3歳 魔法書
お昼寝から目覚めてサイドテーブルの上を見ると、ガラスのサラダボールに紫色のヒヤシンスのお花3輪と、その中央に水色のオオイヌノフグリのお花1輪を浮かべたものが置いてあった。
窓から差し込む光が水とガラスに反射してキラキラ~。
『うわ~! 綺麗やね~。リヨン、わざわざ紫色のお花、探してきてくれたんや。優しいな~』
私の感想。
『う~ん、気が利くし、口に似合わずお洒落やな~。伊達に王都の大店で勤めてたわけやないな』
兄様……面接官か?
昼寝の後のティータイム。この状況だけでも幸せや~。
さらに……潰し過ぎず果肉が程よく残った苺ジャムをた~っぷりかけた~るホットケーキ~。いただきます。はぁ~幸せや~。
でもって、最近、出回るようになったココア。生クリームをのっけてホットでいただきます。はぁ~幸せや~。
ハッピータイムの後、リヨンにお花のお礼を言おうと思ったら、買い出しに行ったはった。
もう一人の使用人のジークに「今日のホットケーキセットも最高に美味しかった!」と言うと、「いや、そんな……ありがとうございます」とのこと。
ジークはどちらかというと無口。でも、すっごい嬉しそうに照れるとこが可愛い人や。
しょうがないので、お花のお礼は後回しにして家の本棚で魔法本探し。
本好きの当主がいたと思われる年代と、興味無しだったと思われる年代で本の量が全然違う。
また嗜好も偏りが見られる。私と兄様の時代劇っぽい本も並んでる。子孫はお父様が好きやったと勘違いするに違いない。
それにしても……魔法、みんな興味なかったんか? 全然、見つからへん。
兄様が『何探してんの?』って訊いてきたけど、『気にせんと、自分の好きなん読んどき』って言うた。昼寝前に反省したとこやしな。
頑張って、1冊だけ見つけた。
ボロっちい! しかも薄い! 割に分厚い立派な装丁を開く。
【魔法 = 自力発動編 =】
魔力保持者と判明した貴方の素敵な味方! そんな本に私はなる!!
私と一緒に偉大な魔法使いを目指しましょう!!!
目次
1.魔法でやりたいことを決める P.1~2
2.呪文を決める P.3~4
3.発動する P.5~6
4.止める P.7~8
5.あとがき P.9~10
なんやろ……文章がアホっぽい…。
A5サイズの本、8頁で偉大を目指すんか?
そう思いながらページを捲る。
P.1
貴方はどんな魔法を使いたい?
具体的に思い浮かべてノートに書き出して!
誰の為、規模、色、形、どんな風に、完成形は、とか、
とりあえず具体的にね!
そして、Let's イメージトレーニング!
カッコ良く! 色っぽく! 可愛く! ダンディに! 爽やかに!
逆に悪っぽく! 病んでるっぽく! 普通に!
色々な貴方を魅せて!
P.2
ミニスカートが風に煽られて、パンツが見えそうで見えないナイスバディな女の人が、ウインクしながら投げキッスしてる手ぇからハートマークがいっぱい出てくる。そんなイラストが描いてあった。
……。気を取り直して、ページを捲る。
P.3
さぁ! 次は呪文を決めるわよ!
貴方のオリジナル呪文よ! 誰かとカブるなんて恥ずかしくってよ!
貴方の秘めた想いを、貴方にしか分からない言葉で!
戦いの時に「今から殴っちゃいます!」「喰らえ!デコピン!」なんて、
宣言しちゃダメダメなんだからっ!
さぁ、貴方の溢れる想いをノートに書き出していくのよ!
そうそう、呪文、忘れちゃうと大変だから、なるべく短くね!
尚且つ、これから発動する魔法をイメージしやすいものにしなくっちゃ!
イメージとかけ離れちゃうと発動しなくなっちゃうから要注意よ!
P.4
P.2のイラストに「×××しちゃうぞ!(←呪文)」と書いた吹き出しが追加されたイラストが描いてあった。
……。ページを捲る。
P.5
キャー! とうとうこの時がきちゃった! ヤダ! どうしよー!
ねぇ分かってる? これから貴方の魔法を発動しちゃうのよ!
まずは体の中の魔力を手に集めるの!
手のひらに私がいると思って!
貴方の熱いハートを私に感じさせて!
貴方の想いが詰まったこの魔力!
さぁ! 魔法の対象のものに手のひらを向けて!
いくわよ! 今よ! 呪文を唱えて!
いっけーーーーーーーーー!!
P.6
大きな手のひらの中央で背中から魔力と思われる光を浴びてるお姉さん(P.2 参照)の裸体と思われるものが、逆光で真っ黒に塗りつぶされてる。そんなイラストが描いてあった。
……。ページを捲る。
P.7
ふぅ。どんなに熱い想いも冷める時がきちゃうのよね。
止めちゃうときは、手を離したり握り拳をつくればいいの。
文章これだけで、下の余白に一仕事終えて気だるげなお姉さんのイラストが描いてある。
P.8
枯葉の舞い散る中、哀愁を背中に漂わせたお姉さんの後ろ姿のイラスト。
……の下に※印 発見!
※魔法は一度発動すると呪文を変更できないため、
呪文を考えるときは充分、気を付けて下さい。
って、ちょっと! こんな大事なこと、呪文のページ! P.3に書いとかなアカンやろ! しかも口調が変わっとるがな! 後から漏れてたん気ぃついて、無理矢理ねじ込んだんちゃうん?!
……。ページを捲る。
P.9
~ あ・と・が・き ~
どうだった? 私、貴方のパートナーとしてちゃんとやれたかな?
私とのこの時間を思い出して、素敵な魔法使いになってね!
偉大な魔法使いになった貴方とまた会いたいわ。
あっ! そうだ!
半年後、発売予定の【魔法=魔道具作成編=】で会えるわ!
それじゃ、ま・た・ね・チュッ!
……また、投げキッスするお姉さんのイラストが描いてある
P.10
……真ん中が四角く切り取られてる。
その上に「巻末の袋とじのイラストをカードにしちゃいました! 種類は全部で8種類! どのイラストが当たるかはお楽しみよ! 欲しい方はこの応募券を切り取って、下記の要項を記入して、下記の住所まで送ってね!貴方のご応募待ってるわ!」と書いてあった。
巻末 ……。袋とじが切り取られた後が見受けられた。
パタン、と分厚い立派な装丁を閉じた。
先祖ーーーーーーーーーっ! こんなもん死ぬ前に処分しとけ!
いや、待てよ……8冊以上あって、その内の1冊だけ残ったんかもしれん。
最初、立派な装丁見て……この本 薄いけど、実は読み終わった後に小生意気な妖精とかが出てきて付きっきりで魔法教えてくれたりしてやな、むっちゃ仲良~なって、常に一緒におるようになったりなんかして、私がピンチの時には、天罰レベルの魔法を繰り出して助けてくれるようになるかも!
って期待した私が悲しすぎるやん……。




