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2歳 弟子入り志願


 

 【影】に修行とな……?

 そんな話を聞いたからには、覚悟を決めねばなるまい!


「「 プーマ師匠!これからご指導ご鞭撻(べんたつ)のほど、何卒(なにとぞ)宜しくお願い申し上げます! 」」


 兄妹で目をキラキラさせながら土下座、再び!!


「え~と、その前に確認したいのですが……。チヨネを倒した技や、さっき話していた謎の言葉は誰に教わったのですか?」


 苦笑しながら、プーマ師匠が訊いてくる。


「どっちもメアリーだよ。ベッドの上で時々、格闘ごっこしたり受け身の練習したりするの。その時だよ、僕、つま先を踏まれてメアリーに肩を軽く押されただけで後ろに倒れたんだよね。

 僕達まだ小さいから、大きな人を相手にして戦う時はこうしようって、お庭で使用人さん達を見ながらイメージトレーニングしたんだよ。

 あと(あご)を狙うのがいいとか、男の人は股を狙うのがいいとかもメアリーが本から仕入れたんだ。

 ニホンゴはメアリーが考えた僕とメアリーの2人だけにしか分からない言葉なんだよ。秘密の話をする時に使うんだ。あっ! だから、父様には何も教わってないよ」


 兄様が得意気に語った。

 いててててて……プーマ師匠とチヨネ姉さんの視線が刺さる。


「お嬢様、本当に2歳ですか?!」


 チヨネ姉さんに言われた。


「ほんとに、にしゃいだよ。はたらいてにゃいから、いろいろかんがえるじかんがたっぷりあるにょ」


「働いてないから時間があるって……本当に2歳ですか?!」


 今度は、プーマ師匠に言われた。


 あれれ? 何か私、職質受けてるみたいな感じ?

 学生証も車の免許も持ってへんで~。


 しょ〜がないので、


わたしは(私は)ちいしゃいころの(小さい頃の)きおくがにゃいけど(記憶がないけど)おかあしゃまが(お母様が)ゆうにょだから(言うのだから)まちがいにゃく(間違いなく)にしゃいでしゅ(2歳です)


 って言うたら、


「「 今も充分小さい頃です! 」」


 夫婦に声を揃えて言われた。


 ええ~、これ以上、どないせぇっちゅ~ねん。う〜ん……年齢を証明するって、結構 難しいな……。幼児やったら、歯の本数?


「本当にお2人は、幼児とは思えませんわ。先ほどのことも……いくら本にそんなことが書いてあったとしても、自分達が殺されそうな時に使用人の命を1番に考えるなんて有り得ませんよ」


 チヨネ姉さんが呆れたように言う。


「本は関係ないよ。父様と母様がいつも言ってるんだ。人を雇うんだったら、従業員の安全を考えるのが雇い主の義務だって」


 兄様が当然のことのように言うと、


「シンリーの奴、そういうとこはちゃんとしてるんだよな〜」


 嬉しそうにプーマ師匠が言わはった。


「それで? お嬢様は、私達のことを全く信用していないのに1人でここに残って……死ぬつもりだったんですか?」


 チヨネ姉さんが、嫌な質問をしてきはる。


「え〜と、まぁ……最悪の場合……気絶させてから()って下さいとお願いするつもりだったかなぁ……」


 ホンマは麻酔を打ってからが1番ええにゃけど……とか思いながら言うと、


「メアリー! そんなの絶対ダメだからね! そんなことになったら、僕、この2人を探し出して、八つ裂きにして、僕も死ぬからね!」


 兄様が、えらいハードなことを言うてきた。


「兄様、そんなことをされたら私が死ぬ意味がなくなるから止めて!

 いい? 兄様には、娘を無くして沈むお父様とお母様を励まし、2人の笑顔を取り戻すという使命があるんだよ。

それに兄様が人を殺してるところなんて見たくないからね。そんなのは国家憲兵さんに任せればいいの! 全国指名手配して、さっさと捕まえて次の被害者が出ないようにしてもらって!

で、兄様とお父様とお母様が一緒に笑って過ごしてもらうのが私の望みだよ」


 ……思わず言ってしまった。


 前世では、何その綺麗ごと? 殺されたら仇討ちして欲しいって思うにきまってるし。何より(のこ)された人の気が晴れへんわ! って思ってたのに……。

 いざ、身内の兄様が人を殺すとか言うと、そんなん嫌やって思ってしまった。全然知らん人にやってもらうのはええけど、身内にはしてほしくないもんやな……。


「何言ってんの? メアリーがいないのに笑えるわけないよ。何で笑えると思えるの?」


 うわっ、兄様、怒ってる。3歳で目ぇ据わらせるとか止めて欲しいわ。


「す……すぐにとは言わないよ。少しずつでいいよ。私、みんなの笑顔が好きなの。私の所為(せい)でみんなの笑顔が見られなくなるのは嫌だ」


 ちょっとビビりながら説得する。


「死んじゃったら僕達の笑顔、見れないじゃないか! 勝手に死んじゃうメアリーの言うことなんか聞かないよ。僕は僕の気のすむまで犯人を八つ裂きにするし、父様と母様には悪いけど僕も勝手に死ぬよ」


 真っ直ぐ私の目を見て言うてきた。


「ふゔゔぅぅ~、何でそんなこと言うの……兄様のバカ~ァァァ」


 幼児らしく、ダバダバ涙が(あふ)れてくる。

 そりゃ死んだら見れへんよ。でも、笑って欲し~し、自殺なんか(もっ)ての(ほか)や。

 この正論で追い詰めていくやり方……ロジハラってやつか?


