4歳 名前…ちごてた
お手洗いから戻ると、ランチがテーブルの上に並んでた。
パリーピ家の使用人さんやエリーが同じテーブルの席に着いてるのを見て、ジョエルさんがホッとしはった。まだ、完全に緊張が解けてるワケやなかったみたいや。
食事をしながらコージン院長がムロン様にヤーオイン領の施設や習慣について色々訊かはる。付き添いで来ただけやのに積極的や。
でも、爽やかに話さはるから…精力的に他領の情報収集をしてるようには見えへん。流石や。
「メアリー様、騎士に扮したメアリー様の両脇を、同じく騎士の格好をした私が掴み、そのままグルグル回って遠心力で浮いたメアリー様の足で敵を薙ぎ倒していく…名付けて…ダブルナイトサイクロン! とか、どうですか?」
と…向かいに座ってる新・協力攻撃の相方のレスカルさんが相談してきはる。
今朝まで私の向かいはアナスやってんけど…コージン院長とジョエルさんがパリーピ夫妻の向かいに座らはった為…ポップン家の席がずれて、そうなった。
「却下です!」
それ攻撃やなくて、幼児あやしてるだけやん…。
「む~…では…脇ではなく、メアリー様の足を私が抱えてグルグル回るというのは?」
それ、ジャイアントスイング! 敵にかける技! 味方にやったらアカン!
「どちらも却下です。敵が剣を構えていたら、私の足とか腕・首が飛びます! それよりも…私がレスカルさんの背中に張り付いておいて、敵の剣をレスカルさんが受けた瞬間、肩へよじ登って、敵の頭を上から鈍器で殴る…名付けて…ナイトアップヒーット! なんてのはどうですか?」
「却下です。全然カッコよくありません」
いや…幼児振り回してんのもカッコよくないやろ!
「では…私を背中合わせに括り付けてください。強制的に背中を預けた状態で戦いましょう。背中を預ける…相棒って感じでカッコイイじゃないですか! ネーミングはそうですね…手足を横に広げた時に8本足の蜘蛛のように見えるので…ナイトスパイダー!」
「背中で暴れられたら動きづらいです。それに、括り付けてる時点で全然カッコよくありません。却下です」
…そうか…せやな…。
う~ん…ナイト…スパイダーやなくて…ライダーやったら、かっこ良~なんのに。
前世、テレビで観てたドラマ…カッコイイ黒い車が登場してた。真面目なエエ子で…そういうとこがむっちゃ可愛いAI…を搭載してて、ホンマ好きやった~。好きやったのに…名前 “ キッド ” ってずっと間違えてた。てへっ。
うわっ、アカン! なんかつられて…真面目でキスしたらすぐ赤くなる黒髪黒目のトクター先生、思い出してしもた!!
ぅあ~、トクター先生に抱っこしてもらって「行くよ! トクター」って言うて、「了解です、メアリー」とか「いけませんよ、メアリー」って言われたいぃぃ~。
…あぁ~、もぉ~…いらん妄想して……泣きそうや…。
「…とりあえず…私が大きくなるまで…コンビは一時解消しましょう」
全然、技が決まらへんから、解散することにした。再結成は、括り付けんでも背中を預けられるぐらい背が伸びる10年後や。
「そうですね…。それまでに、色々、案を書き出しておきます」
ネタ帳の作成はレスカルさんがしてくれはるらしい。
昼食が終わって、ジョエルさんが帰らはる。あまり長居してもらったらジョエルさんが疲れはるからな。
お見送りの為、みんなで玄関へ移動。一番後ろをテクテク歩きながらコージン院長に…里へ何をしに行かれるんですか?…と訊いたら、ついでなのでスケサさんにダッソーの好物リストを渡してきます、って言わはった。
「イワン先生に渡しておけばいいんじゃないですか?明日にはスケサさんとダッソ兄の家に戻られますよ」
小さな声で言うと、院長も小さな声で、
「ん~、そうなんですが…ダッソーがちゃんと馴染んでるか、一応、自分の目で確認しておこうと思いまして…。私が院長になって、初めて里子に出した子ですからね」
照れたように笑いながら、それでも目は真面目な顔で言わはった。
玄関で、クロイが馬車を回してくるのを待つ。
「今日はお会いできて、本当に嬉しかったです。私、ジョエルさんの作品が大好きなので、これからも素敵な作品をたくさん作ってくださいね。楽しみしています」
フレージュ様がジョエルさんに微笑みながら言わはる。
「こちらの方こそ、私のような者に気さくにお話いただけて嬉しかったです。それに…作品をお喜びいただいていることも知ることが出来たので、物凄くやる気が出てきました。ありがとうございます」
少し、はにかみながらジョエルさんがお礼を言わはった。
そうして、パリーピ家の皆さんに挨拶しはったジョエルさん。
次に兄様とエリーに、
「坊ちゃま、かっこいいですね。ふふ、このお姿を拝見したらまたウリコがプロポーズするんじゃないでしょうか」
「エリーちゃん本当に妖精のように可愛いね、次に施設へ来る時もこの格好をしてきて下さい。カグヤの美容師魂に火が点くと思います」
と言って、私にも…、
「お嬢様…コージン先生とイワン先生って…仲が良いんでしょうか?」
…私には…なんか訊いてきはった。
「あ~、子供の頃、一緒に遊ばれていたようなことを聞きました」
と答える。実際は修行やけどな…。
「…そうなんですね…」
分かりやすく落ち込まはるジョエルさん。
う~ん、っていうか…ジョエルさん。…イワン先生以前に…コージン院長には奥さんがいるってこと忘れてへんか?!
