1歳 オトン初めまして
それから、毎日、兄様と行動を共にした。
お風呂も一緒で、最初は別々やった部屋も一緒になり、ベッドまで大きいやつになって一緒に寝るようになったから、1人になる時間が全然なくて泣くこともできず ―― 結構すぐに気持ちの切り替えができた。ここ地球違うしな。どないもならんわ。
とりあえず、密かな楽しみとして、真面目イケメンのトクター先生と、常に冷静沈着で物静かなうえ、要領段取りバッチリ+博識+腕っぷしも強くて頼りがいもある優秀な執事のモモ爺(51歳で “ 爺 ” 呼ばわりは酷いと思うんやけど、家族の中で私だけモモヂさんとは呼べず、心苦しくもモモ爺呼びとなっている)、そんな男前2人を見て胸をときめかす、のほほ~んな日々を送ってます。
執事と言えば、前世のとある漫画の黒川さん。むっちゃ好きやったけど、いつもお嬢様がえらい目に遭ったはったから、モモ爺が執事で良かった。どっか別の家の執事に黒川さんみたいな人がいたら覗きにいくんやけどなぁ~。
それはさておき……前世の子供の頃には気付かへんかったけど、子供って凄いわ! 新しいことをどんどん覚えられる! 吸収力抜群や! 乾きにくいのも寧ろ良い! 40歳過ぎてくると新しい事は覚えられへんし、すぐ忘れるしで脳カピカピやったわ。
因みに毎日のスケジュールはこんな感じ。
朝。朝食後、ラジオ体操(覚えてる範囲で)してから、家の周辺を探検。
昼。昼食後、昼寝
15時。おやつタイムののち、かくれんぼや、鬼ごっこ、サッカー(ボールを蹴り合う)をしたりして遊んで、よく転んだり、意図せぬでんぐり返りをした。頭重いねん。
17時。家の中に入れられる。夕飯まで本を読んだ。でも、しょっちゅう寝落ちして、本をよだれでヨレヨレにしたりした。
19時。晩ご飯
20時。お風呂
21時。就寝。爆睡! 夜泣き? 何ですかそれ?
テレビもゲームもないからな。一日中、体を動かしてた。
でも雨の日は、読書やお絵かきに字の練習で大人しい日もあり。
いやはや、仕事や家事せんでええって天国やわ~。
そうやって、子供生活を満喫し、前世を思い出してから3ヶ月ほど経ったある日。
兄様と2人で “ かくれんぼ ” してたら、「メアリー!」って後ろから抱き上げられた。
びっくりして後ろを見ると、紫色の髪で水色の瞳の目つきの悪い青年が嬉しそうに笑った。
え~と、これってやっぱりアレかな?
「とうたま! おかえりなたい!」
私を探しに来た兄様が青年を見上げて嬉しそうに言うた。
ふむ。お父様、初めまして。やな。
「ロンリー。前より元気そうじゃないか」
そう言って、私を下へ降ろしてしゃがみ込み、今度は兄様と私を両腕に抱えて立ち上がって、
「ただいま、ロンリー、メアリー」
私等のほっぺにキスして言わはった。
「う~~ん、久々の俺の可愛い子供たちだ!」
って、またキスしてきはる。
うんうん。子供のほっぺって、ぷにぷにで気持ちいいからな。
キスしたくなる気持ち分かるわ~。って思ったら、
「もぅ、4ヶ月分キスしてやる!」
言うて、さらにぶちゅぶちゅいっぱいキスしてきはった。
ええーーーっ! これはやり過ぎや!!
「旦那様、そろそろお止めください。坊ちゃまとお嬢様が引いてます。あと馬車を降りるなり走り出すのは止めてください。周りが何事かと驚きますので」
お、新しい人や。20代前半かな? 藍色の髪に同じく藍色の瞳。切れ長のイケメン。そしてメガネや! メガネ! 旦那様って言うたはるから、使用人さんかな?
「えー、だって、こんな可愛い子がしゃがみ込んで樽の影から、そっとロンリーのこと見張ってるんだぞ。そんなカワイイ後ろ姿なんか見たら、走って行かないわけにいかないだろ」
子供みたいなこと言う人やな。
「当家の主なんですから、そこは我慢してください。それに早く戻らないと奥様がお待ちですよ」
「おっ!それは急がないとな!」
そう言うと、私達を抱っこしたまま張り切って歩き出さはった。
……え~と、やっぱりちゃんと挨拶した方がええよな?
