1歳 新生活開始
朝、目覚めると、隣にロンリー君が寝てた。
反対側にはオカンが椅子に掛けたまま、ベッドに腕を置いて突っ伏して寝てる。
前世記憶、健在や。どないなってんねん! いや、それよりも……。
「かあしゃま! おきて!」
言いながら、オカンの頭をベシベシ叩く。
「んん~、んっ? ミャーリー! おはよ!」
オカンではなくロンリー君が起きて、抱きついてきた。
が、それどころやない!
「かあしゃま! かあしゃま!」
引き続きベシベシ叩く。
「んん~、んっ?いたた、メアリー! あなた大丈夫。熱は?」
オカン起きた!
「トイエろこ? おちっこ! もえゆ!」
「えっ? どうしたの、メアリー、お腹空いたの?」
ちゃうわ!
「かあたま。ミャーリー、おちっこでるいう」
ロンリー君がフォローしてくれた。
「えっ? もうオムツ離れ?!」
そう! それや! 早よトイレ連れていかんかい!
「はやきゅ、はやきゅ」
「そんな急に言われても、まだメアリー用のおまる用意できてないし」
「おてぃぉなよ~でいいりょ! うちりょかりゃかかえてくれたりゃいいかりゃ!」
「えっ? 何て言ったの?」
通じひん!! どうしよ……も、アカン……。
泣いた。朝から泣いた。
「ミャアリー、ちゃんといったのにね」
頭をよしよしされる。
ロンリー君、自分だけや。私のことを分かってくれるんは。
篭に寝かされて両足を持ち上げられ、お湯に浸して絞った温かい布でお尻を拭き拭きされる。
小さい頃の記憶って大人になったら忘れてるけど、それ正解やな。
こんな格好、人目に晒してたとか覚えてたくない。
それ故に介護は難しいんやろうな……。
あれ? 私、今の状態ちゃんと忘れられるんやろか……?
……。
「かあたま! おまりゅ! いみゃしゅぐゅおまりゅ! わたちよ~のおまりゅ、ほちい!」
「えっと、おまりゅ…おまる! おまるが欲しいのね。わかったわ。今日、買ってきてもらうわね」
「おしょい! も~しゅぐ、うんこしゃんでりゅ! いちだいじになりゅ! はやきゅかってきて~。えぇ~ん、えぇ~ん」
一大事になって泣くぐらいなら、今のうちに泣き落とす!
コンコン、ノックの音がして、
「おはようございます。トクターです」
先生の声がした。
オカンが入室許可をすると、
「お嬢様、ずっと泣いてらしたんですか?!」
言いながら、私を抱き上げてベッドに寝かせ、診察を始めはる。
「いえ、昨日はあれからすぐに眠って朝までぐっすりでしたわ。今は、おまるが欲しいと言って駄々をこねているんです」
「しょんにゃこと、にょんびりはにゃしてにゃいで、はやきゅかってきて~。えぇ~ん、えぇ~ん」
「これは……昨日から凄いですね。1歳で言葉の爆発期を迎えてるのでしょうか?! オムツ離れにしてもかなり早いように思います。3日前からの発熱と関係があるのか? もしくは、これまで全く話さなかったのは聞くことに徹して情報収集していたとか……」
「そんなことがあるのですか?!」
「いえ、全く聞いたことはありませんが……。すみません。ちょっと初めてのパターンで私も戸惑っておりまして……」
「しょんにゃのりょ~れもいい! おまりゅ! おまりゅ! おまりゅ~! えぇ~ん、えぇ~ん」
泣きながらおまるを懇願したら、
「よしよし。わかったわ、メアリー。今から買ってきてもらうから、大人しく先生に診てもらいなさいね」
言うて、オカンが部屋から出て行った。
はぁ~、やっと動いてくれた。幼児も要望を通すとなると大変なんやな。思いながら、言いつけ通り大人しく診察されてると、
「んちょ、んちょ。ミャーリー、おまる もってきたよ! いっちょ、ちゅかお~ね」
ロンリー君がおまる(プラッチック製のアヒルやない、アルミ製? の洋式トイレみたいなん)を引き摺ってきた。
何や、この子! むっちゃ優しいやん! 天使や! 天使がおる!
あれ? でも、これ何処に置くんやろ? パーテーションとか置くのかな? いや、前世ではそんな物は置かへんかった! 子供の踏ん張る顔を微笑ましく見てた気がする……。
ちゅ~か、トイレットペーパーは? 手洗いは? ウエットティッシュはあんのか?!
「リョンリーきゅん。おまりゅ、ろこにおきゅにょ?」
ベッドの上でおっちんさせられて、先生が背中をトントンしたはるけど気にせず訊いたら、
「お嬢様。もう少しの間、大人しくしててくださいね」
って怒られ、
「ミャーリー、ぼく、にいたまだよ」
って、こっちにも怒られた。
どうやらロンリー君は、お兄ちゃんで間違いないよ~や。
「はい、お嬢様。熱も引いたし、昨日転んだのも問題ないみたいなので動いても大丈夫ですよ」
脱がされたネグリジェを着直されて、ベッドの下に降ろしてもらえた。
「おまる、こっち」
言うて、窓際の隅に置いたお兄ちゃんのもとへ伝い歩きで移動して、おまるを見る。
「キレイちてもらったよ!」
お兄ちゃんが得意気に言うたから、ちょっと座ってみた。
ズボッ! お尻が下に落ちて、便座に嵌った。
慌てて先生が助けてくれはる。
「これは2歳用の便座だから、1歳用の便座に交換しないと使えないね」
って言いながら、便器の上の便座を外さはった。
ほほ~。そういう仕様なんや。でもって、アルミの便座には布が貼ってあった。
ふむ、そういや前世でも貼り付けるタイプの便座カバーあったな。
その後、一大事になる前に私専用おまるが用意された。バンザ~イ!
