3歳 婚約未遂
本日は、12月25日 メリークリスマスです。
昨日に引き続きホンマ申し訳ないです。
前日からの暴走族が更にヒートアップして…巻き込まれたしっかり者の筆頭メイドが崩壊してしまいました。こんなはずやなかったのに…。
無理矢理、軌道修正、試みてます。
女の子の説明で、お母様、モモ爺、ヤーサが、ここで言うところの上書きが何たるかを理解した模様。先生への視線が緩和した。
「それで、トクター、この子には何を食べさせてあげればいい? 廊下でリヨンが待機してるんだが、まだ伝えてないようだな」
モモ爺が先生に訊く。
「す、すみません! まだ、診察出来てません! すぐにやります!」
先生が慌てて聴診器を付けて、女の子を寝かせて診察や問診を始めた。
大人3人が「えっ? 今まで何やってたんだ」って顔をしてるが、無言で診察を見守ってる。診察の邪魔をせえへんあたり、さすが大人や。
対して、
「ちょっとメアリー、ちゃんと聞いてるの?」
「えっ、あっ! はい」
ベッドから離れた部屋の隅へ連れて行かれ、兄様の前で正座中。
「メアリーが付いてて、何やってんの? ねぇ? 」
「はい」
「今は、女の子の体調を1番気にしないといけないの、メアリーなら分かってるよね?」
「はい」
「先生の焼印が酷いのはわかるけど、後回しでいいよね?」
「はい」
「それとも何? ヘレンに人払いさせてたのは、先生とエッチなことをするためだったの?」
「はい」
ハッ!
「いや違う違う! 女の子の焼印をあまり色んな人に見せたくなかったからだよ!」
「本当に?」
「本当に!」力強く頷いた。
「じゃあ、先生を抱きしめたり上書き以外のキスしてない?」
「…」
「メアリー。目が泳いでるよ」
「抱きしめてはいません」
「ふ~ん。キスはしたんだ?」
「…しました…」俯き加減で答える。
「どこに?」
「頭と瞼と………」
「と」
「…口…かな…?」
「かな? じゃないよね?! 口にしたんだよね!」
「…はい…」
「何回?」
「…2回ほど…」
「ほど…ってどういうこと? 2回じゃないの?」
「…口には3回…」
「へぇ~~~~。こんな可哀そうな女の子をほったらかして、そんなことしてたんだ?」
「……」
これは…アカン…。
平時なら…何この浮気がばれた旦那状態! 言うて笑えたんやけど…今は…兄様の言う通りや…何やってるんや私。
「あとで女の子に謝る」半泣きで言うたところで、横から誰かの影が入ってきた。
「そうですね。私も一緒に謝ります。というか、私がしっかりしてなかったのが悪いので、メアリーお嬢様を責めないで下さい」
トクター先生が苦笑しながら、私の横に跪いて言った後、手を伸ばして、私を抱き上げながら立ち上がった。
「女の子、大丈夫でしたか?」
兄様が訊く。憮然とした声な気がする。顔は見えへん。先生の肩に顔を埋めて鼻啜ってるから。
「はい。脱水症状もありませんし、怪我もありません。明日の夜には坊ちゃま達と同じ食事内容で大丈夫ですよ」
先生が私の頭を優しく撫でながら説明する。はぁ~、とりあえず、良かった~。
「母様とモモ爺は、どうしたの?」兄様が先生に訊くと、
「女の子の焼印のことでちょっと…確認をしに行かれました」
離れた所から声がしたので、鼻を啜りながらそっちを見ると、ベッド横のサイドテーブルの上をヤーサが片付けてる。女の子の食事を置くスペースを作ってんにゃな。
「確認て何の? 印の意味が分かったの?」兄様がヤーサに訊く。
「そうですね。ほぼ間違いないとは思いますが念の為ですね」
「何の印なの?」
「それは…あとで奥様にご確認ください」
回答を避けるヤーサ。…まぁ、焼印なんて良いもんとは思われへんわ。
「ん、分かった、そうするよ。ところで…先生、いつもメアリーのことお嬢様って言うのに、さっきメアリーお嬢様って、名前を付けて呼んだのは何故ですか?」
なんか…兄様の声が棘ってる…。
「はぁ~、さすがですね、坊ちゃま。…理由は、まぁ、単純に名前を呼びたい。ってことですよ。できれば、お嬢様という言葉も省いて名前だけで呼びたいですね。私のことも先生とかトクター先生ではなく、トクターって呼んでもらいたいと思ってます」
「えっ?」顔を上げて、鼻を啜りながら、先生の顔を見る。
「あんな風に落としておいて、今更、ダメとか言わないでくださいよ」
笑顔で言うて、濡れてる瞼にゆっくり優しいキスをしはった。
…これアカンねんて。
「先生、急に何言ってんの! メアリー、まだ3歳だよ!!」
兄様が先生を見上げて睨みながら言う。
「…そうですね。結婚できる年まで、あと15年。メアリーお嬢様に他に好きな人が出来ない限り、毎日、抱きしめてキスします」
そう言うて…私の頬にそっと手で触れて、今度は、唇にゆっくり優しいキスをしはった。…まじっすか!
