3歳 森林浴
3歳になった。
歯が生え揃い、顎も舌も鍛えられ、滑舌すこぶる好調!
手先も器用になってきて、服も自分で着られるようになった。
体のバランスもだいぶ良~なってきたからな。高いところからも余裕で飛び降りれるで~!
去年は1月に王都へ行ったお父様。今年は3月の中旬までおれるってことで、私(3歳)と兄様(4歳)の誕生日を内々で盛大に祝ってくれた。
何か私と兄様よりも、お父様が一番楽しそうやった。それはそれで嬉しいこっちゃ。
そうして、3月下旬。お父様は泣きながら王都へ出立したけど、こっちは4月まで修行中止やから10日ほどフリータイムや。
ってことで、前からちょっと気になってた所へ行ってみることに。
ウチの裏口、真っ直ぐ道を進むと里へ行けるんやけど、左手側にも道らしきモノがあんねんなぁ。
冬でも草がぼうぼうに生えてるから分かりづらいやんやけど、もしかしたら忘れ去られたお寺さんとか神社があるかもしれん。忍者の里があるぐらいやしな。
山やけど最近はコケることも少なくなってきたから大丈夫やろ。
お昼用にお弁当も作ってもらったし、準備万端や。よし! 出発進行~!
よいしょ、よいしょ。兄様と一緒に、そこだけ樹が生えてへん古道を登る。
5分ほど登った所で緑色の透明……セロハンみたいな薄い壁が現れた!向こうの景色が透けてる。
なんじゃこりゃ?! 結構 背が高くて横にも……どこまで続いてんにゃ? 端っこ見えへんやん。
かなり大きいのに、近づくまで気付かんかったな。緑色やからやろか?
『お兄ちゃん、これ何か知ってる?』
日本語で話しかける。2人の時は日本語で話すようにしてるから、かなり話せるよ〜になった。
『ん~ん、知らんなぁ~。何やこれ?』
首をふるふるしながら、壁に手を伸ばす兄様。
『わぁっ! ちょっと待って! とりあえず、危険がないか試そ』
慌てて兄様を止め、2人で石や小枝、ダンゴムシを壁に投げつける。
……普通に通り抜けるな。
『私、ちょっと向こ~行ってみるわ』
言うて進もうとすると、兄様に手を掴まれる。
『僕も一緒に行く』
『お兄ちゃん、領主の跡取りやねんからアカンて。なんかあったらどうすんの』
『そんなん別に僕やなくてもええねん。それよりメアリーになんかある方が嫌やし、向こうに何があんのかも気になる』
こっちをジッと見ながら言うてくる。
あ、これ、絶対覆らへんやつや。
2人でそっとつま先を差し込む。……何ともないな。
『えい!』
意を決して通り抜けた! その先には!……普通に古道が続いてた。
虫にビビり、草がガサガサいうのにビビり……ウサギや!
わ~~♪ 追いかけようとしたら、兄様に手を掴まれた。
『メアリー、道、外れる! メアリーがこの道の先に何があんのか知りたい言うたんやからな。初志貫徹やで!』
……兄様、えらいしっかりした子になったな。
『は~い』と大人しく道を進む。途中でリスを見つけても、近くに寄らんと道から眺めるだけ。
てくてく。木漏れ日がキラキラ降り注ぐ道を進む。
ザザザザー。風が吹くと揺れる葉っぱの音に合わせて地面の上の光が躍る。
森林浴ってやつやな。めっちゃ心地ええ~。
キジバトの鳴き声……ポーポーポッポー、ポーポーポ。
って最後、いっつも “ ポ ” で終わる。「ポッポー」って伸ばさへんのかいっ! って、いつも思う。
オオイヌフグリ発見。水色のお花や。
『お兄ちゃんの髪の色や~』
って言うと
『ホンマや。メアリーの目の色や~』
言いながら、一輪頂いて耳の上に差し込み『可愛い』って言うてくれたから、私も一輪頂いて兄様の頭頂部に差し込み『可愛い』って言うた。
『ホンマに?』
兄様がちょっと首を傾げると小さなお花が頭頂部で、ほよんって揺れた。
『ホンマに可愛い』笑顔で言うたら『そっか』って兄様が笑顔で言うた。
少し歩くと『メアリーの髪の色のお花発見~』言うて、今度はニオイタチツボスミレの紫色のお花を一輪頂いて、反対側の耳の上に差してくれた。
『ホンマや~、お兄ちゃんの目の色~』先程同様、兄様の頭頂部に差し込んだ。
お! 兄様が動くと二輪のお花がふよんふよんって揺れる。
『お兄ちゃんの頭の上でウチらが仲良~遊んでるみたいや』って笑いながら言うたら『僕らの方が仲良しや』って嬉しそうに言うて、ほっぺにキスしてきた。
兄様と修行のことを話しながら歩いてたら、そのうち師匠の息子のキリカ兄の話になった。
『キリカ兄(9歳)、あの両親の子供だけあって顔が良いうえに運動神経も良くて、最近は性格もチヨネ姉さんに似て男前に育ってきたからな。将来楽しみや』
『ユリ姉(13歳、修行仲間)も最近カッコ良くなってきた言うてたわ。僕らがきてから1人っ子の甘えたな自分が恥ずかしなったんちゃうかって言うてたな』
『ふははは。自分より小っさいお兄ちゃんがやたらしっかりしてるからな。キリカ兄も大変や』
小さな兄弟子が成長していくの喜ばしく思いながら言うたら、
『メアリー……。自分も大概しっかりしてるって自覚しぃや。僕、結構 大変なんやからな』
と、兄様がボソッと呟いた。
『とりあえず、師匠みたいにあちこち誑しこむ男にならんで良かったで』
聞こえへんかったことにした。
『あ~、それな。チヨネ姉さんが言うには、前はモテるって自覚してて結構あざとい仕草とかしてたらしいんやけど、メアリーにズボン脱がされたうえ、その後も全然 男として見てくれへんからプライドがズタボロになって、さらに女の人を手玉に取ってて凄いと尊敬してたオトンもそのメアリーに翻弄されてるし、肝心のメアリーはいうたら、チヨネ姉さんのことをかっこいいって言うてるし……ってことでチヨネ姉さん寄りになったらしいで』
『なるほど~。それやったら、あれやな。今度、師匠のズボン脱がしてみよっか。誑し治るかもしれん』
『メアリー……。一応、師匠、33歳で子持ちやねんから、いくらなんでもそれはアカンで』
『他の人は引くかもしれんけど、チヨネ姉さんにはウケる思うねんけどなぁ~』
『師匠、チヨネ姉さんのことむっちゃ好きやねんし止めたげて!』
『好きな人が喜ぶんやからええやん』
『自分でやろう思てやるんと、勝手に人からやられんのは全然違うから! 師匠からお願いされるまではやったらアカン!!』
『ん~、わかった~。今度、師匠にやってみぃひんか相談してみるわ』
『……そこまでして、やりたいか?』
兄様が呆れた。
後日、師匠に相談したら真っ赤になって、即 却下された。
その上、しばらくの間チヨネ姉さんのいるところではずっと抱っこされた。
……もうちょっと信用してくれてもええんちゃうか?