はぁ~、しゃ~ないな…。今日、ここにコージン院長が来たん私の所為でもあるし、ちゃんと蟻地獄から抜け出せるように協力しよ。
「あの、ジョエルさん。イワン先生なんですが…実は…悩み事があるらしくて…。そのせいで、眠れなくなって寝不足だったんです。当面、解決しないと思いますので…施設で見かけられたら励ましてあげてください。年の割に子供っぽい方なので、取り扱いが大変だとは思いますが…。面倒なことを言われるようでしたら、お嬢様に言われたと言って頂いて結構です。お願いできますか?」
…悩んでて眠れへんかったんやなくて、悶々として眠れへんかったんやろうけど…嘘はついてへんよな…。と思いながら、落ち込み中のジョエルさんを見上げて言うたら、
「え…僕がですか?!」
私の突然の依頼にビックリして、分かりやすく…嫌そうな顔しはった。
「はい。本当は、コージン院長にお願いするのが良いとは思うのですが…院長になられてまだ数ヶ月ですし…色々と大変だと思うので頼みづらいんです。かと言って、他にこんなことを頼めるような知り合いは施設にいないので…ダメでしょうか…。あっ、無理にとは言いません。その場合は、コージン院長に頼…」
「やります! 励ませばいいんですよね! ちゃんと出来るかはわかりませんが…御恩のあるお嬢様の頼みです。頑張ります」
…被せ気味に言うてきはった。ふふ、ホンマ、分かりやすいな。
それにしても…、
「御恩なんて…馬車のことでしたら…前にも言いました通り、私は口しか出していませんでしたので、このペンダントで充分お釣りが出ますよ。ですから、今回のことも無理はなさらないでくださいね。暇潰しぐらいの感覚で大丈夫ですから…お仕事やお休みなど…くれぐれもご自分のことを優先するようにしてください」
ジョエルさんも大概真面目やからな…一応、釘を刺しとく。
「畏まりました。病院に行くと迷惑だと思うので…施設内公園でジュエリーのデザインを考えている時にでも見かけたら…気分転換に話しかけてみます」
暇潰しでええって言うたんが効いたんか…ホッとした表情をして、笑顔で言うてくれはった。そんなに嫌なんや…。
ふぅ…まぁ、これで、少しはコージン院長以外のとこに目が行くやろ…。
イワン先生も…最初は一緒に励まし合うって言うてたし…余計なこと言わないで! って、怒鳴ってくることはない。…と思いたい。
ジョエルさん、最後にお父様とお母様へ挨拶して、クロイに肩を借りて馬車に乗り込み…見送るコージン院長を名残惜しそうに見た後…クロイが運転する馬車で1人、施設へと帰って行かはった。
「イワン先生の悩み事って何?」
兄様が訊いてくる。他のみんなも興味津々。
「前髪を後ろに流しておでこを出したいのに、どうやっても、すぐに前に落ちてくるからイライラするんだって」
自分の前髪を片手で掻き上げ、すぐにサラサラと落ちてくるのを感じながら笑って言うと、
「慣れだな」
同じ様に前髪を掻き上げてサラサラさせながらお父様が言うた。
「それでは、私も仕事がございますので、これで失礼させて頂きます。本日は楽しいお席に同席させて頂いて、ありがとうございました」
そう、お礼を言うてコージン院長が歩いて帰っていかはる。
「この辺りでお仕事って何かしら?」
お母様が首を傾げながら呟く。
「4月に孤児院の子供を引き取った里親の方から、その子の好物のリストを下さい、と言われたらしくて…そのリストを届けに行くんだって」
パリーピ家の皆さんがいはるから、個人名は出さんとお母様に説明した。
その私の言葉を聞いて…少し離れた所で庭の手入れをしながら、こっちの様子を窺ってた師匠が…声を出さずに楽しそうに笑った。
はて? …今のの何がそんなにオモロイんやろ…? たまに師匠もワケわからんなぁ。