「できれば、その時まで、ずっと私を好きでいてもらえると嬉しいですね」
って、真っ赤な顔で言わはった。これってプロポーズちゃうんんんーー!!
「そんなの、余裕で、ずっと好きに決まってるじゃないですかー!」
言うて、私からもキスしようとしたら、
「そんなのダメーーーー!!」
「そんなのダメですーー!!」
兄様と…ヤーサ?! が、ぼろぼろと泣いてる!!
「ヤ、ヤーサ?」
ビックリして声をかける。いつのまにこっちに来てたんや。いや、それより、いつも、むっちゃ冷静沈着やのにど~した?
「お嬢様、ズルいです! 3歳でトク兄に好きになってもらうとか…私なんて20年ずっと片思いなのにっ!!!」
…に、20年ーーーー?! 新生児が新成人になるで!! てか、私が18歳になるまでの年数より長いやん! え~と、ヤーサ今35歳やから、15歳の時からってこと?!
「20年て、逆に山ほど告白の機会があったんじゃ…」
「無いです! 私が修行を終わる頃には医療の勉強で他国に行ってたし、他領で一緒に仕事できることになって張り切って行ったら、私は妹役でトク兄は女の人を誑し込んで情報聞き出すとかしてるし、こっちに戻ってきて同じ職場で同じ屋根の下で暮らしてるのに、ほとんど病院に行ってて、会話も事務的だし…それでも…全然、女の人の影がないから恋愛とか結婚に興味が無いんだと思ってたのに…何で3歳のお嬢様なんですかぁぁ~~~~!」
ヤーサが床に泣き崩れた。
「そ~だよ! この家にも里にも街にも大人の女の人なんかいっぱいいるのに、なんでメアリーなんだよ! 先生のバカ~~! 変態ぃぃ~~~~!」
兄様もヤーサの隣りに泣き崩れた。
「先生、女の人、誑し込んでたんですか?! こんなにすぐ真っ赤になるのに?! それにモテたことがないとか言いましたよね?」
先生に訊く。
「トクターと呼んでください。仕事ですよ。好きでもない相手なら歯の浮くセリフなんて簡単に言えますし、キスしても気持ち悪いだけで照れたりしません。それから、モテたことないですよ。本当にカッコイイなんて言われたこと無かったですし、まぁ仕事なんかでこちらからアプローチすれば、なびきますが…さっきみたいに女性からなんて…メアリーお嬢様が初めてです」
最後、また、真っ赤にならはった。ちょっとその言い方はどうかと…そない如何わしいことしてへんで。ちゅ~か…普通にモテとったんちゃうん?! 先生があんな言い方したから、この世界、黒髪・黒目は嫌われるんや思たんやけど、ちゃうやん! 口説いたら、普通に落とせんにゃん! オカンに変なイメージ埋め込まれて、自分は周囲から嫌われてると思い込んでるだけな気ぃすんな…。
「え~と、先生は 「トクターと呼んでください」
むむ…私の被せ技を修得したみいやな。
「え~と、トクターは…ん…」
…会話途中のキス技も修得か。いや、もぉ、このままディープ突入でも…
「「いやぁぁぁーーーーー!」」床から声が…。
「え~と、トクターは周りから、その…悪魔とか言われたことがあるの?」
ちょっと赤い顔した先生の口を押し戻しながら訊く。
「いえ、直接言われたことはありませんが…皆、よそよそしい態度なので、そう思っているのでしょう」
…自分、なんか真面目やし、人見知りっぽいからちゃうかな。
「私のことで怒って泣いて、大好きってキスしてくれて…私のキスで笑顔になる人なんてメアリーお嬢様ぐらいのものですよ」
むっちゃ嬉しそうに笑って、また頬に手を当て、唇にキスしてくれはる。
はぁ~もぉ~。
「そんなの私だって!! トク兄のこと大・大・大・大好きだし、キスもお嬢様よりいっぱいするし、トク兄にキスされたら凄く嬉しいにきまってるし、トク兄と一緒にいられるだけで笑顔になるわよ!!」
ヤーサが立ち上がって言って、泣きながら先生の背中に抱きついた。
キャリアウーマン(35歳)のセリフとは思えへん。
で、先生はというと…赤なっとるやないか! おいっ! いくら何でもチョロすぎやろ!!…いや、だから3歳の私に落ちたんか…。
「先生は、全然、メアリーのこと分かってない!! メアリーは、皆に優しいんだよ! その子のことでも怒って泣いたりするからね! 先生だけじゃないからね! それに僕なんか、ギュウ~って抱きしめられて頭なでなでされて、更にいっぱいキスされて、長~いキスもしてもらったんだから! それから、僕のキスでも笑顔になるし、それから…それから、僕に嫌われたと勘違いした時は泣いたんだからね!
