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3歳 ペンション



 6時に起きてトイレ、歯磨き、洗顔を済ませて、ラジオ体操と軽くトレーニングしてから着替え。


 7時から朝ご飯を食べて、今日の予定を報告。

「メアリーと一緒に新しくできたお友達のタラちゃんの所へ行ってきます」

 兄様の言葉を聞いて、お母様が

「どちらのお宅の方?」

 訊いてきます。そりゃそう~や。


「今日、行って確認します!」

 言い切る兄様。

「そのお友達をこちらへご招待するのではいけないの?」

「はい! その子は少し体が不自由なんで、ここまで出歩けないのです」

「まぁ……。では、その子のお話いっぱい聞いてあげてね」

 優しいお母様がホロリとなる。


「はい!僕達とお話しするの凄く嬉しそうなんで、いっぱいお話してきます」

「分かりました。暗くなる前に帰ってくるんですよ」

「「 はい! 」」

「では、準備して行ってきます」

「お母様、お仕事無理しないでね」

 いい返事をして早々に退散。


 部屋に戻って、ホンマの行き先を書いた紙を私の宝石箱に入れておく。

 ……一応な。


 リュックを持って厨房へ。リヨンがお弁当とクッキーと茶葉をリュックに詰めてくれた。お礼を言って、裏口……ではなく表へ移動し玄関から出る。


 兄様に話しかけながら、チラッ……と後方を確認。

 良かった。今日の護衛もキリカ兄とコリン兄の9歳コンビや。()きやすいから助かる。

 家でチヨネ姉さんに怒られてんにゃろうな……。今度、何かあげよ。


 ウチのご近所さんは大店(おおだな)の支配人さんとかの家が多い。

 だから、各家で雇ったはる守衛さん達がゴロゴロいはって治安がええから、子供だけで歩いてても安心や。ってことで、子供だけで出歩く私らは修行中の子供たちの護衛の練習台にされてる……っぽいねんな~。


 ちゅ~わけで! いつものように、どっかの家の角を曲がった(あと)にダーーッシュ! したり、じっと息を(ひそ)めて隠れたりしながら護衛を()き、小さい子ぉしか通れへん生垣と生垣の間を四つん這いで通り抜け……猫の(あと)をつけて見つけた猫道を進むと我が家の裏門付近に出る。


 ふぅ、山登り前の準備運動完了。

 キョロキョロ、見つからんように周囲を警戒しながら山入り。


 今日もええ天気。木漏れ日の中、ここでもキョロキョロしながら歩く。


『あっ! 赤い花や!』

 兄様が見つけたのは、ヤマツツジ。道から外れるけど摘みに行く。ほんで、ちょっと蜜を吸う。ほんのり甘かった! いかん、いかん。タラちゃんへのお土産やった。


 ……摘んだはええけど、入れ(もん)がなかった……。

 首に巻いてたスカーフに包んでリュックへ。


 ふむ。周囲の生き物は普通サイズやな。魔獣や魔法のこととか話しながら、のんびり歩いて古道のどんつき ―― 昨日 来た、道が途切れたとこに到着。


『メアリー、いいか? ノックするで』

 兄様が緊張の面持ちで言うてくる。

『うん。私のこと心配してくれたタラちゃんを信じる』

 私も緊張しながら言うた。


 兄様が透明な空間に手を当てて、ぼよんぼよん。ゴムの壁を押した。

 少し離れて、上を見上げながらタラちゃんを待つ。

 

 ほどなくすると、

『嘘やん! ロン君! メアちゃん! ホンマにまた来てくれたん!』

 歓喜の声を上げてタラちゃん登場。


 あ~やっぱり、普通や。モモ爺が言うてた、(よだれ)垂らしながら(うな)(ごえ)あげて突進してくるっていう魔獣と全然(ちゃ)う。(まった)く食べられる気ぃせえへんわ。


