1歳 ひょっとして死んだ?
んんっ。ん~~。 ―― 目が覚めた。
んん~っ……なんか視界も頭もボーっとしてんなあ~。今何時や?
って違うわ! 手術! 手術したんやった!
私、生きてる、生きてるやん! 手術成功したんやっ!
やった! やった! やったーー! 山本先生、難しいって言うてたのにやるやーん!
ん? 何かちょっと暗いなぁ。オレンジ色っぽい照明? いつも温白色な感じやのに……。まだ病室に戻ってへんにゃろか?
にしても、誰もおらんのか? 人の気配ないなぁ。何処行ったはるんやろ?
ふぅ~、体だるいなぁ。麻酔の影響か? それとも後遺症? 副作用とか? え~っと、取り敢えずナースコールやな。
ちょっと浮腫んでる手ぇでゴソゴソと手探りでボタンを探す。
え~っと、あれ? なんかいつもと違う? ちょっとちゃんと目ぇ開けよ~。
―― パチッ!
んっ?
「あれ~? 何ここ?」
天井がなんか病院っぽくない。ベッドサイドに置いてある照明も電球やなくてガラスで覆われてへん炎が剥き出しのランプや。周りも……今は明かりが灯ってへんけど同しようなランプが壁に飾ったある。で、置いたある家具とか壁紙が桜色っぽい、何かピンクピンクした部屋や。
ちゅ~か、このランプ。火ぃ燃え移ったら危ないがな!
いや、待てよ。煙出てへんし、熱くもなさそうや。これ、映像か!? 照明にできるほどの映像って凄ないか!?
……。
えーーーっ! なんやこれ? おいおいおいぃーー!
もしかして、どっかのお金持ちの個室に間違えて運ばれたとか?!
もぉ、そんなんやめてぇ~! せや! ナースコール! ナースコール!
頭と目をグルグル動かして探す。何処や?! 見当たらへん!
ちゅ~か、このベッド低いな。こんなん看護師さん世話しづらいんちゃうやろか? これやから金持ちは……。
―― ガチャ。
お金持ちさんへの勝手な偏見で怒ってたら、ドアがゆっくりと開いて誰か入ってきはった。
お、子供や! 私と目が会うと、ちょっと目を見開いてビックリした後、3等身の小っちゃい体でテテテとこっちに来る。うひゃ~、走る姿がむっちゃ可愛いー!
ちゅ~か、頭が水色やん! こんな小さい子供の髪を染めるって、何やってんねん親! 虐待や! 思いながら子供の顔を見る。
「!」
目つき悪っ! 三白眼やがな。あっ、でもこっち見ながら必死に走ってくるの可愛い!
男の子(……かな?)がベッドの脇に到着。
私がベッドに横たわったままやから、ベッドの脇に見えんのは水色のセンター分けサラサラ前髪と三白眼の顔。
でもって、ジィ~っとこっちを見てくる。何これ、むっちゃ可愛いやん!!
『ミャーリー、おっきちた? らいじょうぶ?』
あれ? ちゃんと見えてへんのかな?
ベッドの上の人物が謎のおばちゃんやと気付かんと、聞いたことがない言葉で話してきはる。
のに、言葉が分かる気がする……。舌っ足らずな感じまで……。
かーっ、もぉ! 可愛い! 手術して助かったのに可愛い死にする~!……って、アカン、アカン。
え~っと~、心臓の手術のついでに頭に翻訳機を埋め込まれた?
先進医療ってそういうことなん? 勘違いしてたわ私。
へぇ~、埋め込む技術も凄いけど、こんな凄い翻訳機ができてたって知らんかったわ~。
「ごめんね、僕。病院の人が間違えはったみたいで、ミャーリーさん、ここにはいはらへんのよ」
ニコッと笑って教えてあげる。
が、実際は上手く話せてへん。やっぱ麻酔残ってんのかな?
お! 男の子、またもや目を見開いてビックリしてんな。三白通り越して四白眼になってる。
そりゃそうか。ミャーリーさんとやらと思ってたのに、知らん人が喋り出したんやもんな。日本語わかるかな~? ……ふふっ、ビックリ顔も可愛い。
なんて、呑気に観賞してたら開けっ放しになってるドアの外から人の声がきこえてきた。外国語や!