それに、寝ながら、ぷぅって可愛いオナラするし、流れるほど涎垂らすし、うんこさんをスムーズに出す為とか言って、トイレでハクチョウノミズウミとかいう曲を口ずさんだりするんだよ!
僕の方がメアリーのこと分かってるし、僕の方がメアリーのこと好きなんだから、メアリーに手を出さないで! 触らないで!! キスしないで!!!」
兄様…今日、泣きすぎや。
ほんで…勢いで何言うてくれてんねんっ! 顔、赤なるわっ!
…寝屁してたんや私…。
あ~あ、えらい短い春やったな。思いながら先生に寄っかかっていた体を離す。
「あのね、トクター先生。先生のことを悪魔付きだって思ってたのは先生のお母様だけだと思いますよ。成長してからお母様が言いだしたのなら、悪魔祓いグッズ販売の輩に吹き込まれたのかも知れません。…だからと言って、子供を捨てるのはおかしいと思いますが…。
あ~ではなくて、 えと、それは、置いといて、皆…その辺の通りすがりの人も、先生のことを只の人としか認識してないですよ。真面目そうとか、カッコイイだとか、可愛いとかは各々の主観なので何とも言えませんが、確実に言えるのは、アプローチした女性がなびいてる時点でモテてます。
で、美人のヤーサが、言い寄る男を薙ぎ払い続けたのは、先生のことを好きだからで、即断即決でテキパキ業務をこなすプロメイドなのに、20年も愚図愚図と適当な言い訳を自分にしながら告白しないヘタレだったのは、フラれたら気まずくなって先生と一緒にいられなくなるのが怖かったからですよ。…分かりますよね?」
これで、変な思い込みが治るかは分からんけど、きっかけぐらいにはなったやろ。あとは、20年も寝かせた重い想いでも食べて、ぽんぽん痛くなりやがれいっ!
「ははっ。お嬢様は本当に誰にでも優しいんですね。ヤーサじゃなく私にもっと優しくして欲しいんですが…こんな簡単にフラれると凹みます」
カッコええ男、泣かしたった。
「私はモテて忙しいんで、ヤーサに慰めてもら…ヤーサを慰めてから、慰めてもらってください」
そう言うて、先生の腕の中から降りて脱出!
床にペタンと座って、うぉんうぉん泣いてる兄様を抱きしめると兄様も抱きついてきた。泣きながら、名前とバカを連呼される。
はあぁ~、こっちが泣きたい気分なんやけどなぁ~。…41歳と35歳、お似合いやろ。しかも、黒髪と黄髪…阪神カラーやん。…3歳とかどないもならん。あと20年早よ生まれてたら、引かへんかったけどな…。いや10年でも…5年ほどお待たせするけどいける……無意味な思考や…。
…こういう時に便利な言葉がある。それは【宿命】。
私は上手く言ってる時は“自分の努力の賜物や”と思い、上手くいかない時は“これは宿命やからしゃ~ないな”と思うことにしてる。
(だから…成長しない…もうちょっと粘れよ!って自分で思う時がある)
今回もまぁ、宿命ってやつやったんや。しゃ~ない、しゃ~ない。
ー ガチャ、とドアが開いて、お母様と食事を乗せたトレイを持ったリヨンが入ってきた。
「今度は何事?!」お母様の吃驚の声が響いた。
立って泣きながら、抱き合ってる医者とメイド。
座って泣きながら、抱き合ってる兄妹。
…ちゃう! 私は泣きそうやけど泣いてへん! これは…これは…結露や! カビる前に拭かな!
結露を袖で拭いながら、お母様に、
「何でもな 「せんせ〜がメアリーのおくちにチュ〜したの〜! ロンリーとおね~さん、ないたの~!」
おい! 女の子ーーー! それは説明せんでええやつーーー!!