『タラちゃん、昨日は親切にしてくれたのに(ひど)いことしてごめんなさい!』

『僕も、タラちゃんに悲しい思いさせてごめんなさい!』

 兄様と2人で頭を下げた。


『えーっ! ちょっと、ちょっと、2人とも! そんなん止めて~。2人の反応が普通やねんから、全然 気にしてへんしぃ! それよか、ホンマに来てくれたんが嬉しすぎて、どないかなりそぉやわぁ~』


 片方の前足を車のワイパーのように振って、他の足をバタバタするタラちゃん。かなり興奮してんな。


『はぁっ! いややわ~、私。こんなとこではしゃいでしもて。2人ともごめんね。えっと、その道のどんつきにある石畳の上で “ まいど~ ” 言うたら、門が出てくるから1人ずつインターフォン押して “ 開けゴマ ” って言うて、中入って~』


 ……門? タラちゃんの言葉に首を(かし)げる。

 てっきりタラちゃんの背中にでも乗って移動するんやと思ってたわ。

 

『まいど~』

 兄様が言うと、鬱蒼とした森が見えてたところに忽然と数寄屋門が現れた!

と同時に風が吹いた。いや、足元、空気が吸引されてる感じや。見た目は普通の石畳。でも下から掃除機に吸われてるみたい。

 前世、花粉症やった。このシステム玄関前に欲しかったな……。


 人が通る用と車……やなくて、タラちゃん用がある立派な門構えや~。


『うわぁ~! こんな門、初めて見た~。引戸になってるんや~』

 兄様が驚嘆の声を上げた。

『あっ! ホンマにインターフォンみたいなんがある』

 私もビックリする。


 これ、ジャンプせんと届かへんな。思いながら見てると、

『あの出っ張ってるんがインターフォンって言うやつなん? 僕が抱っこするし手ぇ伸ばしてみ』

 兄様、察しがいいうえに優しいな。


 手を伸ばして、ポチっと出っ張りを押し、

『おはようございます。メアリー・ポップンです』

 って言うと、

『メアちゃん、急にどうしたん?開けゴマって言うんやで』

 タラちゃんが首を(かし)げた。

『あっ、せやった。つい癖で』

『えっ? 癖?』

 今度は兄様がキョトンとした。


『いや、ちゃうちゃう。え~と、開けゴマ!』

 慌てて言うと、カチッと人用の門が解錠される音がした。

 兄様に降ろしてもらって、カラカラカラっと引戸を開けて中へ入り、くるっと振り返ると、カラカラカラっと自動で閉まってカチッと施錠される音がした。一体どういう仕組み?!


 ビックリしてると、

『開けゴマ』と兄様が入ってきて、タラちゃんも専用インターフォンに

『開けゴマ』と言って入ってきた。


『タラちゃん、この門、どういう仕組みなん?』

『え~、ごめんやけど、それは分からへん。マリちゃんが1人で魔道具作ってた』

『ふ~ん、そ~なんや。あっ、じゃあ、なんで1人ずつなんかは分かる?』

『あっ、それは分かる。声で悪意のある人 判断して門前払いするってマリちゃん言うてた』


 声? 判断基準なんなんやろ? っていうか、魔法でこんな自動ドアみたいなことできるんや!


『これ、帰る時はどうすんの?』

『普通に取っ手に手をかけたら開くよ』


 手を伸ばしてやってみたら、開いた。

 外に出ると自動で閉まる。取っ手に手をかけて開けようとしても開かへん。ピョン! とジャンプしてインターフォン押して『開けゴマ』 ―― 開いた!


 聖女マリちゃん、凄い! 私、91歳まで生きたとしても、これ作れる気ぃせえへんわ。


『メアちゃん、遊んでんと、そろそろ家入ろ』


 タラちゃんに言われて、石畳のアプローチを進む。

 すると広けた場所に出た。目に入ってきたのは……大きな山小屋!

 日本家屋ちゃうんか!