『先生っ! 早くっ! あの子、呼吸が荒くなって……』
……私、悪くない。私、寝てただけ。
知らんまに運びこまれただけやし! あの子とやらが何処にいるか知らんし! たぶん私の病室とテレコになってるんやとは思いますがっ!
……寝たふりしよかな……。
考えてる間にクールプリティ君(勝手に命名)がドアの方へ行って叫んでしまいました。
『かあたまー! ミャーリー、おっきちたーー!』
ちょっ、待って! よく見て、この顔! ミャーリー違うやろ!!
バタバタバタ……小走りしたはるっぽい足音が聞こえます。
ひえ~、私悪くないのに冷や汗が出そうや。冷や汗だけにひえ~…。
『メアリー!』
ちょっと大きな声を上げながら、水色の髪をした三白眼の女の人が入ってきはりました。
うわっ! 母親も水色なんかっ! 芸能人なんかなぁ? 変わった服装したはるし。サーカス団の人とか?
今度は私の方が驚いてたら、扉の側にあるランプの中心を触りながら何か呟かはり、それと同時にパパパパッと部屋の所々にある照明用のランプが次々に点灯した。
ほえ~。あの入口のランプにはスイッチも仕込んであんにゃ。ベッドサイドの物よりも明るいし……お金持ちさん家の照明って凄いなあ~。
言うてる場合やない!
「す、すいません。なんか看護師さんが間違えはったみたいで。ナースコールしようと思ったんですが、ちょっと何処にあるのか分からなくて。すいませんけど、誰か病院の人 呼んでもらえますか?」
周りに点滴とか見当たらへんけど、動いてええんか分からんし横になったまま辛そうに言うてみた。
麻酔の所為で上手く喋れへんから、実際には「ちゅ、ちゅみまちぇん。にゃんかきゃんごししゃんが……」ってなってしもてたけど、今のでわかってもらえたかな?
『嘘っ?! なんてこと!』
そりゃ、びっくりするわな。
クールプリティ君……ちょっと長いな。クール君って呼ぼ……と同じように四白眼になって両手を口に当てたはる。
(ふふ……この親子そっくりやな)
思いながら、とりあえず通じたみたいで良かった~。と安心してたら、
『メアリー、メアリーが……何か話して……あぁ……神様…神様……ありがとうございます……』
そう言うて、口に当てた両手に顔を埋めながら泣き崩れはった。
………。何これ?
とりあえず、首を動かして反対側をキョロキョロ見てみる。
誰もいいひん……よねぇ。
ええー! 何やこれ? いや、ほんま意味わからんにゃけど!
『奥様!? どうなさいました!? あ、お嬢様。お目覚めになられたのですね。良かったです』
『かあたま! ろおちたの? らいじょうぶ?』
遅れて入ってきはった先生……初めて見る先生(何科なんやろ? なかなか男前や~)とクール君が『あぁ、本当に……本当に……良かった……』と、呟きながら涙したはるクール母に驚いて声をかけはる。
『んっ……ロンリー……大丈夫よ。先生、メアリーが……生まれてから一度もちゃんとした声を出したことがない……産声すらあげなかったメアリーが今…わ、私の顔を見て……ふっうぅっ……顔を見て……グズッ……しゃ…喋ったのですわ』
流れる涙を指で拭い、クール君の頭を撫でながらクール母が話したはります。
どうやら、クール君、ロンリーって名前みたいや。英語圏の国に住んでたら、ちょっと可哀想な名前やな。
ちゅ~か、え~と、さっきから喋ってんの私だけやんな……。
あ~…そう言えば、心臓移植をした人が提供してくれはった人の記憶を持つとか、突然子供が「僕はこの家の子供じゃない! 僕の家はどこどこにあって名前も何々だ!」とか言いだして、その場所へ行ってみると確かにそういう人が存在したとかいう都市伝説あったな~。生まれ変わりみたいな。
え……嘘やん。私、死んだん?