ウエットティッシュもトイレットペーパーも無かったが、ティッシュは有り、アルミ製のティッシュ箱に可愛いカバーを着けた物をおまるの傍に置いてもらえた。
手洗いも水を張った手桶が用意され、持ち手部分にタオルも掛けてある。ホンマ良かった~~~。
で、何度も「このお水は飲んじゃダメよ!」と注意されたので、その度に「このおみじゅはにょみましぇん!」と約束した。
そして、それらの物プラス、私の要望でパーテーションを置いてもらい、表【きれいです】、裏【あらってください】の札をぶら下げ、部屋の扉を開けるだけでチェックできるようにしてもらった。
字ぃ読めることにビックリされたけど、それは多分いっぱい絵本を読み聞かせしてくれてたからやと思う。
でもって、これはお兄ちゃんの部屋にも採用された。
はぁぁぁ~~。ここまですんのにむっちゃ時間かかった。言葉が通じひんてホンマ大変やわ。
夜。今日1日、家中をハイハイと伝え歩きで徘徊し、時に使用人さん達に話しかけて得た、新しい人生の生活情報を頭の中で整理する。
◆星の名前:不明、国の名前:ネテマテ、領(都道府県?)の名前:キーモン
◆4人家族(我が家は領主の家らしいが、父は城勤めで王都に単身赴任中の為、母が領主代行中。母、私が泣かへんから職場に連れていってたらしく、言葉や文字の習得はそこでしたと思われる。絵本やなかった)
◆名字:ポップン、名前 父:シンリー(お父様)21歳、母:ナタリー(お母様)20歳、兄:ロンリー(兄様)2歳、()内の呼び方で呼ぶのが良いらしい。因みに私はミャーリーではなくメアリー、1歳。
◆使用人:料理及び買物担当が2名。
メイド(ヤーサ33歳)他、あわせて5名:お茶くみ・掃除・洗濯担当。
医者(トクター39歳=通称、先生):住込みだが普段は街の病院へ通勤したはる。
執事(モモヂ51歳=通称、モモ爺):領主代行補佐・その他、諸々担当。
◆電気ない、ガスない、上下水道はある。電波ない、プラッチックない、陶器・ガラス・紙・鉄・アルミ・ゴムある。
◆ガスコンロ・冷蔵庫なんかは、魔法を施した道具が代替品としてある。
そう!ここの星、魔法がある! 全員が使えるわけではないらしいけど。
今、点いてるベッドのサイドテーブルの上のランプの灯りも、油やなく魔法を施した石で炎の形をした光を出してる。お風呂も水溜めて魔道具をそこに入れて沸かす。
使い方は簡単。使用開始・終了時に魔道具を触って呪文を言えば誰でも使える(滑舌が悪いと専用の物を作ってもらわんとアカンらしく、まだちゃんと喋れへん私は簡単な呪文の物しか使えへん。それから、風邪ひいた時の鼻声にも注意!)
◆食べ物・着る物・建物:地球の欧米っぽい。虫が主食とかやなくて良かった!
◆外見:肌の色は概ね地球と同じだが、髪と瞳の色が何でもありな感じ。ちなみに私の瞳の色は水色で、オカン……やなくてお母様と兄様は紫色。髪も私だけ紫で2人は水色やし……私だけ2人と逆パターンや。
体の構造はよくわからんが、外見は男女や年齢など地球と同じ感じ。
◆時間:地球と同じ感じ。四季もあるらしい
◆生物:普通の動植物以外に魔獣っていう凶暴で人間を食べる(!)生き物がいるらしい。でも、魔力の多いところにしか出ぇへんから、普通の街とかに出没はせぇへんとのこと。良かった。
◆太陽や空も地球と同じ感じやけど、月はブルームーンとレッドムーンの2つあって、ブルームーンが海の潮汐、レッドムーンは魔力の潮汐に影響するらしい。魔力の干潮満潮?……よぉわからん。
ふぅ……とりあえず戦争中の国とかじゃなくて良かった。なんとか生きていけそうや。
生きていけるけど……。
ぐずぐず、泣きながら枕を濡らしてたら、ガチャと部屋の扉が開いてロン……やなくて、兄様が入ってきた。
で、ドレッサーの椅子をベッドの横に持って来て、それを踏み台にしてベッドに上がり、私が静かに泣いてるのを見てビックリしはった。
「ミャーリー、いたいの? ちゅらいの? ちぇんちぇい、よぶ?」
って心配そうな顔で言う。
あ~、も~、ホンマこの子、ええ子や。
今日の徘徊中もずっと一緒についてきて、私がコケそうになったら支えようとしてくれるし、通訳も(通じひんこともあったけど)してくれた。
「らいじょ~う、ちょっちょ、しゃみしかったらけ」
そう言うて笑ったら、
「ぼく、いっちょ、たみちくないよ」
言うて、ギュウ~と抱きしめてくれた。
ほんで、
「おやちゅみ、ちゅ~」
って言うて、ほっぺにキスしてきた。
あっ! 情報整理、漏れてた。
◆ここは挨拶でキスやハグをする。感染症が流行った場合、ちょっと怖いよなぁ~。思いながら、郷に入っては郷に従えと、さっきお母様ともした。
というわけでぇ~、
「おやしゅみ~」
チュッと兄様のほっぺにキスをした。
……か~~~っ! やっぱ何か照れるわぁ~。