 小屋への玄関に続く3段の階段を上がると、屋根付きのウッドデッキになってた。

 小屋のすぐ(そば)には大きな東屋? いや、よく見たらテーブルと椅子の他に、かまど、鉄板、網がそれぞれ両端に5セットずつ、計10セットある。中央には向かい合わせに流し(台所)が2台。奥に薪が積んである…キャンプ場みたいやな。

 それから、広い庭の跡地? グランド2つ分ぐらいで半分ぐらいが温室。それに川が流れてて、10本ぐらい桜の樹があって8分咲き。


『大きなお庭やけど、お花とか育てたはったん?』

『お庭ちゃうよ。あの辺、全部、畑やってん。野菜とか果物 育てたはった。雑草は刈り取るようにしてたんやけど、全部アカンようになった』

 タラちゃん、ちょっと寂しそ~に言うたあと、

『お花はね~、ちょっと離れた場所にお花畑あるから、2人が大きなって強なったら、連れてってあげるね~』

 少し気を取り直して、嬉しそうに言わはった。強なったら?


 ウッドデッキの奥に行ってみると離れた所にもう一つ山小屋があり、その間にサンルームがあって中に物干し竿も発見。


『2人はこっちから上がって』言われたので、玄関に戻る。

 中に入るとそこは……ほぼペンションやった。


 作りは平屋。玄関扉を開け、横を見ると下駄箱……箱やなくて棚やな。

 あっちはリビング? 側からも靴が取れるようになってる。ウッドデッキに出る時も自分の靴で出られるようにかな? その下駄棚にスリッパがあった。土足厳禁の張り紙。下駄棚それぞれの段の上板から紫の光が放射されてる…もしかして紫外線殺菌? あと炭も置いてあった。靴を脱いで、下駄棚の前の簀の子(すのこ)にあがり、スリッパを履いて靴を置く。廊下に上がってすぐ横の扉を開ける。


 大きな1LDK。西側の外に面した側には大きな掃き出し窓がありウッドデッキに出られる。さらにそこから東屋へ降りられるようになってる。タラちゃんは、ウッドデッキで待機。ちょっと探検させてもらう。


 リビング奥の扉を開けると玄関から続く廊下があり部屋が4部屋。

 全てトイレと洗面所付き。内、客室っぽいのが3部屋。各部屋ベッドは2床やけど、それぞれ下部にエキストラベッドが付いてて、1部屋で4人まで寝られる仕様。

 残りの1部屋はマリちゃんの自室っぽい。大きいキングサイズのベッドが1床と机と椅子と本棚。ベッドのサイズ……結婚したはったんやろか?

 そして、全ての部屋の窓から海が見える!シーノビ里がある方向やねんけど竹林とかで上手いこと隠れてる。


 廊下を北に進むと大きなお風呂が2つ。

“ 男女別ではなく貸切利用、鍵付きで家族風呂OK。40℃のお湯かけ流しで、24時間 入り放題。※川の水を魔道具で温めているだけなので温泉のような効能はございません。 ” と張り紙がしてあった。


 その隣にトイレ。こっちは男女別で、それぞれ大人用の個室が2つずつと子供用の便器と手洗いが1つずつ。


 その隣りの部屋、コインランドリー?! こっちの世界、洗濯は桶に水やお湯張って洗濯石を入れて回転させる……ここも棚に洗濯石……ではなく洗濯ゴムボールが置いてある。

 でも、桶は無くて、替わりに四角い木枠にアルミ(ステンレスかな? 丈夫そう)の洗濯槽が入った洗濯機みたいなのがサイズ違いで7台ある。

 桶は傾けて脱水するんやけど、これどうやって脱水するんやろ?


 あっ! 壁に使い方 貼ってあった。洗濯ゴムボール、色んな種類があるんやぁ~。全自動、洗浄、濯ぎ、脱水、乾燥、手洗い、それぞれ洗濯は水量を選べたり、乾燥は時間を選べるようになってる。洗乾コースもある!

 乾燥は風石で出来るとして……脱水も魔法できるんや!? どうやってんにゃろ? ホンマ凄いな~。



 ランドリーから出て最後、廊下を挟んで向かいのドアを開けるとダイニングに出た。


 う〜ん、なんちゅ~か……マリちゃん、聖女像からどんどん離れていくわ~。



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