「泣いてもダメだよ。メアリーが悪いんだからね! 僕は謝らないから」


 って言いながら、抱きしめて瞼にキスしてくる兄様……怒りながら慰めるという高等技術を使いおる。



「何だ、この2歳児と3歳児。いまどきの幼児はこんななのか?」


「これは、かなり特殊だと思うわよ。そもそも、話の内容の前に、これだけ文章を話す幼児すら(まれ)よね」


「すぐにキスしたり抱きしめるのはシンリーを見て覚えたとして……ナタリーは一体どんな絵本を読み聞かせてたんだ? それとも、これも自分達で読んだ本なのか?」



 キスされながら、ぐずぐず泣いてたら、ボーンボーンと振り子時計が鳴らはった。時計を見たら……11時やん!!


「うわぁっ! もうきゃえりゃないと!」

 涙が引っ込んだ。


「本当だ! メアリー、もう大丈夫?」

 自分が泣かしたくせに優しく訊いてくるかぁ~? って思いながら、

「うん。兄様は足、大丈夫?」

 答えて訊くと、

「ありがとう、大丈夫だよ」

 って、笑って答えてくれた。やっぱ笑顔が1番や!


「プーマ師匠、お昼寝が終わったら、また来ます」

「お茶、ごちそうさまでした」


 立ち上がって、靴を置いてくれはった所へ足を進める。


「えっ、ちょっと2人共、服を着てないわよ」

 チヨネ姉さんに言われて、はたと立ち止まる。ホンマや!

「早く返してください!」

 兄様が慌てて言うた。


「そんなに急がなくても、ここからなら5分程でお屋敷に帰れるぞ」

 プーマ師匠がのんびり言うと、

「それは大人が歩いた場合の話! 僕達はその倍以上かかるんです! それに母様にバレる前に着替えないといけないんだよ!」

 兄様がイライラしながら言う。

 私の足が短いもんで……えろぅすんまへん。


「私が2人を抱えて行くから安心しろ。ナタリーとモモヂ様にも修行のことを相談しないといけないしな」

 プーマ師匠が優しく言った。が、

「「 それはダメ!! 」」

 兄妹の声が揃った。


「修行のことも今回のことも絶対に家には内緒にしてください!」

「お母様に心配かけたくないの!」


「おいおい、そういう訳にはいかないぞ」


 ビックリ顔でプーマ師匠が言う。


 ハッ! 月謝とか入会金か!! アスレチック遊具の使用料とかも別途あるかもしれん!


「おいくらですか? できれば修行用具も使用したいのですが……」


 恐る恐る訊いたら、プーマ師匠、目を見開かはった。


「ちょっと、お嬢様! お金なんか取りませんよ! 【影】の養成や用具にかかる費用は、領費から出ますから!」


 へっ? 影って公務員なんか? 領主に内緒なんちゃうん? 何か隠し経費……ん? 待てよ。修行用具って税金で設置されてるんや。私、まだ納税してへんけど、住民やし勝手に使ってええんちゃうやろか……?


(ちな)みに用具の利用は管理監督者の下でしか認められてませんからね」


 チヨネ姉さんが私達の服の汚れを(はた)きながら、私の顔を見て言わはった。

 偶然? それともエスパー?


「お金の相談をするために行くわけじゃない。子供を預かる以上、親御さんに何をするのか話して、ちゃんと許可をもらわないとダメなんだよ」


 プーマ師匠が(さと)すように言う。

 それはそうなんやけど……。


「わかりました。では弟子入りの話は一旦 保留にします。今は僕達だけで帰って、またあとで来ますので続きはその時に」


 服を着ながら兄様が言うた。

 私は……チヨネ姉さんに着させてもらってる。お手数をおかけします。


「あのなぁ、2人は領主の子供で、しかも幼児なんだぞ。誘拐でもされたらどうするつもりだ。もう少し自覚を持て」


 イライラしてるのかプーマ師匠の言葉遣いが乱れてきた。


「自覚はあるつもりなんだけど……。無いようにみえましたか? 領主の子供の所為(せい)で、さっきまでお2人に殺されると思ってたし……」


 幼児の兄様が冷静に返す。


「いや、まぁそう言われると……むしろ自覚あり過ぎだったけどな。え~、いや、でも、だったら余計、今は送られるべきだろ!」


 ちょっと兄様に流されそうになったが、立て直したプーマ師匠。


「う~ん。そうだな。緊張し続けてたから、今かなり気が抜けてるかも。メアリーが誘拐されたら嫌だな……」


 兄様がぶつぶつ言って、顔を上げ、


「じゃあ、家の近くまで少し離れてついてきてください。家の者には見つからないようにしてくださいね。僕達は庭で遊んでたということなので。よろしくお願いいたします」


 と、結論をだした。


「え~と、午後から、また来るんだよな?」

「そうですね」


 納得したのか、次に話を進めるプーマ師匠。


「そうですねじゃないだろ。ったく……。はぁ~、いいか、15時にお屋敷の外に迎えに行くから、勝手にこっちに来るな。それから、とりあえず、今日のところはナタリーには黙っといてやる。だが、モモヂ様には報告するからな。屋敷にいないことがバレたら大騒ぎになるぞ。いや、もうなってるかもしれない……今すぐ出るぞ!」


 さっきまでのんびりしてたのに急に慌てださはった。


「そっか!モモ爺なら上手く母様を誤魔化してくれそうだね!」

「師匠、名案です!」

 兄様と私の目ぇ、キラキラ〜!



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