「お、おとうしゃま、おきゃえりにゃしゃぃ…」
ちょっと緊張しながら言うて、ほっぺにチュッとキスすると、お父様が私の方を見て固まった。
そして ――
「メアリーーー!可愛いーーー!」
って言うて、ほっぺだけじゃなく、おでこや瞼、こめかみ、唇にもキスしてきた……。まあ、親なんてそんなもんやわな。
「とうたま、ミャーリー、ちゅ~ちちゅぎ」
兄様がお父様のほっぺをペチペチ叩いた。
「安心しろ!ロンリーも大好きだぞーー!」
今度は兄様がぶちゅぶちゅされた……。
単身赴任って、かなり寂しいもんやねんな…。
「旦那様! 行きますよ!」
「はいはい。クロイ、お前も早く結婚して子供を作れ。可愛いぞ~」
「可愛いのは見ればわかります」
「なっ! もしかして、メアリーのことを狙ってるんじゃないだろうな! ダメだからな! メアリーは俺と結婚するんだからな!」
「はぁ~、バカなこと言ってないで早く戻って体を休めてください。かなりの強行軍だったんですから疲れているはずです」
ため息を吐きながら、クロイさんとやらがスタスタ歩いていかはる。
「ミャーリー、とうたま、けっこんちゅるの?」
兄様が訊いてきた。
「しにゃいお」
即答。
「こらこら、メアリー。そんなに照れなくてもいいんだぞ」
お父様。否定されたのに、ニコニコしたはる。
この人むっちゃ前向きやな~。
お屋敷に戻ると私達を下へ降ろして、使用人さん達の前でお母様を抱きしめ、私達の時以上のキスを繰り広げはった。
クロイさんが止めへんかったら、いつまでしはったんやろ?
因みにクロイさんがお父様を止める時に言った言葉は、
「坊ちゃまが旦那様の真似をしてお嬢様を床に押し倒し、犬のようにペロペロ舐め、お嬢様はずっと遠い目をされてますが、いつまで続けますか?」
だった。
クロイさんがお父様を止めるまでの間、
「ぼくも!ミャーリー、ちゅ~ちゅる」
と言った兄様に押し倒され、ぶちゅぶちゅ、ペロペロされてたさかいな。
そうして、クロイさんの言葉を聞いたお父様。お母様から離れると、
「こらっ、ロンリー! 父様より激しいことをするんじゃない! こういうことは人前でしちゃダメだろ! 羨ましい奴だな!」
って言いながら、兄様を回収した。
ウチって領主の家って聞いたんやけど……。この人、領主?
……違うよな……?
ちょっと疑問に思いながら、よいしょ、っと起き上がり、助けてくれた人にお礼を申し上げる。
「くりょいしゃん、あいがと~ごじゃいましゅ」
ぐるん!
勢いよくお辞儀したら、でんぐり返りしてしもた。
朝のラジオ体操から始まり、1日に何回でんぐり返りしてるんやろ?
アホにならへんか心配や。
「お嬢様、大丈夫ですか? 礼には及びませんよ。あと、私はこの家の執事ですので “ クロイ ” と呼び捨てで構いません」
言いながら、私を立たせて、髪の毛や背中、スカートについた汚れを優しく叩き落としてくれる。
「えっ? ひちゅじはモモじぃらよ」
いっつもモモ爺がそれっぽいことしてるで。
「あぁ、モモヂさんは私が王都へ行ってる間、代理を任せてるんですよ」
「へぇ~。しょ~にゃんだ~」
あれ? 自分さっき、ご主人を “ バカ ” とか、ご子息を “ 犬 ” とか言うてへんかった? そんなんで大丈夫か?
モモ爺の方がむっちゃキリッ! としてて、渋くて執事らしいんやけど。
「ふ~む、手紙で読んだ時は信じられなかったが、ホントにメアリーは1歳とは思えない言語力だな」
お父様がちょっとビックリしてる。
「しかも、こんな可愛い声をしてて、でんぐり返りもできるようになってるなんて……。俺、ずっとここにいる。クロイ、お前が俺の代わりに城で働いてこい」
「はぁ~、バカなこと言ってないで、リビングに移動してください。お茶にしましょう」
深い溜め息のあと、クロイが私を抱っこしてリビングへと足を進める。
またバカって言うたで、この執事! でも、その気持ちは分かる!
「あっ!こらっ!なんでお前がメアリーを抱っこするんだよ!」
「旦那様の手がロンリー坊ちゃまで塞がってるからですよ」
「ミャーリー、ぼく、だっこちゅる」
「こら、ロンリー、暴れるな。お前、本当に元気になったな。しかもメアリーのこともこんなに好きになって……。俺のいない間に何があったんだ?」
「4月に熱が出た時からなのよね~。ロンリー曰く、メアリーが可愛い声で喋ってニコって笑ったのが凄く可愛いかった、らしいわよ。
メアリーはメアリーで熱が下がってから、凄くお喋りになって、あちこち動き回ったりもするし、すっかりお転婆さんでロンリー方が引っ張られてるわよ」
お母様が苦笑いしながら言うた。
最初に私が喋った時は、むっちゃ感激してたのに……。すっかり慣れてしもたな。
「へぇ~、メアリーはお転婆さんになったのか。前の大人しいお嬢様なメアリーも可愛いかったが、どんな風になったのか楽しみだな。あとで、父様と遊ぼうな!」
クロイの肩越しに、とびきりの笑顔で言うてきはった。
「ぼく、ミャアリー、あちょぶ! とうたま、ダメ!」
「ロンリー、意地悪言わないでくれ。一緒に遊べばいいだろ」
「とうたま、ミャアリー、ちゅ~ちゅる! ダメ!」
「よしよし。ロンリーにもするから大丈夫だぞ! ロンリーは、やきもち焼きさんだな。はははははは」
「ちがうの! ちがうの!」
「はははは。照れるな、照れるな。こんなに慕われて父様は嬉しいぞ! ぶちゅ!」
うわぁあ~、早速、兄様にキスしはった! この人、最強な人や!