな字体で刺繍が入っている紫色のリストバンドを見せてくれた。


 エリーも着けていた、あのピンク色のシールドの魔道具だ。


「それのどこが問題なんですか? このシールドは装着している者のサイズに合わせたサイズになるようですから、体の大きい大人が発動させて、そこにメアリーが入る(ほう)がいいですよね。問題があるとしたら、これを持ち主のメアリーではなく、ハッタリさんが持っているということで…… あ……まさか……メアリー、中に入り損ねて熊の魔獣に襲われたんですか!?」


「いえ……襲われたのではなく、襲わせたのです」


 形見のように着けられたそれを見て、泣きそうになりながら訊いたら、「はぁ……」と溜息を()いたハッタリさんがおかしなことを言った。


「え? 襲わせた?」


「ええ。お嬢様は……その村人がシールドを発動させた(あと)、持っていたサバイバルナイフで自分の指を切り、熊が自分に焦点を当てたと見るや(いな)や陛下に向かって “ 魔獣はこっちで面倒を見るから、(あと)はお願い ” と叫んで、直後に凄いスピードでオーエ山の(ほう)へと飛んで行かれたのです。そして、空から降ってきた熊2頭と……それ以外の魔獣らしき獣たち、さらに、上空にいた2頭の鳥魔獣が旋回しながらその後を追いかけていきました」


 旋回って……ルンルンが言っていたあの時か!


「メ、メアリーは!? メアリーは無事なんですか!?」


 あの鳥魔獣たちは高い山がある北へ向かっていた……。あちら側は海側のこちらとは違って魔力も多いはず……魔獣がたくさんいるだろうし、大きな魔獣も多いはずだ!


「発見時ケガをされていたそうなので無事とは言えないかもしれませんが……意識はあり、手当ても済んでいるそうです」


 廊下の床に両膝を着いてハッタリさんの肩を(つか)み、見下ろしながら確認すると、自分の肩にある俺の手をポンポンと優しく叩き、安心させるようにゆっくりと答えてくれた。


 発見……。良かった……とりあえず保護はされたようだ……。


 ホッと息を()き、ダランとハッタリさんの肩を(つか)んでいた手を下へおろす。


 よく考えたら、そうだよな。見つかってなかったら、ダリアや師匠たちがここにいるワケがない。少し落ち着こう。


「え~っと……できればケガの程度を知りたいのですが……()()()()ってことは、ハッタリさんはメアリーのケガを見てないってことですよね?」


 ハッタリさんはリュージの護衛だもんな……メアリーの捜索には行けないか……。


「はい……。私は、心配していた村人たちに “ あの子の安全は確認できました! ” と言いながら、隊列の先頭にいたエリーや私の所まで報告に来てくれたロンリー坊ちゃんに “ 魔獣の入ってこないあの横穴で休憩している ” と()()聞かされなかったもので……てっきり無傷でいらっしゃるものだと思っておりました。おかげで落ち着いて、山を越えることができましたけどね」


 ちょっと残念に思っていたら……見るどころかケガを負ったことすら知らなかったと説明してくれた。


 と言うか、ハッタリさんはエリーを保護してくれていたのか!

 あのエリーが大人しく待っているワケがないし、放っておいたら勝手に捜索に行って、逆に探す対象が増えてしまうもんな! さすがハッタリさん!


 でもって、ロンリーがハッタリさんを騙せるほど落ち着いていたと言うコトは、そこまで重傷ではないと言うコトだ!


「ロンリーは、エリーを落ち着かせるために黙っていたのだと思います。恨まないでやってください」


 安心して、少々、(けん)のある言い方をされていたハッタリさんに親としてフォローをすると、ハッタリさんがニッコリと笑い、


「わかってますよ。ロンリー坊ちゃんだけでなく ── 陛下も黙っておられましたがね」


 低い声でそう言って、スン……と素の顔になって俺を見てきた。


 え……(なん)か怖い! 明らかに怒ってるよなコレ! ── と、心臓をドキドキさせながら怯えていると、


「陛下は……村人を結界まで送り届けた(あと)、我々【影】に色々と仕事を指示し、ご自身はロンリー坊ちゃんとエリーと共にマル様に乗ってその横穴へお嬢様を迎えに行き【聖女の館】まで連れ帰ると(おっしゃ)られて……()()()()お嬢様がケガをしたと(おっしゃ)られなかったんですよ」


 リュージと子供たちが屋敷へ寄ることができなかった理由を教えてくれた。

 “ 山側から帰ったから ” ── 途中経過は違うが、結果的に俺の推理が合っていたと言うコトだ。


 と言うか……


「いや、それって、リュージも知らなかったんじゃないですか? アイツは国王だから、ハッタリさんと同じようにメアリーの捜索には行ってませんよね?」


 さすがに自分の立場を分かっているだろうし、もし、行っていたらハッタリさんも付いていっただろう。


「はい。捜索には行っておられませんが……お嬢様のことをご存知のアッシュ様やウェンディさんたちと一緒に隊列の後方にいらっしゃったので、しっかり報告は受けておられたようです。

 結界からこのお屋敷へ向かっている途中、山越え時に隊列の後方にいたチヨネとダリアがやたらとお嬢様の心配をするので、私同様、隊列の前方にいて何も聞いていなかったスケサ兄と一緒にその理由を聞いたところ ── “ ケガの状態は分からないが、本人は大丈夫だと言って手当てをした状態で横穴にいるらしい ” と教えられ、()()()()()()()()()だと教えられました。

 そんな状況ですからね。【聖女の館】に到着したら、心配しているチヨネ達のもとへお嬢様の無事を知らせにくるに違いないと、ここでお待ち申し上げている次第です」


 …………。


 リュージ……ハッタリさん、凄く怒ってるぞ。あとスケサさんも……たぶん凄く怒ってると思う。

 そして、ロンリー……。まさか、スケサさんにも黙っていたとは……。意地悪をされないといいが……。


 いや、今はそんなことを気にしている場合じゃないな。


「まだリュージが顔を出していないということは、今【聖女の館】へ行っても誰もいない可能性が高いですね……」


「はい。ですから、私が行こうかと……。疲れている坊ちゃんに無駄足を踏ませても申し訳ありませんからね。とりあえず、このままここで陛下を待ちますが、それより先にアッシュ様が到着されましたら、陛下の指示通り【聖女の館】へ行って、お嬢様が到着され次第、陛下と報告へ参りますので、坊ちゃんはお着替えをどうぞ」


 ハッタリさんが俺を止めた理由が分ったので立ち上がると、ハッタリさんもスッと立ち上がって、俺の泥だけの服に目をやって頭を撫でながら着替えるように勧めてきた。


「お気遣いありがとうございます。では、プーマ師匠を見つけてメアリーがどんな様子だったのかを確認してから、着替えますので、もしその間にアイツが来たら執務室で待つよう伝えてください」


 そう言って、どうしたらこの人に大人扱いしてもらえるのだろう? と悩みながら、(みんな)の洗濯物が折り畳んであるであろう洗濯室へ行こうとしたら、


「坊ちゃん。お待ちください」


 目の前に立ちはだかったハッタリさんに、ぎゅぅぅっと身動きできないほど強く抱きしめられた。




お読みいただき、ありがとうございます。ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